核融合実験炉ITERの運転スケジュールとは?2024年7月3日最新情報と旧2016年版を比較
この記事では、核融合実験炉の運転スケジュールについて、2024年7月3日最新情報と、「過去2016年版のITERのリサーチプラン」を基に簡単に解説したいと思います。
実は、2024年7月3日に、フランスで建設中の国際熱核融合実験炉ITERで、新しいプロジェクトスケジュールが発表されました。
ITERは、機器の補修やコロナ禍による遅延を受け、建設スケジュールが遅れていました。そのため新規スケジュールの発表が待たれていましたが、ようやく公になったという状況です。
昨今の核融合(フュージョンエネルギー)開発ブームの到来の中で、このITERの新計画発表についても、世界各国のマスコミが例えば以下のように取り上げました。
ITERの稼働開始が2033年から
— 核融合の先生(H. Ozeki) (@fusion_teacher) July 3, 2024
という新規スケジュールが
昨日7/3のITER機構長記者会見で発表された模様
これからは本当に民間企業の開発が、核融合発電の早期実証のカギとなりますし、
ITERは今後、民間開発のタイムリーな支援をどのようにしていけるかが問われるでしょうhttps://t.co/CMgJQNwYa8
ただ、実際どのくらいスケジュールの変化があったのか?単発のニュースだけでは分かりづらいのではないかと思います。
この記事の結論を先に述べると、ITERでは工程遅延を4年ほどに圧縮しようと策を練っているようだ、ということです。
この記事ではさらに、
2024年7月3日最新情報と「旧2016年版リサーチプラン」を基に、ITER運転スケジュールについて深堀り解説したいと思います。
(なお、2024年7月3日発表の「新」スケジュールは、詳細がまだわかりませんので、報道陣に公開された概要部分等だけこの記事で紹介します。)
なお、そもそも「ITER」について知らないという方へ。当サイトでは、ITERに関するいくつかの解説記事を掲載しております。以下のカテゴリーからどうぞ。
ITERの運転スケジュールは、一般の方も入手できる?
そもそも、ITERの運転スケジュールは一般の方でも入手できるのでしょうか?
結論から言うと、
- 【1】 最新より1つ古い、2016年版ITER運転スケジュールは入手できます。
- 【2】 2024年7月3日に記者発表された最新版ITER運転スケジュールの「詳細情報」は見当たらず、ポイントに絞った情報や、
- 【3】 詳細未確定の2024年7月3日版最新スケジュールに関する技術レポートは公開されています。
【1】 2016年版ITER運転スケジュール
ITERの2016年版運転スケジュールは、上の画像のような一般公開されたITERテクニカルレポート集のダウンロードページからダウンロードできます。
今回の記事では、ここからダウンロードできる
「ITER Research Plan within the Staged Approach (Level III — Final Version」
という資料を使って、まずはITERの運転スケジュールの基本的な考え方を解説していきます。
【2】 2024年7月3日版 最新ITERスケジュールの情報をダウンロードするには
上で述べた「ポイントに絞った」ITER最新スケジュール「概要」情報は、2024年7月3日のITERオフィシャルサイトのプレスリリースから入手できます。
この記事の中では、ITER機構長(組織トップ)の Pietro Barabaschi 氏による説明の他、プレス向けのサマリー文書も以下の図のように発行されました。
また、7月3日のプレス発表の前に、6月19, 20日にITER理事会が行われています。ここでも、ITERのスケジュールに関する情報が一部発表されています。
6/19,20に開催の国際熱核融合実験炉ITERの理事会で、新規スケジュールが提出
— 核融合の先生(H. Ozeki) (@fusion_teacher) June 30, 2024
◆2035年の重水素D-重水素D実験(実質的な実験の開始か)を予定
◆そして定格運転・プラズマ確認後に重水素D-トリチウムT実験
また、★7/3 AM10:30(ヨーロッパ時間)に記者会見が開催されますhttps://t.co/AjwJFt7ojf
ただし、西暦年までが明記された新ITERスケジュールは見当たりませんでした。この記事を私が執筆した2024年7月7日現在、最新スケジュールに関する「技術的側面の」詳細情報については、次に紹介する【3】の資料から得ることが可能です。
【3】 詳細未確定の2024年7月3日版最新スケジュールに関する技術レポート
