JT-60SAとは?日本が誇る最先端核融合向けプラズマ実験装置を解説①
この記事では、JT-60SAという、日本が誇る核融合向けプラズマ実験装置を紹介します。
JT-60SAは、2023年12月1日に運転開始式典が盛大に行われ、大ニュースとなりました。日本からは、高市科学技術政策大臣、盛山文部科学大臣らがこの式典に出席。またヨーロッパからも権威ある方々を招待した式典でした。世界の核融合研究がまた一歩先に進むことへの期待が込められた式典でした。
この記事は、JT-60SA解説シリーズ第1回目で、この装置の概要について解説。どのような装置なのか、日本のどこにあって建設された目的は何かなど。概要を大まかに紹介します。
JT-60SAはどんな特徴・姿の装置?
まずは、JT-60SAがどんな特徴・姿の装置かを紹介します。(写真や画像はタップで拡大できます)
上の写真が、この装置の全景写真となります。1つ目の写真の中心にある丸いところで、核融合研究のための超高温・高密度のプラズマを作ります。
この装置の読み方は、JT-60SA(じぇーてぃーろくじゅうえすえー)と言います。核融合の研究者の間では、「ろくまる」の愛称で呼ばれることもよくあります。
この装置は、日本一大きなトカマク型核融合向けプラズマ実験装置です。
トカマク型装置については、Q&A-5話「トカマク型核融合炉」で解説しています。そちらを読んでみて下さい。
JT-60SAはどこにある?
この実験装置は、茨城県那珂市の那珂核融合研究所にあります。那珂核融合研究所は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(略称:QST)の研究施設です。
以下に、那珂核融合研究所の所在地マップを掲載します。
JT-60SAはなぜ注目されている?
この記事の冒頭で、2023年12月1日の運転開始式典に、日本の大臣らやヨーロッパの権威ある方々を招待したとお伝えしました。
ではなぜ、この装置が注目を集めているのか。この点を少し深堀します。
ITERのサテライトトカマクとしての役割
実は、JT-60SAは、国際熱核融合実験炉「ITER」の「サテライトトカマク」として建設された装置です。
そもそも、ITER(イーター)とは、日本を含む世界の大国7極が協力して、フランスに建設中のトカマク型核融合炉。ITERは、完成すれぱ世界最大の核融合実験炉となります。(以下の動画や記事で、ITERについて解説しています。)
ITERの目的は、主に以下があります。
- 巨大トカマク型装置でのトカマクプラズマの研究
- 巨大トカマク型装置での”核融合反応を伴う”プラズマの研究
- 核融合反応を発電に利用するために、確認が必要な工学技術の検証
このようにITERだけで様々なことを研究・検証しようとしていますが、1つの装置だけでやることが多数存在します。
そこで、JT-60SAを日本に建設し、主に①のプラズマ研究をITERより先行して行います。そして、得られたデータや知見をITERと共有し、ITERでの実験を加速させるのが、これを建設した目的です。
日本とヨーロッパが協力して建設
JT-60SAは日本にありますが、建設は日本とヨーロッパが協力して行いました。特に、重要部品の大型超伝導コイルなどをヨーロッパが製作し、日本に輸送しました。
この記事の上から2つ目の図をもう一度見てみてください。装置の構造の絵の中に、日本の国旗とEUの旗が描かれています。それぞれの旗が描かれた装置の製作を担当したという意味です。
世界最先端の大型トカマク型装置
JT-60SAは、世界でも最先端の核融合関連技術を詰め込んだ大型装置です。
そもそも、大型の核融合向け装置を建設するためには、費用と技術力の両方が必要。そのため、このような大型の装置を建設されることは滅多にないことです。
逆に言えば、このような大型核融合向け実験装置の建設は、世界の核融合研究を一気に進展させる可能性を秘めています。トカマク型と呼ばれる方式において装置の「大きさ」は、核融合反応を伴うプラズマを、長時間保持するために必要な要素です。しかしながら、費用と技術力の理由から、世界には大型装置は数えるほどしかない。そのため、このような大型装置の建設が注目を浴びるのです。
JT-60SAは、JT-60Uの後継機
実は、JT-60SAの建設前は、同じ場所にJT-60Uという装置がありました。上の図のように、オレンジ色の梁が特徴的です。JT-60Uもまた、「世界三大トカマク」と呼ばれるほど世界では有名な、そして日本最大の、トカマク型核融合向けプラズマ実験装置でした。
JT-60Uは、1996年にイオン温度5.2億度という温度を作り出し、ギネス世界記録に載ったことがあります。その他にも、世界の核融合研究を進展させる研究結果を多数創出しました。
そしてその後、JT-60Uに最先端の核融合向け技術を盛り込んで、SAにグレードアップしようという話になり、建設が開始した経緯があります。ある種、装置の「リフォーム」と言った方がしっくり来るかもしれません。
那珂核融合研究所の敷地や建物、電力系統はそのまま生かす。最先端の核融合向けプラズマ実験を行うために、装置の部分を丸ごと作り変えたのです。
なお、”SA”は、”Super Advanced”「超先進的な」の略です。
どんなところが最先端なのかは、また別の記事で紹介したいと思います。
(ちなみに、JT-60Uの”U”は”Upgrade”のUと言われています。)
2023年、JT-60SA始動
JT-60Uが実験を終えたのは、2008年8月。そこから、SAの建設プロジェクトが開始し、建設を終えたのが2020年3月でした。
しかし、建設完了後に、一部の機器に不良箇所が見つかりました。その調査と修復、そして再度の健全性確認試験が必要でしたが、2023年5月に作業を完了し、統合運転試験を再開。そして、この装置として初のトカマクプラズマ生成を、2023年10月23日に確認しました。これにより、核融合向けプラズマ試験を行っていけるという確認がとれました。
そして、それ以降は着々とプラズマ実験を進め始めました。そこで、2023年12月1日に、JT-60SA運転開始式典が大々的に行われたわけです。
なお、式典の様子(プラズマ実験のデモンストレーションもあります)は、以下のQSTのYouTubeで配信されています。
昨日の核融合向けプラズマ実験装置JT-60SA(茨城県那珂市)の運転開始式典は、
— 核融合の先生 (@fusion_teacher) December 2, 2023
高市科学技術政策大臣と盛山文部科学大臣のW大臣に加え、自民党の衆参議員にヨーロッパからの多数の来賓も出席し盛大に行われました。
政府の中でも核融合を後押しする動きが高まっています。https://t.co/qS08cKA6ox
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参考 QSTホームページへのリンク
QST 量子エネルギー分野: 量子エネルギー研究分野
那珂核融合研究所 パンフレットなど: 那珂研究所
JT-60SAの実験計画について: リサーチプラン
リサーチプラン QST及び文科省の概要資料 2016年: リサーチプランについて (mext.go.jp)
◆JT-60SAの概要 まとめ◆
- 世界でも最先端の大型トカマク型核融合向けプラズマ実験装置
- ITERの「サテライトトカマク」
- 日欧で協力し、那珂核融合研究所に建設
- 過去に多数の研究成果を出した、JT-60Uをさらにグレードアップした装置
JT-60SAのさらに詳細については、次の記事で解説したいと思います。
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