核融合で就職・仕事をする方法・ポイントを解説
この記事では、核融合で就職・仕事をしたい方のために、その選択肢について筆者の知見から大まかに解説します。
核融合に関しては、当サイトの他の記事(例えば、日本の核融合戦略・政策2023年1月)でご存知かもしれませんが、現在はフランスのITERプロジェクトを中心に、世界的にも研究開発の真っ只中です。そのため2024年4月現在まだ実用化されておらず、発電のために商用・実用・量産化されてはいません。
このことが意味するのは、核融合専門の製作部署を「常に有している」大手重工業メーカーはほぼないということです。
一方で、核融合専門のスタートアップ企業が最近になり多数登場し始めて、有名な投資家が投資しています。これは欧米のみならず、日本でも同じ状況です。
以上のような状況を踏まえ、核融合を仕事にしたい方は、どうしたら良いかということについて、筆者の知見を紹介します。
核融合を生涯の仕事にできるか…研究者を目指す
核融合を生涯の仕事にできるか?結論から言うと、「できます」。そのためにもっとも確実な方法は、研究者という職業を目指すことでしょう。
つまり、量子科学技術研究開発機構(QST)のような研究機関で働く。あるいは、核融合の研究室を持つ大学で博士課程を修了し、そのまま核融合に関する研究を続けて実績を作りながら、大学教授への道を目指すということです。
QSTの那珂研究所は、核融合の研究所で、ITERプロジェクト関連の仕事を行っています。先進核融合プラズマ実験装置 JT-60SAもここに存在します。
さらには、ITER機構というフランスのITERプロジェクト本部もまた採用を行っています。こちらでは、ある程度キャリアを積んだ研究者・技術者向けの募集がありますが、ITERプロジェクトは建設も実験もまだまだ長く続くので、新卒の方も覚えおいて損はないでしょう。
核融合の研究と言っても、分野は様々
プラズマ、電気、材料、機械、極低温、超伝導、計測、放射線、トリチウム…。一言で核融合と言っても、その中には幅広い研究分野があります。研究者になると、複数の分野を跨いで研究していくよりも、ある特定の分野に絞って突き詰めて開拓していくことが多いです。
そのため、核融合の研究者を目指す場合は、大学院修士課程の入学試験を受験するまでに、核融合の中でも自分の興味がある分野を絞っておく必要があります。(大学院入学試験は、通常は夏ごろに行われます。)
大学院進学時にどの研究室を選ぶかで、今後が決まってくる
というのも、研究分野の選択が自分で自由にできるのは、大学院修士課程の入学までであることが多いからです。
大学の学部4年間を終えた後、大学院の修士課程に進学する際には、どの研究室にお世話になるかを選ぶことができます。ご自身が在籍する大学の大学院だけでなく、他の大学を受験することもできます。大学4年生までの時点で核融合を学んでいなかったり、核融合の研究室に配属されるチャンスがなかったりしたとしても、受験に合格すれば、大学院修士課程から核融合の研究室に入り研究をすることができるのです。(受験内容は、大学院ごとに異なります)
核融合関係の研究室に入ることができれば、指導担当教授にアドバイスをもらいながら、その研究室の研究機材を使わせてもらって、研究テーマに沿った研究ができます。その大学院で学び・研究し・学会発表などをする過程で、専門知識が身に付いていくので、その道の専門家に成長していけるのです。
また、研究の世界では、「大学院のどの研究室で、何について研究したか」は、その後の研究機関への就職や、大学での教授・准教授・助教としてキャリアアップしていくときに、他者から評価される一因となります。大学院新卒で民間企業への就職活動をするときの仕事の適正も、研究の内容から見られることがあります。
そのため、大学院の選び方は研究者を目指す方もそれ以外の方にとっても重要ということを、よく覚えておいてください。
核融合のスタートアップに就職する
最近、核融合分野のスタートアップが、世界的で次々に現れています。スタートアップとは、革新的なアイデアで短期的に急成長を目指す、新規企業です。日本でも、核融合スタートアップが少しずつ増えています。
2024年現在は、次のような核融合スタートアップが日本の代表的な企業です。そして現在、各社事業拡大のために採用活動が積極的に行われています。
- Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)
- EX-Fusion(エクスフュージョン)
- 京都フュージョニアリング
こういった会社は、最初は投資を受けて活動資金を獲得します。そして、核融合の中でも自分たちの得意な技術分野で案件の受注・利益の拡大を目指しています。各核融合スタートアップが何をやろうとしているのかについては、また別の記事で取り上げようと思います。➤2024年4月、日本の核融合スタートアップに関する以下の記事を新規公開しましたので、こちらもどうぞ。
採用情報に関しては、各企業のホームページを確認したり、問い合わせてみて下さい。
実は海外の核融合民間企業の方が、採用が活発
核融合民間企業の数は、京都フュージョニアリング作成の核融合民間企業マップによると、2023年時点で世界に43社となっています。そしてその後も少しずつ企業数は増えています。
海外の企業の方が、核融合発電の実証に向けて既に様々な成果を出しているところが多いです。またそういった海外企業には、新たな実験装置の製作を進めていたり、そのために高額な投資資金の調達を済ませていたりするところも多数あります。(以下の図を参照)
お金・計画があれば、それを動かす人も多数必要ということで、高額な資金調達を実施した企業では採用活動も活発になるのです。
核融合スタートアップの採用情報はどうやって手に入れる?