2024年7月3日に最新ITERスケジュールがITER機構長から発表されるに当たり、当然ITER機構側では、事前に様々な検討が組織内で行われています。
その検討のレポートが、ITERのホームページ上で公開されています。公開場所は、【1】の冒頭でもお見せしたITERテクニカルレポート集のダウンロードページです。
そして、実際にダウンロードできる【3】の資料は以下のものになります。
詳細未確定の2024年7月3日版最新スケジュールに関する技術レポートについて
「Initial evaluations in support of the new ITER baseline and Research Plan」
【1】 2016年版ITER運転スケジュールの概要
まずは、【1】2016年版ITER運転スケジュールの概要から説明していきます。これは過去のスケジュールであることに注意してください。あえて、過去のスケジュールから説明するのには、以下の2つの理由があります。
- 2024年版最新のITER運転スケジュールの一部情報は、先ほども紹介している通り、詳細までは不明のため。
- 2016年の過去版スケジュールは詳細が分かる。過去(詳細有り)と最新(概要のみ)のスケジュールを比較すれば、最新をもう少し掘り下げられる。
ということで、2016年版の過去スケジュールをまずは見ていきましょう。
なお、運転スケジュールを知る前に、「そもそもITERで実験する目的って何?」ということを知りたい方は、以下の記事を先に読んでみてください。
資料「ITER Research Plan within the Staged Approach (Level III — Final Version」
先ほど紹介した以下のITER Research Planという資料から、過去2016年版のITER運転スケジュールを読み取っていきます。
以下の直訳:
“このITERテクニカルレポートは、2016 年の段階的アプローチ ベースラインに準拠したレベル III の ITER Research Planと、関連するトカマク装置、および、そのさまざまなフェーズで採用された補助システムの構成を説明します。”
ITER Research Plan within the Staged Approach (Level III — Final Version)
Publication Date : 10 Apr 2024
Abstract :
This ITER technical report describes at Level III the ITER Research Plan consistent with the 2016 Staged Approach Baseline and the associated tokamak machine and ancillary systems’ configurations adopted in its various phases. …(中略)… In addition, this new ITER Technical Report …(中略)… will further guide in the future for the many issues which are common between the 2016 Staged Approach ITER Baseline and the 2024 New ITER Baseline.(機械翻訳)
このITERテクニカルレポートは、2016 年の段階的アプローチ ベースラインに準拠したレベル III の ITER Research Planと、関連するトカマク装置、および、そのさまざまなフェーズで採用された補助システムの構成を説明します。 …(中略)… この新しいITER技術レポートは、2016年のStaged Approach ITERベースラインスケジュールと2024年の新しいスケジュールに共通の、多くの課題に対する将来の指南書となるだろう。
ただしこの資料、実は357ページあるので、それをすべて読解するのは大変。
そこで、要点のみに絞って解説していきます。
【1】 2016年(過去版)ITER運転スケジュール
それでは、2016年に決定された、過去版のITER運転スケジュールを見ていきます。
ITERの運転スケジュールに関する図として、以下に示すFigure(:図) 1.~3.が、レポートの293/357ページに掲載されています。
これらのFigure 1.~3.も参照しながら、ITERの運転スケジュール(2016年過去版)の考え方を見ていきましょう。
Staged Approach:段階的なアプローチ
実はITERでは、一度ITERのトカマク型実験装置が完成したら、その後はずっとそのままの状態で実験、とは計画されていません。
