技術のルールを制した者は市場を制す!規格・標準について解説
この記事では、技術のルールである「規格・標準」というものを解説したいと思います。
皆さんは、「規格」「標準」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?いきなり核融合と関係なく何?と思われたかもしれません。
実際、現在は核融合とはあまり関係がありません。しかし、今後必ず関係していきます。なぜなら、「規格」「標準」は、技術や産業のルールなんです。皆さんは、知らず知らずのうちに「規格」「標準」に囲まれて生活しているんですよ。
また、規格・標準を制した者(企業)は、市場を制し、大きな利益を作ることができます。核融合もまた、今はまだ規格・標準がないだけで、今後はそういったものが出来上がっていきます。その時に、どれだけその企業の要望をルールに入れ込むことができるかで、市場の広がり方が大きく変わるのです。
そんな、ビジネスにも超重要な規格・標準とはどのようなものか、この記事で理解していって下さい。
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規格・標準とは? 物作りやサービスにもルールがあることをご存じ?
「規格」とか「標準」とか、いきなり出てきてもよくわからない!という方々が多数と思います。それもそのはず、なぜならこういったものは、皆さんの目の見えないところで仕事をしています。
言うなれば、これらは産業における「ルール」です。
スポーツで言うと、例えばバスケットのリングの高さ、バレーのネットの高さ、サッカーのゴールの大きさには、世界中に周知されているルールがありますよね。産業、つまり物作りや、サービス、通信などなど…にも、ルールがあるのです。例えば、
- ルールがあるから、ルールに従って作ったねじは、どの会社が作っても、きちんとねじ穴にはまります。
- ルールに従って電波を飛ばしてる携帯電話会社は、他の携帯電話会社とつながります。
- ルールがあるから、メーカーが違っても様々な電子機器が、USBで充電できます。
地球上には、たくさんの国があって、たくさんの色々な国の言語とそれを話す人々がいて、その人々皆さんが様々な仕事をして、色々な物が作られていますよね。人も物も、とてもたくさんいる。そんな複雑な世の中ですが、私たちの生活に支障がなく、物やサービスを利用できているのは、そういったものがルールに従って作られているからなのです。
このルールを、「規格」とか「標準」と言ったりします。英語では「Standard(スタンダード)」と呼びます。
「ルール」の役割
では、「ルール」とは、どのような役割を果たすものでしょうか?これを、バスケットボールというスポーツで説明しましょう(管理人は、バスケ大好きだったので)。
バスケットゴールのリングの直径サイズは、公益財団法人日本バスケットボール協会が定める規定の“2020 Basketball Equipment”で、次のように450 mmと定められています。
この規定というのが、ルールのことですね。日本のバスケットボールには、こういうルール文書があって、普通はこのルールに基づいて日本中の体育館のバスケットリングが作られている。そのため、日本のバスケットボールプレイヤーの皆さんは、全国どこでも同じようにバスケットボールを楽しめるわけです。
国内ルールと国際ルール
じゃあ、外国に行ったら、同じようにバスケットボールを楽しめるでしょうか??
はい、楽しめます。
FIBA (International Basketball Federation)という国際的なバスケットボール組織があって、そもそもここで、世界統一のバスケットボールのルールが決められています。このFIBAが作った国際ルールに日本も従っているので、FIBAが決めたリングの大きさと、日本バスケットボール協会が決めたリングの大きさは同じです。また、他の国も国際ルールに従います。
ですから、日本人が海外に行っても同じようにバスケットを楽しめますし、逆に外国人が日本に来ても、いつもと同じようにバスケットを楽しめます。
ちなみに、FIBAのルールでは、リングのサイズは次の図のように記されています。日本の図とまったく一緒ですね。
余談ですが、大人用のバスケットボールのリングの高さは、3050 mm、つまり3メートル5センチということも、国際的なルールとして決められています。
ルール=規格・標準があれば、世界に広がる
ここまでで、バスケットボールを題材に、ルールの役割をお伝えしました。つまりルールがあることで、日本中とか世界中とかいった、たくさんの人々が、そのスポーツをどこでも楽しめるようになるのです。
その極端な例が、オリンピックですね。私たちはこれまで、オリンピックを何気なく観戦してきたかもしれません。ですが、「そもそもなぜオリンピックという世界的なスポーツの祭典を、観客も、選手も、そして審判も楽しめるのか?」ということに立ち返ってみると、「ルール」というものが見えないところで、世界中の人々を結び付けているということに気づかされますね。
さて、話を製品やサービスといった産業に戻しましょう。産業の場合、「規格」「標準」というものがルールと同じ役割を果たします。「規格」「標準」があるおかげで、世界の国々へ日本の製品やサービスを輸出しやすくなったり、逆に日本で海外のサービスを利用しやすくなったりするのです。
産業のルールって何?
