ついに核融合が日本で国を挙げて動き出す!核融合国家戦略とは?
この記事では、日本が2023年4月に決定した、「核融合国家戦略」について解説。ポイントは、「核融合の産業化」。
日本の歴史上初の核融合国家戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」はこちら:
https://www8.cao.go.jp/cstp/fusion/fusion_senryaku.pdf
日本での核融合国家戦略の策定は、日本の歴史上でも初めてのこと。これはつまり、核融合が1つのエネルギー研究分野という域を越えて、日本のエネルギー供給の一翼を将来担う技術として、政府に定められたことになります。
今後、この国家戦略に従って、政府が核融合技術開発を全面バックアップしていきます。その国家戦略の中身とは?この記事で紹介していきます。
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2023年4月14日、日本初の核融合戦略を政府が正式決定、高市早苗大臣が表明
2023年4月14日、次世代のエネルギー源として期待される核融合について、政府は日本初の開発戦略を正式に決定。所管する高市経済安全保障担当大臣は「産業化の推進を図るなど多面的なアプローチを展開し、実用化を加速できるようにする」と述べました。
この日、「統合イノベーション戦略推進会議(第15回)」が内閣府で開催され、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が了承されました。
そして、その了承されたフュージョンエネルギー・イノベーション戦略については、以下の「内閣府 核融合戦略」のホームページに掲載されています。
この記事では、上の図及び上記のリンク先にある、「核融合戦略」に関する資料の内容について、核融合技術開発を取り巻く世界情勢を含めて大まかに解説したいと思います。
↓↓タップして、図を拡大できます↓↓
核融合からフュージョンエネルギーへ
まず、この国家戦略の中では、「核融合」のことを「フュージョンエネルギー」と呼んでいます。
理由の1つは、現在の原子力発電で使われる「核分裂」と明確に違う表示を使うことで、混同を避けるためです。
別の理由は、英国・米国においては核融合のことを学術用語としての“ ニュークリア フュ ージョン(Nuclear Fusion) ” を使っていること。また、エネルギー分野では “ フュージョン” と呼称していること。核融合エネルギーをフュージョンエネルギーと戦略の中で表現することで、諸外国に対しても日本が核融合国家戦略を決定したことを分かりやすく示す狙いがあります。
日本初の核融合国家戦略が目指すのは、「フュージョンエネルギーの産業化」
今回決定された日本初の核融合国家戦略の中では、次のことがビジョンとして掲げられると冒頭で書かれています。
この先10年を見据えた戦略として、「世界の次世代エネルギーであるフュージョンエネルギーの実用化に向け、技術的優位性を活かして市場の勝ち筋を掴む、“ フュージョンエネルギーの産業化” 」 をビジョンに掲げる。
つまり企業が、核融合炉関連装置や、核融合炉建設技術を商品とするような、「核融合の産業化」が日本の国家戦略の骨子と言えます。
どうして核融合の「産業化」を目指す国家戦略なのか?
実は、数年前まで日本では、国立研究機関や大学などでしか核融合の研究開発が行われてきませんでした。つまり、核融合は当時、企業などが「産業」として扱うものではなかったのです。
その主な理由は、核融合で発電までできるかどうかの目処が立っていないためです。これは、日本だけの話ではありません。2023年4月現在もまだ、世界で核融合発電を実証した国も機関もありません。
ITERプロジェクトの結果を待つ予定だった
しかし世界で何も動いていないわけではありません。その核融合要素技術を実証するプロジェクトが、現在、フランスで建設中の核融合実験炉”ITER”国際プロジェクトです。ITERではおよそ2050年頃までに、核融合発電のための要素技術実証を一通り行うスケジュールが立てられています。実際にITERで発電するわけではないのですが、核融合で発電を行うために最低限必要な技術開発や試験をITERで行います。日本を含む世界の主要先進国がITERに参画するとともに、そのプロジェクトの行く末もまた、世界中から見守られています。
核融合炉ほど巨大で複雑・かつ莫大な費用(ITERでは3兆円とも言われている)がかかる技術が、まだR&Dの技術実証前の段階にある。そのことが、民間企業の核融合への参入を妨げる要因となっていました。そして、まずはITERの実証が無事に終わるのを見届けてから産業化を進めようと、日本の政府も考えていたのだと思います。
予期せず起こった核融合ベンチャー多数出現と、投資家らによる大規模投資
ところが近年では、エネルギー安全保障やカーボンニュートラルなど、様々な背景を理由に核融合への投資が活発化。その資金を元手に、独自の核融合実証を民間だけでやって、そのまま商用の核融合発電炉まで建設を目指そうとするベンチャー企業が先進国(特に欧米)で続々と誕生しています。ベンチャー企業の中には、ITERを凌ぐ速さで、2030年代の商用核融合発電炉実現を目指すものも。
この日経さんの記事はすごく良くて、
— 核融合の先生 (@fusion_teacher) February 27, 2023
核融合スタートアップ世界マップと、
上位資金調達企業の簡単な表が
付いていますが、
これだけ見ても核融合の世界民間への