まずは、各企業のホームページに採用情報がないかを見てみましょう。海外の核融合関連企業のホームページを調べたい方は、以下のリンクを使ってください。
以下は、アメリカの核融合産業協議会「Fusion Industry Association」で、日本を含む世界各国の核融合ベンチャー企業が登録しています。
例えば今、核融合発電の実現に最も近い企業の1つであるHelion Energy社ホームページのCareersを見ると、以下のように様々なポジションの採用情報が表示されます。
また、LinkedInやX(旧Twitter)などのSNSでも採用情報が投稿されています。特にLinkedInは、採用活動や転職にも企業が利用するためのSNSです。ため、ここから気になる企業をフォローしておくと、採用情報も得られます。
メーカーに就職して核融合の仕事ができるか
もちろん、メーカーで核融合関連機器を造るという仕事もあります。ですが、この記事の冒頭で説明した通り、現在は核融合炉の量産段階ではありません。
そのため、メーカーは、国や研究機関・大学が核融合関係のプロジェクトを立ち上げた際に、その入札に参加して受注を目指します。そして、他社との価格競争に勝たなければなりません。
当然、会社に経営方針として、核融合プロジェクトに参加する意思がなければいけません。ただ、会社の意思を一社員が動かすのは難しいでしょう。そのため、会社がそういった経営方針を示すか、また価格競争に勝てる技術力があるかどうかは、「運」によるところがあります。また、あなたを核融合の部署に配属するかどうかも、「運」の要素が強いところです。
- 国や研究機関が核融合プロジェクトを立ち上げるか
- 会社が経営方針として、核融合プロジェクトに参加する意思を持つか
- 他社との価格競争に勝てる技術力があるか
- あなたを核融合の部署に配属するか
なお、会社が配属を決めるときに、あなたが核融合の知識を元々持っているかどうかは選定に加味されるかもしれませんが、あまり関係がないことが多いです。
そのため、メーカーで核融合に携わるには、運が味方してくれるかによるところが大きいです。
どのような日本メーカーが、核融合プロジェクトに参入するか
これについては、別の記事で詳しく解説したいと思います。ここでは簡単に触れると、日本ではITERに関連するプロジェクトには、原子力発電プラントの建設実績もある、日本の有名な重工業メーカーが中心となって参画していました。そのメーカーとは、三菱重工業・三菱電機、東芝、日立製作所などです。
これらのメーカーは、日本がITERに納入分担する機器である、ITER用超大型超伝導コイルや、そのテストサンプルを製作しました。
さらには、QST那珂核融合研究所の大型核融合実験装置JT-60SAの建設など、ITERに関連するプロジェクトにも、そしてそれとは関連のない核融合向けプラズマ実験装置の建設にも携わってきました。
これらの大手重工業メーカーは、将来の核融合プロジェクトにも参入する可能性が高いと思われます。就職活動における採用基準もかなり高い企業ではありますが、就職にチャレンジする価値があります。
メーカーから核融合研究機関へ出向を命じられることも
大型プロジェクトの場合、受注したメーカーが研究機関に、人を出向させることがあります。つまり、研究所側の許可が下りれば、数名程のメーカー社員を研究所の中で働かせるのです。
このような出向の目的は、出向させた人を窓口として、研究所とメーカーとのコミュニケーションを円滑にするため。技術の話は、打合せだけではお互いの意思疎通が明確にできないことがある一方、ひとつ意思疎通が間違えば大きな事故を呼びかねません。そういったことを防ぐのです。
核融合を仕事にしたい方にとっては、メーカーに在籍しながら核融合の研究所で働くことができるのは、嬉しい話かもしれません。メーカー社内の人員調整事情もあるので、出向社員に選ばれる確率は低いかもしれませんが、メーカーに就職すると出向という話もあるということを、ご紹介しておきます。
大手重工業メーカー以外でも、核融合の仕事に携われるか
核融合関係の機器すべてを、大手重工業メーカーだけで製作できるわけではありません。
例えば、超伝導コイルという機器を1つ見ても、その機器の部品である「超伝導材料でできた電線」の製作は、特殊電線メーカーが担当しました。特殊電線メーカーにしかない製造ラインや、材料の調達ルートがあるためです。
核融合には、高熱に耐える機器、極低温状態まで冷却できる冷凍機、放射線に強い材料など、特殊スペックの機器・部品が多数使われます。そういった機器・部品は、専業のメーカーでしか製作できない場合があるので、専業メーカーが参入するケースがあります。
以下の写真は、2023年1月12日にニュースリリースされた、古河電工の核融合炉用高温超電導線材の例。
核融合に参入するメーカーをどうやって見つけるか?
