トカマク型核融合炉って炉心設計はどうやってやっている?の疑問にお答えします
この記事では、トカマク型核融合の設計方法について、どのようなことを考えながらなされるのか解説します。
皆さんは(核融合を知っている人もそうでない人も)、核融合炉の設計ってどうやるのか気になったことはありませんか?核融合を知ると、「人工太陽か、なかなかすごいな。」と思われる方が多いかと思いますが、「核融合炉の炉心設計ってどうしてるんだろう」と思う方は少ないと思います。
この記事で、核融合業界の中でも特に研究が進んでいる「トカマク型核融合炉」について、その炉心設計の際に考えることをざっくり解説したいと思います。
(なお、この記事は少し難しいので、Q&A-1〜5話と、トカマク型核融合の炉心構造の記事を先にお読み下さい)
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トカマク型核融合炉の設計は「ラジアルビルド」で考える
まず、トカマク型核融合炉の炉心構造の記事についてはお読み頂けたでしょうか?この記事を読んで頂くと分かりますが、トカマク型核融合炉の炉心には様々な機器がギュウギュウ詰めになってひしめき合っています。以下の図は、ITERという国際核融合実験炉の炉心周辺機器の説明図です。
ここで、「様々な機器」とは、真空容器・超伝導コイル(トロイダルコイル・センターソレノイドコイル)・ブランケット・プラズマ加熱装置・ダイバータなどなどです。以降、これらの機器のことをまとめて「炉心周辺機器」と呼ぶことにします。
トカマク型核融合炉はドーナツの形をしていますが、「炉心周辺機器」の配置は、ドーナツのどの断面で見てもほぼ同じです。そこで、以下の図のような「ドーナツを輪切りにした断面」を使って設計を考えます。この設計の考え方を、ラジアルビルド(または、ラディアルビルド)といいます。
ラジアル・ビルドの見方
このドーナツ断面で何を見ているのかというと、それぞれの機器の厚み(必要なスペース)を見ています。上の図では、下の方に「Δ」(デルタと呼びます)の記号が多数ありますが、これが各機器の取る厚み:スペースを指します。また、Rはドーナツ中心からの距離です。ドーナツの中心が、図の一番左端ということになります。
上の図の見方としては、トカマク型核融合炉の場合、図の左端のドーナツ中心から見ると、まずCSコイル(:センターソレノイドコイル)が位置します。そこから外側に行くにつれて、次にTFコイル(:トロイダル・フィールドコイル)の内側が位置して、その次に真空容器、そして遮蔽体とブランケット、そしてプラズマ部分という順番になっています。プラズマよりさらに外側に行くと、ドーナツ構造の関係で、ブランケット→遮蔽体→真空容器→TFコイルといったように、プラズマの内側にあるものが再度逆の順番で現れます。(ただし、CSコイルは除く。)
ラジアル・ビルドで何を考えるのか
そもそも、核融合炉においては、炉心の大きさを小さくコンパクトにできると理想的です。なぜなら、もし炉心が大きくなると、炉心に使う「炉心周辺機器」も大きくなります。すると、建設コストが高くなってしまいます。上の図で建設コストを抑えたい場合は、ΔとRはすべてができるだけ小さい方が、炉心がコンパクトになり良いということです。
そこで、なるべく炉心が小さくコンパクトになるように設計を考えます。ですが、炉心がコンパクトになるということは、「炉心周辺機器」も小さく・薄く、スペースを考えて設計しなければいけません。また同様に、プラズマ自体も小さく設計しなければいけません。
まとめると、トカマク型核融合炉の炉心をコンパクトに設計しようとすることにより、次の2つの考えるべき課題が生じるのです。
- プラズマ自体を小さく設計しなければいけない
- 「炉心周辺機器」を小さく、薄い厚みで設計しなければいけない
コンパクトにして、核融合炉として機能するかが問題
しかし問題は、そのように炉心周辺機器を小さく・薄く、プラズマも小さくと考えたときに、果たして核融合炉としてちゃんと機能するかどうかです。例えば極端な例を考えると、TFコイルの厚さ(Δ)を1 mmにするとしましょう。1mmなら、核融合炉全体もずいぶん小さくできそうです。しかし問題は、そんなペラペラの厚さのコイルで、果たして核融合プラズマを閉じ込めるための超強力な磁場を作れるかどうか。結論から言うと無理です。そうであれば、そのプラズマを閉じ込めるコイルを造るために、工学的に一体どれだけのスペースが必要なのかを検討する必要があります。それが設計するということです。
トカマク型核融合炉のプラズマの設計とは?
