トカマク型核融合炉という種類の核融合装置について解説
この記事では、「トカマク型核融合炉」という、核融合発電を目指す装置の中では主流のタイプのものについて解説します。
1つ前のQ&A-4話では、サイクロトロン運動の現象を利用し、磁場を使って、プラズマ状態の原子核・電子の動きをコントロールすることができると説明しました。プラズマ状態の原子核・電子は、磁場の方向を表す磁力線に巻き付くように移動します。まるで、ピッコロの魔貫光殺砲のように…!
磁場を使ったコントロールで、超高温のプラズマを周囲の物から浮かせると共に、高密度のプラズマ状態を作り出すことが、人工核融合炉へのカギです。
さて、この記事の主役でもあるトカマク型核融合炉は、磁場でコントロールし核融合プラズマを作るための世界での研究・試行錯誤の末、誕生しました。この記事では、そんなトカマク型核融合炉の原理について解説したいと思います。
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核融合プラズマを磁場でコントロールするには
1つ前の記事:Q&A-4話で、「プラズマは磁力線に巻き付くように進む」とわかったと思います。この現象を、サイクロトロン運動といいます。そのため、この磁力線の向きを変えて、核融合プラズマの動きをコントロールできます。
では、磁力線(つまり磁場)はどのように発生させるかというと、巨大なコイルを使います。コイルとは、電磁石。つまり、電気を流した時だけ、磁場を発生させます。
コイルは、難しい装置ではありません。銅線をくるくる巻くだけで完成。あとは、銅線に強い電気を流せば流すほど、巻いた中心に強い磁場が発生します。
なぜコイルが磁場を生み出すかというと、Q&A-4話の中で、「電気と磁場の関係」の章でも説明しましたが、銅線に電気を流すと微弱な磁場が発生します。
コイルは、銅線をくるくる巻いた回数分だけ、その微弱な磁場を何倍にも強めているのです。
核融合プラズマを磁場で閉じ込める研究
コイルを使って強い磁場を作り、核融合プラズマを長時間維持する方法の研究は、世界各国で長い間行われてきました。どのような磁場構造を作るかで、プラズマの動きが大きく変わるためです。
おさらいになりますが、人工核融合を起こすためのポイントは、高温のプラズマを、高い密度の状態にし、長時間維持することです。
磁場の役割は、プラズマを上手く1箇所に集めて高い密度の状態にすること。
核融合プラズマの研究者の間ではこれを、「(磁場で)核融合プラズマを閉じ込める」と表現します。
そして、核融合プラズマの良い閉じ込め状態を作り出すために、様々な磁場構造が試されてきました。また、その磁場を作るためのコイルの配置も、同時に考えられてきました。
初期の核融合研究で考えられた磁場構造
核融合プラズマを閉じ込める磁場構造の研究は古く。1940年頃から世界各国で行われてきました。そして、現在研究の主流である型「トカマク型」の誕生は、1960年代半ばでした。ここまでの磁場構造検討の歴史と、その一例について簡単に解説します。
単純ミラー型
まずは、初期の頃に提案された磁場とコイルの置き方について。それは次のような「単純ミラー型」と呼ばれるもの。
2つのリング状のコイルに電流を流して磁場を作ると、プラズマとなった原子・電子たちが磁力線に沿って動きつつも、2つのコイルの中心部に滞留します。
しかし、これだけでは原子核・電子が外に逃げやすく、十分に核融合プラズマを閉じ込めることができないことがわかりました。
ドーナツ形状の磁場(: トーラス型)
その後、このミラー型のコイルをドーナツ状に並べた磁場構造も考えられました。(トーラス状磁場と呼ばれることがあります。)
このように、ドーナツ状に並べることで、たくさんのコイルを使った強い磁場でプラズマを閉じ込められます。また、磁力線がドーナツの中をサーキット周回するようになるので、原子核・電子が逃げにくくなります。
なお、ドーナツのような円環の形のことを、英語で “torus”(トーラス)と言います。
ただし、このドーナツ状の磁場で、また新たな問題がありました。話が物理的で難しいので、簡単に述べると、プラズマ中の原子核・電子がそれぞれドーナツ状の上・下に分離する(荷電分離と言う)現象が起こり、そのせいでプラズマの閉じ込めがうまくいかなくなるとわかったのです。