これについては、かなり裏技的になりますが(おそらく当サイトでしか紹介していない情報。)、
例えば以下の、QSTの契約締結情報の公開ページから、那珂研究所のところを見てみましょう。
このPDF・Excel資料から、どのような企業がどのような契約を受注したか、金額も含めて知ることができます。国立研究開発法人のような国の研究機関は、契約情報の透明性の観点で、このように競争入札の結果を公開しています。
また、現在の那珂研究所が、今どのような契約を必要としているかについては、以下の「調達情報」というページから知ることができます。仕様書なども公開されています。メーカーや企業は、この公開された仕様書を見て、入札に参入できるかどうかを判断しています。
なお、年度末の現在は小規模な契約しかありませんが、年度初めの4月になると、大型機器製作案件の契約が公開されるのが一般的です。
さらに、上記とは別の方法ですと、Google検索で、「核融合 受注」と検索をかけてみて下さい。関係するメーカーのニュースが検索結果に出てきます。就職を検討する上での参考になるかもしれません。
QSTが、茨城県ITER協力企業マップを公開
最近(2023年1月)QSTが、ITERプロジェクトにおいて日本が製作する機器の開発に携わった、茨城県の企業の情報を公開しました。以下のリンクや、Twitterのツイートを参考にしてください。
核融合研究所に近い町工場・保守管理会社に就職する
機器製作だけが、核融合に関係する仕事ではありません。
核融合関係の研究所の機器の保守管理は、外部の会社に委託するケースが多いです。例えば、24時間稼動の機器の運転状況を見張ってもらうスポット契約を、安く応札してくれる会社がいたりします。(先ほど紹介した、那珂研究所の契約情報も参考になります。)
また、研究所に近い町工場では、次のようなサービスを提供していたりします。
- 研究所から簡単な部品の加工
- 小規模の実験サンプルを製作
- 計測機器の修理
- 品質確認のための、規格に基づいた試験の実施
- その他土木関係工事・設備点検作業
こういった会社・町工場は、核融合の研究所以外の仕事も行っています。お客は研究所だけではないためです。ですが、こういった会社・町工場に就職すると、核融合に間接的に関係するサービス業にも携われるかもしれません。
給料は高くないかもしれない
こういった保守管理関係のサービスは、大手重工業メーカーで機器の設計製造を行う仕事と比較すると、正直なところ給料の面では高くないかもしれません。
ですが、「どうしても核融合に携わる仕事がしたい、就職したい。」という方は、先程紹介した研究所への入札情報などを覗いてみるといいでしょう。
技術者を派遣する会社に就職する
核融合のような国家プロジェクトでは、QSTのようなプロジェクト推進機関が「ある数年間だけ人を増やしたい。」という理由で、技術者の派遣契約を立てることがあります。つまり、契約期間の間だけ、契約内容に書かれた仕事を、研究所の中でしてもらうのです。
例えば、先程上記にて紹介したQSTの契約締結情報や調達情報に、「労働者派遣契約」というものが幾つかあると思いますが、それらが該当します。こういった契約は、技術者の派遣を生業とする会社が応札するケースが多いです。
技術者の派遣会社は、自社が抱える社員を、要望に応じて様々なメーカー等に派遣。それで利益を得ています。業務内容は、派遣先のメーカーの指示を受けて決まります。
このような会社に就職すると、生涯で様々なメーカーを渡り歩きながらの生活になります。その中で、もしかすると、核融合の案件の話が巡ってくるかもしれません。(ただし可能性はかなり低い)
◆核融合で就職・仕事をするには まとめ◆
- 研究者を目指す
- 核融合のスタートアップで働く
- 大手重工業メーカーで働く
- 核融合に関連する専門性の高いメーカーで働く
- 研究機関の近くの町工場や保守管理サービス業者
- 技術者を派遣する会社に就職する
コメント
コメント一覧 (4件)
とても参考になります!ありがとうございます!