ここからは、具体的に「産業のルール」というものがどのようなものかを紹介しましょう。わかりやすいので、物作りのときに使われるルールを紹介します。
物作りにおけるルールとは?~ネジの例を参考に~
物作りのルールを説明する上で、わかりやすいのがネジ・ネジ穴です。
みなさんはネジのこと、「クルクル回すだけでどんどん穴に入っていくヤツ」くらいにしか思っていないのではないでしょうか?筆者も当然、昔はそうでした。そう、規格というものを知るまでは…
実は、このクルクル回せばどんどん入るのは、ネジの溝の形が、ネジ側と穴側でピッタリ合っていないと起こり得ないことなんです(そうでないと、途中で引っかかって、入っていきません。。。)。しかも、この溝の形には、実は様々な要素があります。様々な要素というのは、例えば次の図に示すような寸法です。
ネジの小さな溝には、寸法について実はこれだけのことがルールとして決められているんです。もし、ネジとネジを取り付ける穴やナットを別々の会社から買っても、サイズが適切な場合にちゃんと噛み合うのは、こういったルールに従ってネジが作られているからなんです。これらを守って作られているネジとネジ穴が、「クルクル回すだけでどんどん穴に入っていく」やつなのです。ねじ1本にもこんな秘密が…あるんですよ!
日本の産業のルールは、どこに書いてあるの? ➡ JISを調べてみよう
さて、ではどこに、こういったネジの細かい寸法など、物作りをする上で必要な情報が書かれているでしょうか?
代表的な正解の1つは、JISです。
日本の産業(もの作りを含む)に関する「規格」が、JISです。「ジス」と呼びます。
JISは、Japanese Industrial Standards : 日本産業規格 (旧称:日本工業規格)の略です。
物作りの業界では、ジスといえば普通に「JIS規格ですね!」と通じます。JIS規格(ジスきかく)とか呼ばれて使われると…頭の頭痛みたいな感じで変ですが。笑
JISって何?
JISは、日本政府の経済産業省に設置されている、JISC(Japanese Industrial Standards Committee: 日本産業標準調査会 )という審議会がきちんと審査した「規格」です。つまり、日本政府が認めた産業のルールブックなのです。
正確には、ルールブック「集」です。JISは、産業の種別ごとに、「A」とか「B」とかいうアルファベットの分類で分けられていて、さらにその下に、4桁の番号をつけて、1つ1つの規格を分けて考えます。例えば、こんな感じです。
また、4桁の番号の下に-1(ハイフン1)とか、-2とかいう番号が付くことも多々あります。これは、1つ1つの規格が、さらにシリーズものになっている場合に、そのようなことが起こります。
このように、JISは、多数の産業分野・多数の製品のルールブックを網羅しているのです。その中には、物作りだけでなく、サービス業や、組織の在り方、品質管理といったことのルールブックもあります。
日本の産業全体をカバーする規格ですので、キーワード検索などかけてみると、自身の産業に関係するページが出てくるかもしれません。検索は、以下のWebサイトから行うことができます。
JIS規格を閲覧するには?
JISは、基本的には閲覧無料です。ただ、最近はちゃんと無料登録のようなことをしないと、閲覧できない状態になっているようです。また、閲覧は無料ですが、ダウンロードしてコピーするといったことは、著作権上禁止されておりますのでご注意下さい。
JISを本で読みたい!という方は、以下の「日本規格協会」が書籍として出版していますので、こちらで買ってください。
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ネジのJIS規格は?
そして、肝心のネジの規格ですが。実はネジにもいろんなタイプがあって、規格番号も違って…という複雑な話は置いておいて。
例えば「メートルねじ」という種類のネジの寸法のJISは、
- JIS B 0205-1 一般用メートルねじ-第1部:基準山形
- JIS B 0205-2 一般用メートルねじ-第2部:全体系
- JIS B 0205-3 一般用メートルねじ-第3部:ねじ部品用に選択したサイズ
- JIS B 0205-4 一般用メートルねじ-第4部:基準寸法
という番号の規格に記載されています。
ちょっと何が書いてあるかわからないかもしれませんが、興味がある方は覗いてみて下さいね。
規格はJISだけしかない?…いいえ、色々あります!
物作りや産業全体に関わるルールには、JISだけではなく、実は色々な規格があります。JISは日本の規格ですが、世界の規格としてIEC・ISO・ITUなどといったものがあります。
また別の記事で、世界の代表的な規格については紹介していきたいと思います。
規格と標準の違いは?
