実は中国の核融合技術レベルは世界トップクラス!中国の開発状況を解説(2024年7月時点)
この記事では、あまり知られていない中国における核融合の研究開発状況について、大まかに解説します。
近年、どの技術分野においても発展が目覚ましい中国。世界トップクラスの立ち位置にいる技術も少なくありませんが、実は核融合においても例外ではありません。
中国においては、国の研究機関主導で、実験装置や原型炉の建設に向けた計画が強力に進められています。もはや、中国をはじめ米国や英国などは、日本よりも核融合開発計画・取組みで一歩先に行こうとしています。
では、その核融合トップレベルの一角である中国は、どのような研究開発状況にあるのか。この記事で大まかに解説します。
ASIPP(中国科学院・等離子体物理研究所)
ASIPPは、”Institute of Plasma Physics, Chinese Academy of Sciences”の略です。漢字では、「等離子体物理研究所」。これは、プラズマ物理研究所という意味です。
この研究所は、中国科学院という、いわゆる中国の「国の研究機関」の1つです。
ASIPPは、1978年 9月に設立され、核融合発電を実現するための基礎研究を行っている研究所となります。特に、トカマク型のアプローチからの核融合発電を目指しています。
このASIPPが、中国の核融合研究開発を国家的にけん引する主体であり、この記事でこれから説明するEASTやBEST、CFETRといった種々のプロジェクトを推進し、CRAFTと呼ばれる施設の運営にも携わっています。
なお、EASTやCRAFTを含むASIPPの研究施設群がある場所は、中国安徽省の合肥市蜀山区の蜀山湖に面する、科学島と呼ばれている半島です。
なお、核融合発電の仕組みをそもそも知らないという方は、こちらの記事を先に読んでみてください。
EAST(Experimental Advanced Superconducting Tokamak)
EASTは、中国で設計・開発された世界初の超伝導コイルを使用したトカマク型装置です。2007年から研究運用が既に開始されています。
一般的に、超伝導コイルを使用した核融合関係の実験装置というのは、先進的な実験結果を排出するためには必須と言われています。なぜなら、一般的な銅製のコイルと比べて、超伝導コイルならばより強い磁場を用いた実験ができるためです。
ただし、超伝導コイル自体の設計や製造が難しいこともありますが、さらに絶対零度に近い-269℃前後まで冷やして運用する必要があり冷却装置も大がかりになります。
そのような超伝導コイルを使用したトカマクを、2000年代に世界で初めて建設したというのは、中国の技術力の高さが伺えます。
EASTは、日本のJT-60SAのように、中国を代表するトカマク型実験装置であると言えるでしょう。
世界トップクラスの実験結果を叩き出すEAST
EASTは、実験結果においても世界トップクラスの成果を出しています。最近では、2023年の4月12日に、403秒のプラズマ運転に成功しています。トカマク型装置での、このプラズマ保持時間の長さは世界記録として、ニュースとなりました。
トカマク型装置における400秒以上のプラズマ長時間保持というのは、国際熱核融合実験炉ITERの目的の1つでもあります。EASTは、ITERと比べると小型の装置ですが、それでもこのように世界初の実験成果を出せるほど、中国の核融合研究レベルは世界トップクラスとなっているのです。
CFETR (Chinese Fusion Engineering Testing Reactor)
CFETRは、まだ計画段階ではありますが、一言で説明すると、「中国版ITER」。
ITERと同クラスのトカマク型核融合炉を建設し、ITERに近い実験的実証・工学的実証を行う装置です。
つまり、ITERと同等のものを自国だけで建設できるかを確かめようというのです。
ASIPPのホームページ上の情報(http://english.ipp.cas.cn/Research/CRAFT/)によると、CFETRの目標を次のように紹介しています。
- 最初に最大200MWの核融合エネルギー生産を実証し、最終的には1GWを超えるDEMO関連出力レベルに到達
- トリチウム増殖比(TBR)> 1によるトリチウム自給自足
- 核融合による正味電力生成
- CFETRの断面積と寸法は、主半径R = 7.2m、副半径a = 2.2m
- その後、磁石システム、真空システム、トリチウム増殖ブランケット、ダイバータ、遠隔操作および保守システムを含む CFETR のエンジニアリング設計をCFETR 国家設計チームが実施。
大きな進歩が遂げられましたが、依然として大きな課題が残る。
さらに詳しくは、次に紹介する論文で紹介されています。英語ですが、気になる方は是非確認してみてください。
また、他のサイトでは、このCFETR工学設計のために1000億円規模の予算が確保され(ITER予算とは別枠)たという報告もあります。短期間で多額の資金を投入できる政治主導力も、中国の強みと言えます。
既に始まっているCFETR建設の準備