質問です。
自分は大学で核融合を学びたいと思っているのですが、核融合は実現が難しいとか日本での注目度も海外と比べると低いという声をよく耳にします。
そのため、第二希望で考えている廃炉についての進路が、就職や年収、将来性がとても良く魅力に感じます。
正直なところ、核融合で食べていくとすれば、どれくらいの年収や仕事量を考えればよいのでしょうか?
国内や大手に限らず、スタートアップや海外での就職もしてみたいと思っています。
ご質問拝読しました。当サイト見てくれてありがとう。
仕事量については、核融合は現在研究開発の真っ只中にあることもあり、どの仕事でもやることは比較的多い(少し忙しい)と思います。
核融合で食いつないでいけるか。これは、就職先により異なります。国立研究所や大手メーカーであれば、長く勤務すれば十分な収入が得られます。
以下、個別に紹介すると、
国立研究所などに研究職として正社員就職すると、(私がそのような感じでしたが)年功序列で1年に1万円弱程度昇給する感じです。
また、国立研究所では、数年間の任期付きの採用もあったりします。これは、年収600万くらいのものもあったかと思います。その後、研究成果を出せば、その研究所に正社員として雇われるケースもあると聞きます。
日本の大手重工系メーカーに大卒・院卒で就職した場合も、管理職になる前までは年に1万円ずつ昇給していくイメージでよいのではないかと。その後、管理職に昇進した場合は、年収1000万円も有り得ます。
一方、中小系やあまり聞いたことがない会社は、給与の面では当然大手に比べて落ちます。
なお、大学に残って研究を続けようとすると、助教、准教授や教授などのポストに就くまでは、生活に苦労するとよく聞きます。またポストに早く就くためには、ご自身の研究業績が必要です。ただ、そのポストが空くかどうかのタイミングや、他にライバルがいないかにも影響を受けます。
ITER機構(フランスで働く)でも、キャリアを積んだエキスパート(特定の技術分野)の採用、つまり新卒ではなく基本は中途採用があります。この記事の上部に、ITER機構職員募集のリンクを紹介しています。
ITER機構で採用されることはハードルが高いですが、基本的に5年の任期で、その間の年収は少なくとも1000万近くはあり、さらに管理職ポジションの場合はその額を大きく上回ると、以前聞いたことがあります。
核融合スタートアップについては、日本にも現在3社ありますが、個別の採用情報を見てみてください。
一部の採用情報は、当サイトのTwitter(https://twitter.com/fusion_teacher)でもリツイートなどしていますよ。
以上、参考になったでしょうか?
もし参考になれば、このサイトを友達に広めてもらったり、Twitter @fusion_teacher をフォローしてもらえたら嬉しいですね。
返信ありがとうございます!とても参考になります。
自分は今、研究室などの観点から九州大学への進学を考えてるのですが、入れるか分からないので不安です。
核融合を研究する上で、おすすめの大学などはありますか?また、費用さえなんとかなれば、留学などもしたいと考えているのですが、海外の大学でも学べる場所はあるのでしょうか?
以下の、文部科学省の核融合特設サイトはご存じですか?
「核融合を学ぶ」に関する様々な情報もまとめられています
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/
ここから、さらに国内の核融合関連大学の一覧情報に飛ぶことができます。
https://www.nifs.ac.jp/edu/study/index.html
おすすめの大学は、核融合をみっちり学ぶなら、「総合研究大学院大学」ではないかと。
ただしここは、大学院生から入学できる大学となります。
もちろん、海外の様々な大学でも核融合は研究されておりますので、道はあると思いますが、
私は海外大学事情は詳しくないので力になれず。。
ただ、1つ言えるのは、国内しろ海外にしろ、核融合の中でもさらに細かく、
何の研究をしたいかによって大学を選ぶのがいいかと思います。
つまり、プラズマの研究なのか、材料の研究なのか、トリチウム関連の研究なのか、超伝導コイルの研究なのか…
何の研究がしたいか決まっていれば、大学は絞られてくると思います。
あるいは、とりあえず核融合なら何でも!という場合は、大きな核融合実験装置を
保有している大学がいいかもしれません。九州大学には、QUESTという球状トカマクがありましたね。
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もし、このサイトを閲覧されている現役研究者の方・先生方がおられましたら、
学生さんからの質問に追加で御助言頂けますと幸いです。
情報交換しましょう!