日本の核融合戦略・政策は?ITER・原型炉関連の活動概要紹介(2023年1月現在)
この記事では、日本での核融合の研究開発状況・政策戦略・進行中のプロジェクトについて、関連する研究機関を含めて簡単な概略を紹介していきます。
この記事では主に、ITERや原型炉に関する活動に焦点を当てて、その他については別の記事で紹介したいと思います。
日本の核融合戦略・政策の検討状況
企業向けカテゴリの記事でも解説しているとおり、核融合はカーボンニュートラル・SDGs に貢献する技術の1つです。
2022年7月より、岸田首相がGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議というものを立ち上げ、2050年カーボンニュートラル実現に向けた戦略を有識者と議論してきました。
核融合については、そのGX実行会議の中でも触れられております。その後は、内閣府の「統合イノベーション戦略推進会議」にて有識者会議が行われる話が進みました。
核融合戦略有識者会議は、高市早苗内閣府特命担当大臣の主導の下、2022年には9月30日、11月4日、12月6日の3回が開催されました。今のところは会議の途中なので、具体的な戦略が発表されているわけではありません。しかし、今後も有識者会議が開催され、核融合の実用化に向けて、官民の協力体制を強化する戦略が2023年春に策定されるようです。今後の政府からの発表を要注視です。
ITERプロジェクト
これについては、当サイトのカテゴリ「実験炉ITERとは」で詳しく紹介していきますが、国際協力の下で大型のトカマク型核融合実験炉を建設するプロジェクトです。ITER(イーター)は、その核融合炉の名称です。
日本、EU、中国、インド、韓国、アメリカ、ロシアの7極が、主要機器を製作分担して、フランスに1基の、これまでにない大型核融合炉ITERを建設中です。建設費用は、3兆円※とも言われています。現在の世界の核融合研究開発の中では、これほど巨大なプロジェクトは、過去に存在しませんでした。そのため、今、一番注目を集めています。実験の開始は、現在のところ2025年以降と予定されています。
この中でも日本は、かつてITERの建設を青森県六ヶ所村に誘致したほど、核融合に対して意欲的でした。残念ながら、建設自体はフランスに決定しましたが、その日本の意欲性が評価されました。その結果、次の節で紹介するBA活動が日本で行われることが決まりました。
なお、ITER計画もBA活動についても、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)が日本の担当国内機関(窓口)として、研究開発活動を行っています。
ITERのBroader Approach(BA活動)
BA活動とは、日本語では「幅広いアプローチ」と訳されます。これは、ITER計画を補完・支援する位置付けで行われる研究開発活動です。すなわち、ITERではできない・予定されていない研究開発を、BA活動の中で行います。それによって、ITERを含む核融合分野の研究開発を加速する狙いがあります。
日本で行われているBA活動には、JT-60SA計画を筆頭に、以下の章で紹介するプロジェクトがあります。これらの活動はすべて、QSTが実施を担当する機関となり進められています。
JT-60SA(ジェーティーろくまるエスエー)計画
JT-60SAは、QSTの那珂核融合研究所に、2020年に建設されたばかりの、核融合向けの先進プラズマ実験装置です。2022年現在は、プラズマ実験開始に向けた準備を進めています。
フランスのITERと並行して、日本のJT-60SAで先進的なプラズマ実験を行い、プラズマの制御に関する知見を共有します。それによって、ITERからの研究成果創出を加速させる計画です。
建設されたばかりと言っても、元々はJT-60Uという核融合向けの大型プラズマ実験装置が存在しました。それを一旦解体し、超伝導コイル等の最新機器を導入し直して、グレードアップした形です。
かつてのJT-60Uは、1996年になんとプラズマ温度5億2千万度を達成し、人類が地上で作った世界最高の温度としてギネスブックにも載っていました。その他にも、核融合に関する有用な実験データを多数輩出しました。その後継であるJT-60SAもまた、ITERに次ぐ巨大核融合研究プロジェクトとして、世界からも注目を集めています。
IFMIF(イフミフ)
IFMIFは、International Fusion Materials Irradiation Facility:国際核融合材料照射施設の略称です。(この施設は、いわゆる「加速器」です。)
核融合反応では、核分裂反応を利用する原子力発電所よりも、さらに大きなエネルギーを持つ中性子線(という放射線)を発生します。このような強力な中性子線を金属が浴び続けると、金属が脆くなってしまうのですが、実際にどのくらいの速さで脆くなるのかなど、影響はまだ確かめられたことがありません。それは、そもそも核融合以外で、このような中性子が発生することがないからです。
IFMIFは、核融合反応により発生する中性子の発生を模擬し、実際に金属材料に浴びさせる試験などができる施設を建設する計画です。とは言っても、2023年1月現在は、IFMIFのような施設を本当に建設できるか、その前段階で実験研究データを取得中です。
その実験・研究が行われているのが、QSTの六ヶ所研究所です。
その他の日本でのITER BA活動
ITERのブランケット研究開発、ITER遠隔実験、スーパーコンピューターによる核融合プラズマシミュレーションなどが、QSTの六ヶ所研究所で行われています。
ブランケットは、核融合炉の炉心の内壁ほぼ全面に配置される、金属の壁です。約1億度のプラズマに真空を挟んで対面しています。ブランケットには、核融合反応で発生する中性子のエネルギーを、発電機を回すための沸騰水に吸収させる機能が必要になります。また、このブランケットの中で、核融合の燃料である三重水素(トリチウムとも呼ばれる)を生成する機能も必要です。
このように、ブランケットは、プラズマの熱と強力な中性子線に耐えつつ、中性子エネルギーを水に吸収させ、さらに燃料を生成するというマルチなタスクをこなさなければなりません。核融合において非常に重要なパーツですが、この研究開発もまた、QSTの六ヶ所研究所で行われているということです。
その他の活動も含めて、QST 六ヶ所研究所での核融合に関する活動概要が、以下のサイトにあります。興味がある方は、見てみてください。
日本での原型炉(DEMO炉)設計活動
ITER計画は、日本を含む世界7極による共同研究開発プロジェクトで、核融合反応の制御が問題なく行えるかを確かめることを目指しています。
ITERプロジェクトが無事終了すると、いよいよ現実の発電に利用できるかを確かめる段階に移行します。実際に発電する仕組みを構築したり、建設や発電コストが他の発電より高くなり過ぎないかを確認したりする次のプロジェクトが必要です。これを、「原型炉」と呼びます。(ITERは実験炉。)また、原型炉を、DEMO炉:「デモろ」 とも呼んでいます。
このような原型炉プロジェクトは、それぞれの国が国家プロジェクトとして独力で進める必要があります。日本もそうです。
この日本の原型炉の設計が、QSTの六ヶ所研究所で行われています。また、以下のサイトに、興味深いプロジェクト紹介動画もあるので、見てみてください。
◆日本の核融合開発・政策の現状(2023年1月) まとめ◆
- 高市早苗内閣府特命担当大臣の主導の下、核融合戦略有識者会議が行われている。戦略発表は同年春頃。
- 日本はITERプロジェクト参画と共に、JT-60SAを中心とするBA活動を日本国内で、QSTが中心となって実施。
- 実験炉ITERの後継プロジェクトとして、原型炉(DEMO炉)の設計が進行中。
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