先進国の協力でITERを建設することすらなかなかうまく進まないのに(ITERスケジュールの記事参照)、中国1国だけでITER規模の装置を建設できるのか、と疑問に思う方もいるかもしれません。
ですが、私たちの想像よりもはるかに迅速な決断とプロジェクトの推進により、CFETR建設に向けた準備は既に始まっているのです。それが、次に紹介する「CRAFT」です。
CRAFT (Comprehensive Research Facility for Fusion Technology)
CRAFTは、Comprehensive Research Facility for Fusion Technologyの略称です。
この施設は、核融合技術の総合研究施設であり、国家の大型科学技術施設の1つです。
ASIPPのWebサイトによるとCRAFTの目的は、1つ前の章で紹介したCFETRの建設に向けて、様々な活動を行う技術開発拠点となっています。
- 核融合DEMO(実証炉)レベルの主要技術の探求と習得
- CFETRの主要材料、部品、システムの製造方法と標準の確立
- CFETRの主要なプロトタイプシステムとRAMI※の構築(※おそらくReference Architecture Model Industrieの略化)
- CFETRの建設を成功させるための方法、技術、システムのテストと検証、次世代の核融合科学者、エンジニア、マネージャーの育成
CRAFTの建設は2019年9月20日に開始され、中央政府と地方政府の共同資金により5年8か月間続きます。ということは、2025年半ばまで継続するということになります。
そして上の写真にあるとおり、既に施設の外観は出来上がっており、その内部でも様々な工学的活動が行われています。
CRAFTで行われている様々な試作・準備
CRAFTの中で何が行われているかも見ていきましょう。実は、ネット上の様々なニュース記事で、その活動が既に紹介されたりしています。
以下の図は、次の中国科学院のニュース記事で紹介されているものです。(Reference links of the pictures below)
- Fusion Energy Research Facility under Construction in Hefei, E China—-Chinese Academy of Sciences (cas.cn)
- China Sets to Build Fusion Energy Research Facility—-Chinese Academy of Sciences (cas.cn)
「現在、300 人以上の科学者とエンジニアが、CRAFTに協力しています。
CRAFT は ITER の技術だけでなく、将来大きな課題と努力を伴って開発される必要のある技術も使用します。完成すれば、核融合分野の 実証炉関連技術を備えた、総合的な研究プラットフォームになります。また、核融合技術を産業応用にスピンオフするための便利な施設を提供することもできます。
EAST 実験と、CFETR のエンジニアリング設計と共に、CRAFT は将来の CFETR 建設を成功させるための強固な技術基盤を提供します。」
とASIPPではCRAFTについて紹介しています。
BEST
「BEST」は、2020年代後半に立ち上がる(と言われている)、燃焼プラズマ実験超伝導トカマクです。
実は詳細な情報はWeb検索でも上手く入手できなかったため、何がどこまで進んでいるのか、それとも実は進んでいないのか状況がよくわかっていません。
また情報が見つかり次第、ここに追加しようと思います。が、もし本当にBESTまで計画が順調に進んでいるとしたら。ここまでで紹介した、EASTでの実験、CFETRの工学設計、CRAFTでの準備活動に加えて、さらにBESTとは、政府主導による驚異的な核融合への注力度になります。
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PFPP (Prototype Fusion Power Plant)
PFPPは、2060年頃までに建設を計画している、中国のトカマク型核融合発電炉のプロトタイプ(試作品)であると、以下の論文で紹介されています。(詳細な設計情報はまだない)
PFPPの位置付けとしては、原型炉か、実証炉に当たるでしょう。これらの炉の位置付けの違いについては、以下の記事で解説しています。
なお、上の図には、EAST ➤ ITER ➤ CFETR ➤ PFPP という、中国のトカマク型核融合炉開発のロードマップが示されています。
既に、中国では国の研究機関の主導により、ここまでの将来ビジョンが描かれているというわけです。
終わりに
中国では、この記事で紹介したように、トカマク型に関する様々な核融合関連プロジェクトが進んでいます。
しかしながら、実は一般に公開されている情報というのはそれほど多くありません。そのため、もしかすると中国の核融合研究開発の現場では、さらに物事が進んでいるかもしれません。
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