核融合はカーボンニュートラルやSDGsとどう関係しているかを解説
近年、核融合投資が加速しています。背景には、カーボンニュートラル、SDGsが関係しています。この記事では、なぜこれらが関係するのか、その理由を解説します。
核融合発電は、エネルギー資源枯渇の問題に貢献する次世代の発電方式として長年の研究が続けられてきていますが、実用炉の建設にはまだ至っていません。
しかし現在、核融合を取り巻く環境は変わりつつあります。著名な投資家が投資を宣言したり、数々の核融合スタートアップが日本でも世界でも立ち上がっています。その背景には、ウクライナ戦争等によるエネルギー資源の高騰もありますが、一方で、カーボンニュートラルやSDGsといった活動が世界各国で活発化していることも挙げられます。
この記事では、なぜ、核融合がカーボンニュートラルやSDGsと関係するのかについて、解説したいと思います。
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カーボンニュートラル・SDGsに関係する核融合炉の特徴
核融合発電炉は、まだ実用化には至っていませんが、エネルギー資源枯渇の問題やカーボンニュートラル、SDGsに貢献する次世代の原子力発電炉として注目をされています。このように注目されるのには、核融合炉が次のような特徴を持つ設計思想で考えられているためです。
① 核融合炉は、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない
核融合炉は、実はあまりよく知られていませんが、原子力発電の一種なのです。ですが、現在世界中にある「原発」と言われている施設とは炉の構造も、使う燃料も全く異なります。ただ、発電時に二酸化炭素を排出しないという原発の特徴は、核融合炉も同じく有しています。そのため、核融合発電の実用化を目指すことは、二酸化炭素の排出量を減らしていくこと、ひいてはカーボンニュートラル実現への貢献に繋がるのです。
② 核融合炉稼働に使う初期装填燃料は海水から作る
核融合炉では、燃料に使うのは水素の仲間である重水素と三重水素です。重水素は、水素の中でもレアキャラ。三重水素は、水素の中でも超激レアキャラだと思って下さい。つまり、それだけ地球上では見つけにくい水素たちなのです。
ただ、とても見つけにくいものの、重水素と三重水素自体は、地球上にたくさんあります。一番身近なところでは、水の分子(H2O)の中のHは水素ですから、海を見れば水素だらけ。そして当然その中には、重水素と三重水素もいるということになります。
つまり、もし重水素と三重水素を、海水中から大量に分離する安くて良い方法があれば、核融合の燃料は海水から採取できるということになります。これが、核融合が夢のエネルギー源と言われる理由です。
ただ、現状では、三重水素を大量に安く分離する方法がないというのが欠点です。(重水素は、既に大量分離する方法が確ある。)そのため、海水から得る三重水素燃料は核融合炉の初期起動時に利用し、それ以降は次のような方法で燃料を得る機能が、核融合炉に考えられました。
③ 核融合発電所内で、燃料(三重水素)を生産する
どのような方法で初回起動以降の三重水素を得るかというと、核融合発電をするときに、同時に三重水素を人工的に作り出すことが考えられたのです。
燃料の重水素と三重水素が核融合反応を起こすとき、中性子という放射線が出ます。核融合炉では、この中性子のエネルギーを水に吸収させることで沸騰させ、そのときの蒸気で発電機を動かします。ですが、中性子が水に吸収される前に、リチウム6という金属に中性子を当てると、リチウム6と中性子から三重水素とヘリウムが生成されるという現象が起こるのです。
このときに生成される三重水素を、燃料に回す仕組みを作ることで、核融合炉は発電所の中で電気も作りつつ、燃料も作ることができる。そんな核融合を実現させようと、研究が進められているのです。
④ SDGsの観点からは、核融合炉の開発はエネルギー資源枯渇の問題に貢献する
上記で説明した核融合炉の特徴は、今、世界中で注目されているSDGsの活動に貢献できます。
SDGsとは、国連が提唱する「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals) 」のこと。