この記事では、「規格」というものをまずはわかってもらうために、「ルールブック」と説明しました。一方、「標準」というものを説明していませんでしたね。「規格」が紙面・書籍やPDF上に書かれたルールであることに対し、「標準」は規格よりも広い「取り決め」といった意味も含みます。
また、標準には「普及したモノ」という意味もあります。例えば、皆さんが使っているMicrosoft社製のOSが入ったPC、あるいはApple社製のOSが入ったPCやタブレット。これらは皆さんにとって、「日常にあって当たり前の存在」「群を抜いて有名・存在感の強いもの」になっているのではないでしょうか。「PCのOSと言えばMicrosoft社製かApple社製が業界スタンダードだよね。」と言ったりもしているのではないでしょうか。このときに使う「(業界)スタンダード」は、英語のStandardで、「標準」という意味を持ちます。市場において圧倒的な存在感があるもの、普及したものを標準と呼んだりもします。
その他にも、「標準」という言葉には「規格」以外のいくつかの意味がありますが、ここでは解説しきれないので、ひとまず「標準=規格を含む取り決め・ルールや、普及したモノ」と覚えておいてください。
この記事では、皆さんが規格・標準というものを分かりやすいように、なるべく簡素な言葉で表現しています。そのため、厳密な定義とは少し異った表現になっていますが、厳密な定義については別途解説したいと思います。
なぜ、規格・標準を制したものは市場を制す?
この記事の冒頭で、「規格・標準を制した者(企業)は、市場を制し、大きな利益を作ることができます。」と述べました。これは、通常、ルールや取り決めといったものは関係者の話し合いによって決まってくることに由来します。
つまり、ルールや取り決めを関係者と一緒に審議し決定していく中で、自分たちが有利になるようなルールを上手く作ることができたら。先ほど例で挙げたバスケットボールというスポーツの場合なら、リングの高さやボールの大きさを、日本なら日本人の体格や身体能力に合ったサイズに変えることができたら。日本が有利になると思いませんか?
つまり、関係者との話し合いで他者を上手く説得したり、票集めをすることができれば、ルールや取り決めを自分たちの都合に合うものに変えていけるのです。
ルール自体を自分たちの都合のいいように作る。少しずるいように聞こえるかもしれませんが、不正ではない方法であれば問題ありません。ルール作りの場での地道な票集め・説得・仲間づくり。こういった活動を、「戦略的ルール形成」と呼びます。
現代においては、日々様々な新しい製品やサービスが表れる中、それらのルールや取り決めも同時に必要になっています。そういった状況下で、「戦略的ルール形成」をしていくことができれば、市場を制すチャンスになるという訳です。
規格はどこで作られるのか?
では、規格は一体どこで作られるのか。規格には様々な種類があり、世界各国が使う国際ルール:国際規格から、先ほど紹介したJISのように、日本だけの独自の国内規格、そして業界団体規格や、狭い範囲で使われるものにはその企業独自の社内規格といったものまであります。
それらの規格は、通常、関係者の話し合いの場で決まります。特に、国際ルールであれば国際的な審議団体の場に関係者が集まって決めます。日本国内の規格であれば、日本国内での審議を任された場で決定します。JISの場合は、経産省から審議を委託された団体が複数あって、その団体ごとに受け持った規格を「委員会」を開催して関係者を招集し審議します。そのため、JIS規格を使って戦略的ルール形成を進めたい場合は、企業として該当する団体に所属することを申し込み、委員会に参加していくことが必要です。
団体に関する詳細情報もまた、別途解説したいと思います。
核融合もまた、これから規格・標準が作られていく新規分野
さて、ここまで規格・標準の話をしてきましたが、なぜ、核融合の紹介サイトで規格・標準の話をするのか。
それは、核融合技術分野にはまだ、核融合炉建設時の明確なルールが世界に存在しないためです。そのため、今後そういったルール・規格が作られていく必要があると筆者は考えています。
一度ルールができると、それに沿った形で核融合炉のパーツの開発が世界的に進みます。そこで、日本が核融合技術で世界市場を掴みたければ、今のうちから核融合炉の規格や標準、そして建設時の規制のことも考えていく必要があると思います。
そういった事情を皆さんに知ってもらうため。また、「戦略的ルール形成」という、核融合以外でも関係する市場形成のための概念を皆さんに知ってもらうため。この記事を書いたというわけです。こういったルール形成により市場を制すという手法があるという知識が、皆さんの仕事などに生かされると筆者としても嬉しいです。
◆規格・標準とは?技術のルールが市場を作る まとめ◆
- 規格・標準とは、産業におけるルールを指す
- 地道な票集め・説得・仲間づくりをし、自分たちの事業がしやすいようにルール作りを進めることを、「戦略的ルール形成」と呼ぶ
- 核融合ではまだ世界に規格・標準がないため、日本が技術で世界の核融合研究開発をけん引するためには、戦略的ルール形成は重要
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