段階的に、実験に必要な装置を組み入れては実験、組み入れては実験を繰り返していくスケジュールになっています。これを、Staged Approachと呼んでいます。
Staged Approachが必要な主な理由は特に、ITERのプラズマ実験に使用する燃料や、実験目的が各段階で異なることにあります。それによって、各段階で機器や装置を追加したり、入れ替えする工事をしたりするのです。
このStaged Approachの考え方は、この章で紹介する2016年過去版のスケジュールでも、後ほどの章で紹介する2024年7月3日の最新スケジュールでも変わっていません。ただし、ステージの踏み方は過去と最新では大きく変更されており、最新スケジュールではステージ数を減らすことによって、現在の遅れ分を取り戻そうと努めている状況です。
2016年過去版スケジュールの各Stage(段階)
それでは、どのようなStaged Approach(段階的アプローチ)が考えられていたのか。2016年過去版では、以下のような段階が考えられていました。
(以下の情報は、ITER Research Plan within the Staged Approach (Level III — Final Version)の15/357ページに記載があります。)
2016年過去版ITERスケジュールの各Stage(段階)
- ファーストプラズマ:First Plasma (FP) の確認を含むStage I
<主な実験>- ITERで最初のトカマクプラズマ生成(ファーストプラズマ)を確認する
- (核融合反応は伴わない)水素またはヘリウムのプラズマ試験
- 超伝導等コイルシステムの通電試験を含むITER装置全体の運転確認
- プレ核融合オペレーションその1:Pre-Fusion Power Operation 1 (PFPO 1) を含むStage II
<主な実験>- (核融合反応は伴わない)水素またはヘリウムのプラズマをさらに成長させ、その制御・診断の実施
- 電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)の試運転
- ディスラプションと呼ばれるプラズマ崩壊現象のマネージと緩和策の確立
- Hモードと呼ばれる高閉じ込め状態のプラズマ生成運転方法を探る
- プレ核融合オペレーションその2:Pre-Fusion Power Operation 2 (PFPO 2) を含むStage III
<主な実験>- 加熱中性ビーム(HNB)、診断中性ビーム(DNB)、イオンサイクロトロン共鳴周波数(ICRF)加熱システムのフルパワー試運転
- (核融合反応は伴わない)水素プラズマでのHモード運転
- ダイバータ熱流束の制御
- プラズマをさらに成長させ、ハイパワーLモード運転のデモンストレーション
- 核融合反応を伴う運転に備えて、プラズマと壁の相互作用やプラズマ対向部品の侵食、再堆積、ダスト生成、燃料保持および燃料除去などの問題に関する体系的な研究
- エラー磁場補正関連
- 核融合オペレーション:Fusion Power Operation (FPO)を含むStage IV
- 初期の目標は、(微量に核融合反応を伴う)重水素プラズマでの高出力Hモード運転を実証し、重水素-三重水素※プラズマ運転のプラズマシナリオを準備すること
- 三重水素を重水素に徐々に混ぜたプラズマの試験
- 三重水素燃料の再処理プラントの運転と処理量の増加
- (核融合反応を伴う)完全な重水素-三重水素プラズマの試験
- 初期の目標は、Q(:エネルギー増倍率)≥ 5で少なくとも50秒間の数百MWの核融合出力のデモ
- その後、Q ≥ 10達成のために最適化し、セントラルソレノイド誘導プラズマシナリオのパルス持続時間を、ITERプロジェクト仕様で求められている300 – 500秒間の核融合燃焼という目標に向けて延伸
- さらに、Q ~ 5で1000 – 3000秒の核融合燃焼の持続時間達成をするための、ハイブリッドおよび完全非誘導シナリオの開発
※三重水素はトリチウムともいう
これが2016年過去版の、ITER運転スケジュールです。
なお、超伝導コイルやダイバータといった特殊な機器名称や、加熱装置の用語が色々とここで出てきています。それらについてより詳しく知りたい方は、以下の2つの記事を参考にしてください。
Figure 1. ~ 3. についての説明
- Figure 1. は、Stage I ~ IVまでの大まかな区別を示した図です。
- Figure 2, は、FP(Stage I)、PFPO-1(Stage II)、PFPO-2(Stage III)、FPO(Stage IV)の各段階で運転される機器・システムを色分けで表した図です。