簡単に言うと、未来に問題を先送りにしない開発・発展を推進していこうという活動です。例えばエネルギー問題に関して言えば、現在の経済発展のために石油を使い尽くすと、将来私たちの子どもや孫の世代の人々が使う石油や電力を確保できないかもしれません。そのため石油を効率よく使う技術や、石油に代わる新しい燃料の開発、あるいは石油に頼らずとも生活できる環境づくりといった活動が奨励されるのです。
核融合炉が実現した場合、例えば先ほども紹介したように、燃料を発電所内で生産できる。つまり、「自給自足」で発電燃料を賄うので、化石燃料などといった他のエネルギー資源を消費し枯渇させることがなくなります。従って、核融合炉の技術開発はSDGsに繋がっていくと言えるでしょう。
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⑤ エネルギー資源の略奪などをきっかけにする戦争を減らしていける
先ほども紹介した、核融合炉の特徴である、「海水から燃料を取る。」「燃料を発電所内で作り、自給自足する。」ということは、実は戦争の抑止にもつながります。
どういうことかというと、核融合炉が実現し、全世界にたくさんの核融合炉が建設された状況を考えてみてください。すると、燃料は海水や自給自足で作ることができるので、エネルギー資源の奪い合いが国同士で起こることがなくなります。
2022年の2月に始まったロシア-ウクライナ戦争でもそうですが、戦争の長期化に伴い、ロシアはウクライナの電力設備を狙った攻撃を増やしていきました。また、ノルドストリームというロシアからヨーロッパへの天然ガスパイプラインの破壊といったことも起こりました。このように、エネルギー資源を豊富に保有する国が資源を持たない国を苦しめたり、あるいはエネルギー資源を持たない国が他国のエネルギー資源を狙うといったことも、戦争では起こります。エネルギー資源の略奪戦争が、実際に今起こっているのです。
核融合炉は、こういったエネルギー資源の略奪戦争を抑止してくれる期待の技術でもあるのです。
⑥ 高レベル放射性廃棄物を出さない
発電所から出る廃棄物の問題は、SDGs:持続可能性を考える上で重要な観点となります。
現在の世界に多数存在している原子力発電所の最大の問題は、高レベル放射性廃棄物が出てしまうことです。高レベル放射性廃棄物の中には、目には見えない強力な放射線を放出し、人々の命を脅かす物質も含まれています。そのため、これらが人々の生活圏に流出しないようにどのように未来永劫管理していくかは、原子力発電所を利用する上でずっと向き合わなければならない問題です。
核融合炉においても、三重水素は放射性物質ですし、核反応時には中性子という放射性物質が放出されます。そのため、これらに触れて放射能汚染された機器などは、やがては放射性廃棄物として管理され廃棄されなければいけません。
ただし、既存の原子力発電所と比較して、核融合炉には、廃棄物の観点から1つのメリットがあります。それは、核融合炉の場合、低レベルの放射性廃棄物は出てしまうが、高レベルの放射性廃棄物は出さないということです。高レベルと低レベルの放射性廃棄物では、人体への危険度が大きく変わってきます(もちろん、低レベル放射性廃棄物の方が危険が小さい)。
発電所から出る廃棄物の危険度が下がれば、処理や管理の方法も幅が広がりますし、場合によっては核融合炉の建屋などに使われたコンクリートを再利用といった話も出てくるかもしれません。
まとめ
この記事では、なぜ、核融合がカーボンニュートラルやSDGsと関係するのかについて解説しました。そして、核融合に使われる燃料の特徴や、放射性廃棄物の観点から、カーボンニュートラルやSDGsに貢献できる技術であることを説明しました。
核融合に関する投資や、世界的に技術開発競争が行われる理由について、少し理解を深めてもらえましたか。核融合炉内の燃料サイクルなど、より詳細な技術は、別の記事で解説していきたいと思います。
◆核融合がカーボンニュートラルやSDGsと関係する理由 まとめ◆
- 核融合炉は、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない
- 核融合炉稼働に使う初期装填燃料は海水から作る
- 核融合発電所内で、燃料(三重水素)を生産する
- SDGsの観点からは、核融合炉の開発はエネルギー資源枯渇の問題に貢献する
- エネルギー資源の略奪などをきっかけにする戦争を減らしていける
- 高レベル放射性廃棄物を出さない
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