広がりがわかりやすい pic.twitter.com/jVTytp5UwE
このように予期せず、核融合は諸外国で、産業化が進み始めているのです。いえ、始めているのではなく、すでに産業として確立しています。
このまま日本が「核融合産業化」の世界の波に置いて行かれると、日本の研究機関・大学が保有する核融合研究・技術開発の成果と、それに携わった企業が保有するノウハウを輸出に生かす機会を逸してしまうのです。
現在、日本の中でも核融合スタートアップ企業は数社存在します。ただ、欧米と比較するとその数は少ない。日本政府はそういった核融合ベンチャー・スタートアップ企業を日本で増やすための国内体制整備を構築しようと戦略を掲げたのです。
フュージョンエネルギー・イノベーション戦略における3つの主軸
記事の冒頭でもお見せした上の図は、フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の概要が1枚にまとめられたものです。この図では緑色で囲まれた領域が3つあるように、この戦略には大きく3つの軸があります。
★ フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の3つの軸 ★
- フュージョンインダストリーの育成戦略 … 産業育成
- フュージョンテクノロジーの開発戦略 … 技術開発
- フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の推進体制 … プロモーション
なお現時点では、これら3つの軸よりももう1段詳しく書き下したところまで、この核融合戦略の中で記述されております。以降の章で、その内容について簡単に紹介します。
フュージョンインダストリーの育成戦略 … 産業育成
「核融合の産業育成」の観点からは、政府は次のような活動を検討しているようです。
特に、新しく立ち上げようとしている「一般社団法人核融合産業協議会」に注目。どのような役割を担う組織とするのか、誰を参画会員とするのか、筆者としては気になるところです。
- フュージョンエネルギーの社会的位置づけ(すなわち、核融合発電を電力系統の中でどのような電源として扱うか)を明確にする
- 産業の予見性を高めるため、発電実証時期(すなわち、原型炉の建設時期)を早期に明確化する
- フュージョンエネルギーに関する技術マップ及び産業マップの作成
- 一般社団法人核融合産業協議会(仮)の令和5年度設立を目指す
- 民間企業が保有する技術シーズと産業ニーズのギャップを埋める支援
- 核融合の安全規制・標準化に係る同志国間での議論への参画
- 核融合固有の安全性等を踏まえた安全確保の基本的な考え方の策定
フュージョンテクノロジーの開発戦略 … 技術開発
「核融合技術開発」の観点から、戦略として政府が検討している活動は以下のようなものです。
- ITER計画/BA活動を通じてコア技術を獲得していく(現在進行中)
- 将来の原型炉開発を見据えた研究開発 … 民間企業の原型炉開発参画も促す
- 核融合の学術研究を引き続き推進
- ゲームチェンジャーとなりうる小型化・高度化等の独創的な新興技術の支援策強化
フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の推進体制 … プロモーション
今回策定する国家戦略を、推進力を持って産学官連携で取り組むため、戦略を推進する枠組構築にも力を入れていくようです。
- 内閣府(科学技術・イノベーション推進事務局)が政府の司令塔となり、フュージョンエネルギーの実用化というイノベーションの実現に向けて戦略を推進
- 原型炉開発に向けてQSTを中心に、アカデミアや民間企業を結集して技術開発を実施する体制、民間企業を育成する体制を構築
- ITER計画/BA活動等で培った技術の伝承・開発や産業化、人材育成を見据えたフュージョンテクノロジー・イノベーション拠点をQSTに設立
- 将来のキャリアパスを明確化し、フュージョンエネルギーに携わる人材を産学官で計画的に育成(他国人材も確保)
- アウトリーチ活動により国民の理解を深める
核融合戦略の紹介 終わりに
ここまでで、新規決定された日本の核融合戦略:フュージョンエネルギー・イノベーション戦略について紹介しました。「フュージョンエネルギーの産業化(民間参入)」をビジョンに掲げ、政府主導でそれを形成していくとのことでした。
なお、日本の歴史上初の核融合戦略ということで、内容についてはざっくりとしたものが多く、アクションの具体化は引き続き課題かと見られます。一方で、核融合産業協議会・民間企業の原型炉開発参画・フュージョンテクノロジー・イノベーション拠点など、一部の戦略案には具体的な喫緊のアクションが少し見えているものもあります。
今後、核融合戦略に関する政府の検討は速度を上げて進んでいくものと見られます。核融合分野への参画に興味がある企業の方々がおられましたら、今後の政府の動向を当サイトの記事あるいはニュースなどで追いかけていきましょう。
◆核融合国家戦略(2023年4月決定、日本歴史上初) まとめ◆
「フュージョンエネルギー(:核融合)の産業化」を推し進めるために、以下の①~③の方向性を決定
- フュージョンインダストリーの育成戦略 … 産業育成
- フュージョンテクノロジーの開発戦略 … 技術開発
- フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の推進体制 … プロモーション
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