トカマク型
このドーナツ構造磁場での原子核・電子の上下分離をなくすために、また別のアイデアが登場しました。
このアイデアでは、磁場の構造をただのドーナツ状にするのではなく、磁場にひねりを加えて、ドーナツの中で原子核と電子をかき混ぜようというアイデアです。
ひねりを加えるとは、下の図で、青色の矢印の磁場を追加すること意味します。
これは、ドーナツの写真を使って解説すると、ちょうどチュロスの溝線のように真っすぐだったトーラス状磁場を、
フレンチクルーラーのようにひねりのある磁場に変えるというもの。このアイデアが、トカマク型の磁場構造を誕生させました。
トカマク型の磁場構造を作るためには
これまでの円形コイルを並べるだけでは、トカマク型の磁場構造を作るには足りません。フレンチクルーラーのようなひねりのある磁場を作るために、トカマク型ではプラズマの中に電気の流れ(下の図の赤線の流れ)を作ります。
プラズマの中の電気の流れのことを、プラズマ電流と言います。
電気の流れるところ、その周りに円形の磁場ができることは、この記事の冒頭でもお話ししましたが、電気の流れる場所がプラズマの中であっても同じです。プラズマ中に電気の流れを作ると、プラズマの周囲に円形の磁場ができて、これがフレンチクルーラーのようなひねりを作り出すのです。
プラズマ電流をどう流すか
では、プラズマ電流をどうやって流すのかについてですが、一言で説明すると、「スマホの置くだけ充電」とほぼ同じ原理で流します。
そのため、プラズマに電流を流すための装置(上の図で言うところの、スマホ充電スタンド側と同じ役割をするもの)を、ドーナツの中心に設置したのが、トカマクなのです。
なお、このプラズマに電流を流すための装置(スマホ充電スタンドの役割をする)ですが、
名前を「セントラル・ソレノイドコイル(CSコイルと略します)」と言って、これもコイルなんです。
一方、トーラス状磁場を作るための、ドーナツ状に設置されるコイルは、「トロイダル磁場コイル(TFコイルと略します)」と呼びます。
その他にも役割が違うコイルがトカマクにはたくさん必要で、コイルだらけなんですが、また別のお話で解説しようと思います。
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トカマク型核融合炉の研究
ロシアから、トカマク型という核融合炉の方式が発案されてから、トカマクの研究は世界中の特に先進的国で行われるようになりました。トカマクの名称は、ロシア語のток(電流),камера(容器),магнит(磁気),катчшка(コイル)の頭文字に由来するといわれています。
トカマク型が発案された当時、世界では注目を集めました。しかし、人工核融合プラズマを閉じ込めるには、まだまだ程遠い性能でした。
しかし、トカマク型を使ったプラズマの研究が少しずつ進むにつれて、様々なことが発見されてきました。
例えば、核融合プラズマをよく閉じ込めるために、プラズマのドーナツ断面の形をもっと〇じゃなくてDの字にした方がいいとか、そういった理論・発見の積み重ねのおかげで、トカマク型で核融合発電所が作れそうだという見込みが得られるようになったのです。
国際熱核融合実験炉 ITER (イーター)
その後、実際にトカマク型核融合炉で発電することを実証する国際プロジェクトが立ち上がりました。
それが、国際熱核融合実験炉 ITER (イーター)です。
ITERを基にした、トカマク型核融合炉の仕組みについては、実験炉ITERとは のカテゴリで解説をしたいと思います。
まとめ
◆トカマク型核融合 まとめ◆
- 核融合炉の研究では、コイルを使って磁場を発生させ、その磁場を使ってプラズマを閉じ込める様々な方法が考えられてきた。
- コイルをドーナツ状に並べ、さらにプラズマ電流を流すことで、フレンチクルーラーのような状態の磁場を作り、プラズマを閉じ込めるのが、トカマク型である。
- 国際熱核融合実験炉 ITER (イーター)も、トカマク型である。
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