- そしてFigure 3.が、各アクションの西暦年までが入った、2016年(過去)版のITER運転スケジュールです。
特に、Figure. 3については、後ほど最新版スケジュールと簡単に比較したいと思います。
【2】 2024年7月3日版 最新ITERスケジュールの情報
次に、2024年7月3日にプレス発表された、ITERの最新スケジュール情報を見ていきます。
先ほど紹介した、以下3つの利用できる情報から、2016年版スケジュールからの変更点を見ていきます。
【2】 2024年7月3日版ITERスケジュールのポイント(2016年版との比較)
それでは、2024年7月3日版(最新)スケジュールでは、2016年版(過去)スケジュールとどこが変わったのか。ポイントを見ていきます。
Staged Approach(段階的アプローチ)と、その間の工事を減らす
2016年版(過去)スケジュールでは、Staged Approach(段階的アプローチ)という考え方の下、先ほど紹介したようにStage I ~ IVという4段階に区分されたスケジュールが検討されていました。また、各段階では、都度増設工事を伴っていました。
先程は言及していませんでしたが、特に大きな変化を伴う工事となるのが、核融合オペレーション:Fusion Power Operation (FPO)を含むStage IVです。Stage IVからは核融合オペレーションに伴い、核融合燃料である重水素と三重水素を燃料として取り扱い始めると共に、強力な放射線である中性子線が核融合反応によって発生し始めます。そうすると、それまでの放射線をほぼを取り扱わないStage IIIまでと異なり、Stage IVは明確に原子力施設になります。そのため、安全審査が絡む工事となります。Figure.3にも、2035年のところに「Authorization for Operation of Nuclear Installation」とあります。これらが2016年版スケジュールの特徴。
一方、2024年7月3日発表の新スケジュールでは、以下による工程短縮が計られるとのこと。
ダイバータやシールドブロックなどの、元々段階的増設工事で設置予定であった主要部品を、すでに設置した状態でプラズマの研究を開始。
そして上記の一文だけでは分かりませんが、この後で説明されるとおり、新スケジュールではStage I ~ IIIを1段階にまとめたような実験工程になっているのです。
実験初期段階の燃料の変更
また、2024年7月3日の新スケジュールでは、プラズマ実験開始初期に使用する燃料も変更するとのこと。
研究開始の段階から、水素及び重水素を燃料とする(重水素を使用する場合、微量の核融合反応と中性子線の発生を伴う)プラズマで実験する。
2016年(過去)版スケジュールでは、研究初期のStage I段階では、(核融合反応は伴わない)水素またはヘリウムのプラズマ試験を行うとしていたので、新スケジュールではこの部分のプロセスを圧縮しているようです。
ITER機器のフルパワー定格運転の早期実施
最新スケジュールでは、以下のように言及されています。
ITER機器のフルパワー定格運転を早々に行い、最大プラズマの長時間保持を達成する。
元々2016年過去版スケジュールでは、ITERの様々な機器の出力を、各Stageを踏みながら段々上げていくことが計画されていました。恐らく、機器に異常が起きないかを慎重に確認しながら進める計画だったのではないかと思います。新スケジュールでは、この部分をなるべく短縮するようです。
なお、ここまでの情報は、以下の文章から読み取れた内容です。
How does the new baseline prioritize these project goals?
For the Start of Research Operations (SRO), we will have already installed the divertor, shield blocks, and other key components. The SRO phase will feature hydrogen and deuterium-deuterium plasmas, and will culminate in operating the tokamak in long pulses at full magnetic energy and plasma current. This phase will largely demonstrate the integration of systems needed for industrial-scale fusion operation—a key project goal.
