ITERの目的・使命について、技術的に実現することを解説
この記事では、2023年2月現在、フランスで建設が進められている核融合実験炉ITER(イーター)の目的について解説します。
ITERは国際協力の下で建設が進められいる、人類の歴史上最大の核融合実験炉です。
ですが、ただ大きさのためにITERが注目されているわけではありません。ITERは、人類の核融合発電の実現に向けて、重要な技術的マイルストーンを達成するために存在します。
では、一体ITERで何を行おうとしているのか?これまでの核融合向けプラズマ実験装置とは何が違うのか?この記事で解説します。
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ITERのことは、ITERのWebサイトで知ることができる
まず、ITERのことを色々調べたいと思ったとき、また、ITERの情報を得たいときは、ITER機構のWebサイトにアクセスしましょう。「ITER機構」とは、ITERの建設・実験を執り行う組織です。このITER機構が、日本を含むITERプロジェクト参加各国らのリーダーとなり連携して、フランスでITERの建設を進めています。ちなみに、ITER機構と連携している日本の組織は、量子科学技術研究開発機構(QST)です。
なお、ITER機構のWebサイトのリンクは、以下にあります。
また、Twitterやfacebook・Youtubeなどを使った情報発信も、ITER機構が積極的に行っています。
ITERの目的
ITERプロジェクトを進める目的については、以下のITER機構Webページ内のリンク先に掲載されています。
そして、ITERの目的が大きく5つあることが述べられています。その5つとは、それぞれ次のようになっています。
1) Achieve a deuterium-tritium plasma in which the fusion conditions are sustained mostly by internal fusion heating
核融合状態が、ほぼ内部核融合加熱によって持続する、重水素-三重水素プラズマの達成
2) Generate 500 MW of fusion power in its plasma for long pulses
長パルスでの500 MW核融合出力の生成
3) Contribute to the demonstration of the integrated operation of technologies for a fusion power plant
核融合発電プラントのためのテクノロジーの統合運転模擬への貢献
4) Test tritium breeding
三重水素(トリチウム)増殖の試験
5) Demonstrate the safety characteristics of a fusion device
核融合装置の安全特性の証明
それぞれの目的について解説します。
1) 核融合プラズマの制御を思い通りに行う
ITERの1つ目の目的は、
1) Achieve a deuterium-tritium plasma in which the fusion conditions are sustained mostly by internal fusion heating
核融合状態が、ほぼ内部核融合加熱によって持続する、重水素-三重水素プラズマの達成
でしたが、どういう目的なのか。
より細かく言うと、この中には2つの実現したいことが含まれています。それらを1)-①, ②とすると、次のようになります。
1)-① 重水素と三重水素を使って、核融合プラズマを生成する
重水素と三重水素(トリチウム)は核融合の燃料。しかし、そうでありながら、実は世界でもこれらを混ぜて燃料とし、核融合プラズマ実験が行われたことはほとんどありません。ほとんどの場合、トリチウムは使わず、その代わりにヘリウムや水素・重水素などが使われます。
この理由は2つあります。1つは、三重水素が希少かつ高価格であること。1gの価格が数百万円以上※とも言われており、なかなか実験に簡単には利用できません。
もう1つは、ひとたび三重水素を使うとなると、大量の放射線を伴う実験になるためです。放射線を扱うとなると、それを外部に出さないための技術的防護や方策、管理区域の設定などが必要になります。
そのため、設計・実験計画段階から、高価な三重水素を計画的に扱う意図がある実験施設でなければ、三重水素を大規模に使う実験ができなかったのです。
その点、ITERは、三重水素を使った実験を計画している実験炉です。そして、重水素−三重水素の核融合プラズマの実験を成功させて、データを広く取得しようとしています。
1)-② 核融合で生じる熱を使って、反応を維持する
(この節でお話することは、Q&A-9 核融合炉で1億度にプラズマ加熱する方法?でさらに詳しく解説しています)
重水素−三重水素を使った実験では、核融合反応を起こすために、1億度以上にプラズマを加熱する必要があります。そのために様々な加熱機器を用いますが、その時に大量の電力を消費してしまうことが、解決すべき課題の1つとなっています。