1つ前の章で、プラズマの設計という言葉が出てきました。プラズマについては、既に「Q&A-3 核融合とプラズマの関係」を読まれた方であれば、高温の気体で物質の第4の状態とお分かりかと思います。では、トカマク型核融合炉のプラズマの設計とはどういう意味か。それは、核融合炉の中でどういったパラメータのプラズマを作るかを決めることです。
核融合出力
プラズマのパラメータというのは、例えば、核融合出力です。
核融合出力とは、プラズマ中で起こる核融合反応によって生じる、熱エネルギーの大きさのことです。この熱エネルギーを電気エネルギーに換えて取り出す(つまり発電する)のが、核融合発電所なのです。そのため、核融合出力を決めるということは、その核融合発電所でどれだけの電気を作るかを決めることになります。
プラズマの大きさ
また、プラズマの大きさ・形状もまた、プラズマのパラメータです。決定した核融合出力に見合う大きさのプラズマと、その形状を決めます。
プラズマの大きさ・形状を決めるということは、そのプラズマを閉じ込めるための磁場や、プラズマを核融合温度(1億度以上)まで加熱するための加熱装置の出力などを決めることにもなります。
研究の世界に踏み込みと、核融合出力やプラズマの大きさ・形状以外にも、非常に複雑なプラズマのパラメータを決めなければいけません。そのとき、プラズマの内部で起こる複雑な物理現象までをも過去の研究から予測して、決定する必要があります。
そのため、プラズマパラメータを決めるということは簡単なことではありません。核融合プラズマの物理を熟知している研究者が多数いないとできない研究者集団の技です。それほど、核融合プラズマの物理現象は極めて複雑なのです。
ラジアルビルドの検討を繰り返す
炉心周辺機器のスペースと、作りたい核融合プラズマのパラメータは、簡単に両立しません。そのため、両立するまで設計を検討し直します。
各炉心周辺機器と、プラズマをいかにコンパクトにできるか、またギュウギュウ詰めの中でのスペースのせめぎ合いを検討するに当たっては、各機器とプラズマそれぞれのスペシャリストの意見をもらい、検討をしてもらうことが必要です。核融合炉を設計することは、どれだけ知識がある方でも、1人ではできないのです。
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核融合炉心の中は、超特殊環境であることを忘れてはいけない
1つ、核融合炉の炉心設計の難しさを知ってもらうために、核融合炉の炉心は超特殊環境であることの説明を補足しておきます。
炉心ではプラズマと炉心周辺機器がひしめき合う中、それぞれが置かれている環境が極端です。どういうことかと言うと、
核融合炉 炉心の 極端な環境の例:
- 核融合プラズマ … 1億度以上の温度。そして、中性子線と言う大量の放射線を発する
- 超伝導コイル … 極低温環境:-269℃~-196℃前後で稼働させる
- 炉心全体 … 高真空・高磁場・高電磁力がかかる環境にある
つまり、コンパクトに設計しようとする炉心で、上記のような温度・放射線・高真空・高磁場・高電磁力などのことを同時に考えなければいけないということです。
核融合炉を設計するツールはある?
これまで説明したように、核融合炉を設計するには様々なことを同時に考えなければいけません。ですが、そういった検討を簡便化してくれるシミュレーションツールも存在します。
国際核融合実験炉ITERでは、炉心の成立性解析に「Ansys」というツールが使われています。核融合炉の3Dモデルを作りながら、解析もできるツールの様です。(筆者は見聞きしたことしかなく、これ以上の説明は難しいのですが。)
どんな発電所でもそうかもしれませんが、核融合炉でもパソコンのシミュレーションツールを使った設計を駆使して、このような複雑な設計の問題を解決しています。
核融合炉の設計の例
最後に、核融合炉の設計に関して、インターネット上から入手できる資料を紹介します。(ただ、専門書レベルの資料なので、ちょっと難しいです…。)
テキスト 核融合炉
プラズマ・核融合学会誌が2011年に発効した特集号。当時の核融合炉研究開発に関する最新情報が、プラズマ・炉心周辺機器のみならず得られる。核融合炉1基分をこれ1冊で丸ごと勉強できる。(230ページほど)
核融合原型炉 SlimCS の概念設計
日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門 (現在は、量子科学技術研究開発機構 に核融合関連部門は移管)で、2010年に検討された、日本独自の核融合原型炉の設計に関する報告書(150ページ程)。
実際に建設可能なレベルまで、核融合炉の設計を落とし込んでいるという点で、教科書理論とは異なる実用的な情報が得られる。
◆トカマク型核融合炉の炉心設計方法 まとめ◆
- 核融合炉の炉心設計は、「ラジアルビルド」で考える
- コンパクトな炉心の方が建設費は抑えられるが、プラズマ及び炉心周辺機器の成立性の検討が必要
- 核融合炉の炉心での温度(プラズマは1億度/超伝導コイルは-269℃~-196℃ほど)・放射線・高真空・高磁場・高電磁力などのことを同時に考えなければいけない
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