一方、核融合が起こせるようになると、反応時に大きな熱が発生するようになります。そこで、この核融合反応熱を反応の持続に利用する(自己加熱する)ことで、加熱機器の電力消費を無くしていくことを目指しています。これが、「核融合状態が、ほぼ内部核融合加熱によって持続する」という状態なのです。これを、「自己点火」と呼びます。
核融合炉は発電所ですから、自分自身で大量の電力を消費していては意味がありません。そのため、この問題の解決は重要なのです。
先ほども述べたように、重水素−三重水素を使って、実際に核融合を起こす実験は、世界でもほとんど例がありません。そのため、自己加熱を上手くコントロールできるかどうかは、まだ実験的に十分に確かめられていません。そこで、ITERでは、これを確かめることを目的に掲げているという訳です。
2) 核融合プラズマを長時間持続する
ITERの2つ目の目的は、
2) Generate 500 MW of fusion power in its plasma for long pulses
長パルスでの500 MW核融合出力の生成
となっています。これをもう少し簡単に言うと、「核融合反応を長時間持続すること」になります。
なぜ、長時間持続ができるかどうかを目的に掲げているのか?それを知るためには、まず核融合プラズマを作ることの難しさを知る必要があるので、少しお話します。
核融合プラズマは、実は非常に不安定で、崩壊しないように状態を維持するのが大変です。私たちの身近なもので例えるなら、巨大なシャボン玉が割れないように保っていると思って下さい。
特に、温度を1億度まで近づけて、プラズマの密度も高めていき、核融合反応が起きやすい状態に近づけるほど、プラズマは崩壊しやすくなります。核融合反応が起きやすい状態のプラズマをせっかく作っても、これまでの実験では数秒程度で崩壊してしまうことばかりでした。
よく、核融合では何が難しいのか分からない、といった質問を受けます。これは説明が非常に難しいと常々思うのですが、とにかく核融合の技術課題克服とは、「ふわふわ浮かせた巨大シャボン玉を、永遠に割れないように、コントロールする方法を編み出すことに近い」と思ってください。巨大なシャボン玉を割れないように、数十分とか保てた事例って、今までありませんよね?
核融合プラズマが崩壊してしまうと、そこで核融合炉での発電も止まってしまいます。(核反応が自然に止まるということは、安全面では良い事ではありますが、)プラズマがいちいち崩壊を繰り返していては、発電所として十分に機能しません。そのために、核融合プラズマを長時間維持することは、解決しなければならない課題の1つです。
ただ、核融合プラズマとシャボン玉が違うのは、核融合プラズマの場合、不安定になる原因が発生したら、それが拡大しないうちに原因除去できる場合もあるということです。この事実は、これまで世界中で行われてきた核融合理論の構築と仮説・実験・実験データ解析の積み重ねから分かってきていて、現在もなお研究が進められています。主に加熱機器などを使って不安原因を除去をします。
また、プラズマの大きさを大きくすることも、核融合プラズマの安定度を増すことが分かっています。ITERでは、これまでに作られた例がない大きさの核融合プラズマを作るため、プラズマを長時間維持できることが期待されています。
シャボン玉では何が起きている?
次章に入る前に、シャボン玉で起きていることについて少し考えてみましょう。
シャボン玉って、球状のイメージがありますが実際はそうではなく、表面はでこぼこしていて、常にプルプルプルプルしていて。すぐにでも崩壊しそうな状態をなんとか保っていますが、やっぱりすぐに崩壊します。でこぼこしたりプルプルするのは、空気の対流や風圧の影響だったり、温度の影響だったり、膜表面のあるところで起きた波が他の場所まで伝播(でんぱ)したりと、あの中で様々な現象が起こっているため。シャボン玉のような繊細な薄皮は、そういった私たちがあまり肌で感じない影響を、視覚的に見せてくれます。
核融合プラズマもまた、その中で様々な現象が起きています。電気的・電磁平衡的な現象・熱的な現象・粒子及び流体的な現象・拡散や輸送などなど、各個単体でも複雑なものがさらに絡み合って起きているため、研究者たちの頭を悩ませてきました。
3) 核融合炉を発電所として運転するノウハウを蓄積する
ITERの3つ目の目的は、
3) Contribute to the demonstration of the integrated operation of technologies for a fusion power plant
核融合発電プラントのためのテクノロジーの統合運転模擬への貢献
です。
ITERでは、将来の核融合発電所と同じ規模の大きさを作ります。先ほども述べましたが、実はこれまでの研究の蓄積により、(ざっくり言うと)プラズマの大きさが大きいほど、プラズマの安定感が増すことが分かってきました。
しかしながら、大きいプラズマを作るためには、大きな装置が必要になります。装置が大きくなるということは、それだけ建設コストもかかるということ。そのため、一国の資金だけでは、将来の核融合発電所と同レベルの大きさのプラズマを作る装置を作ることは難しかったのです。
そのような中で、国際協力で核融合実験炉を作ろうと立ち上がったのが、ITERプロジェクトなのです。
ITERでは、将来の核融合発電所と同様のサイズのプラズマを作ります。また、将来の核融合発電所に必要となるプラズマ加熱装置、計測機器、極低温冷却設備、こういった装置や設備を統合コントロールするコントロールシステムなどを備えています。そのため、核融合炉を発電所として運転するノウハウを蓄積できるというわけです。
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4) 三重水素(トリチウム)増殖のテスト
ITERの4つ目の目的は、
4) Test tritium breeding
三重水素(トリチウム)増殖の試験
です。
先ほども登場している三重水素(トリチウム)ですが、核融合に使われる燃料でありながら、グラム単価が数百万円とも言われている水素の仲間です。そもそもなぜこんなに高価なのかというと、自然界にはほとんど存在しないため。また、人工的に作ろうとしても、強力な放射線を用いなければならないため、核反応が起こる原子力発電所の炉心内のような環境でしか生成されないのです。
ですが、核融合炉も核反応を用いるところ。そこで、将来の核融合発電所では、核融合炉の中で三重水素を生成して、燃料を自給自足しようと考えています。
将来の核融合発電所での、三重水素生成の具体的なプロセス
将来の核融合発電所での、三重水素生成の具体的なプロセスは、以下のとおりです。(以下の図を用いて説明します。)
- まず、下図の左の方に、ITERと同じトカマク型核融合炉の図があります。ピンク色のドーナツ形プラズマの周囲を囲んでいる緑色の壁を「ブランケット」と言います。ブランケットは、図の真ん中にあるような、四角いブロックがたくさん並べられて構成されます。
- プラズマの中で重水素-三重水素(トリチウム)の核融合が起こると、強いエネルギーを持った中性子とヘリウムが生まれます。中性子はブランケットに向かって飛び出し、ブランケットの中を通過しようとします。
- 下の図の、右側の方を見てください。ブランケットの中には、ベリリウムとリチウム※という材料が含まれています。そして、中性子がブランケットの中を通過しようとするとき、これらに衝突します。中性子がベリリウムという材料に衝突すると、弱いエネルギーを持った2つ作られます。
つまり、これまでの①~③の工程で、中性子がたくさん作られるわけです。 - それらの中性子が、リチウム※という材料に衝突すると、三重水素(トリチウム)が作られるというわけです。これを「トリチウム増殖」と呼んでいます。
リチウムというのは金属で、私たちの身近でも携帯電話の電池やモバイルバッテリーなどに使われています。ただ、核融合用に使うのは、少し特別なリチウムではありますが、それでも私たちの身の回りで使われている材料から、トリチウムが作られるのです。
ITERでは、試験用のブランケットを製作して、トリチウムの増殖が実際にできるか確認する試験を行います。
5) 核融合炉を安全に運転する
ITERの5つ目の目的は、
5) Demonstrate the safety characteristics of a fusion device
核融合装置の安全特性の証明
です。
先程からもお伝えしていますが、希少な三重水素(トリチウム)を核融合プラズマ実験に本格的に用いるのは、ITERが世界で初めてとなります。つまり、核融合反応をこれまでにない回数起こす装置も、ITERが初めてというわけです。核融合反応が起こると放射線が出るため、外部に漏出しないように注意する必要があります。
ITER機構は、フランス政府から核物質の運用者として、ライセンスを取得しています。また、ITERは、核安全の申請に対する厳格な検査を通過した、世界でも初の核融合実験施設です。
この申請通りに、放射性物質などの管理に厳重に対応しながら、ITERの実験は進められていく予定です。
核融合炉の安全性について
核融合炉は、よく、今既にある原子力発電所より安全と言われていますが、その理由について少し触れます。
そもそも、核融合炉と今既にある原子力発電所(=核分裂炉)の違いについては、Q&A-6話を見てもらいたいのですが、安全性に関しては次のような違いがあります。
- 今既にある原子力発電所は、ほったらかしにすると核分裂反応が起き続け、エネルギーが出続けてしまう燃料を使っている。そのエネルギーが出すぎないように調整しながら、原子炉の中で使っている。
- 核融合炉は、先ほどのシャボン玉の話のように、反応を起こしてエネルギーを生み出すことがそもそも難しく、条件が揃わないと核融合反応は勝手に止まる
このように、核分裂反応の起き過ぎを抑えながら使っている現在の原子力発電所と比べて、核融合反応を維持することが難しい核融合炉の方が、ほったらかしになっても安全と言えるということになります。
◆核融合実験炉ITERの目的・使命とは? まとめ◆
ITERの主な目的は、次の5つ:
- 核融合プラズマ[=三重水素(トリチウム)を用いたプラズマ]の実験を行い、自己加熱を含めた制御を思い通りに行い、自己点火を目指す
- 核融合プラズマを長時間持続する
- 核融合炉を発電所として運転するノウハウを蓄積する
- 三重水素(トリチウム)増殖のテスト
- 核融合炉を安全に運転する
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