(機械翻訳)
新しいベースラインでは、これらのプロジェクト目標にどのような優先順位が付けられますか?SRO(Start of Research Operations)では、ダイバータやシールドブロックなどの主要部品をすでに設置しています。SROフェーズは、水素と重水素-重水素プラズマを特徴とし、最大磁気エネルギーとプラズマ電流で長いパルスでトカマクを動作させることで最高潮に達します。このフェーズでは、プロジェクトの主要な目標である産業規模の核融合運用に必要なシステムの統合を主に実証します。
先程紹介した、「(b) ITER新スケジュール プレス向けサマリー」 より引用
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【2】 2024年7月3日版 最新ITERスケジュール 主要スケジュール
先程の(a)~(c)の資料から入手できた、西暦年と共に明確に記述されていたスケジュールの情報は、以下になります。
2024年7月3日版 最新ITERスケジュール 主要スケジュール
- 2035年の重水素-重水素核融合運転 2016年【過去】スケジュールと比較してほぼ同時期
- 2036年の超伝導コイルのフルパワー定格運転の達成 2016年【過去】スケジュールと比較して3年の遅れ
- 2039年からの重水素-三重水素(トリチウム)運転 2016年【過去】スケジュールと比較して4年の遅れ
1つ前の章で紹介した ◆Staged Approach(段階的アプローチ)の段階削減 ◆実験初期段階の燃料の変更 ◆ITER機器のフルパワー定格運転の早期実施により、実験予定工程を圧縮した結果、上記のような新しいスケジュールが発表されたということになります。
ITERが発表している、この「3, 4年」という遅れについては、Figure. 3と比較しても整合が取れていると思います。
なお、この情報は、以下の文章から読み取れた内容です。
How do the schedules compare in the previous baseline and the new baseline? The 2016 Baseline
envisioned achieving First Plasma in 2025, as a brief, low-energy machine test, with relatively
minimal scientific value, to be followed by four stages of assembly and construction, achieving full
plasma current in 2033.
The new baseline envisions the Start of Research Operation (SRO) in 2034,
featuring a more complete machine, to be followed by 27 months of substantive research. The
achievement of full magnetic energy will be about 3 years delayed from the previous baseline, from
2033, now targeted in 2036. Deuterium-deuterium fusion operation is targeted for 2035, about the
same time as in the previous baseline. The Start of Deuterium-Tritium Operation Phase will be
about 4 years delayed from the previous baseline, from 2035 to 2039.
(機械翻訳)以前のベースラインと新しいベースラインのスケジュールを比較するとどうでしょうか。2016 年のベースラインでは、2025 年に最初のプラズマを達成することを想定していました。これは、科学的価値が比較的低い、短時間の低エネルギーのマシンテストであり、その後 4 段階の組み立てと建設が行われ、2033 年に完全なプラズマ電流を達成するというものでした。
先程紹介した、「(b) ITER新スケジュール プレス向けサマリー」 より引用
新しいベースラインでは、より完成した機械を特徴とする研究運用開始 (SRO) を 2034 年に想定しており、その後 27 か月間の実質的な研究が行われます。完全な磁気エネルギーの達成は、以前のベースラインから約 3 年遅れ、2033 年から 2036 年を目標としています。重水素 – 重水素核融合の運用は、以前のベースラインとほぼ同じ時期である 2035 年を目標としています。重水素 – 三重水素運用フェーズの開始は、以前のベースラインから約 4 年遅れ、2035 年から 2039 年になります。
【3】 詳細未確定の2024年7月3日版最新スケジュールに関する技術レポート
2024年7月3日の最新スケジュールについては、1つ上の章で紹介した「主要スケジュール」に関するものしか西暦年の情報がなく、詳細情報は見当たりませんでした。
ただ、最新スケジュールの検討に関する技術レポートについては、先ほども紹介したように以下のリンクから入手できます。
詳細未確定の2024年7月3日版最新スケジュールに関する技術レポートについて
「Initial evaluations in support of the new ITER baseline and Research Plan」
【3】 技術レポートで提示されている最新スケジュールの概要
この技術レポートでは、今後のITER運転スケジュールを以下のようにすることを提示しています。(これは、この技術レポートの74, 75/106ページに記載されているものです。)
まだ、実際に以下のようになるかは確定していません。ですが、先ほどから紹介しているように、2024年7月3日に新しいスケジュールの一部を既にプレス発表していることから、おおよそ以下のスケジュール概要に沿うものと考えられます。
新しいITER運転スケジュールの概要(上👆の図の一番左の工程から順番に、①~⑧)
- 最初のマシンの組み立て完了後の、統合試運転 I の1st part
… 上👆の図中「Int. Comm. I 1st part」※ - ファーストプラズマ
… 図中「First Plasma★」
なお、新しいファーストプラズマの仕様を定義する必要があり、2016過去のファーストプラズマの仕様と同じではない可能性があることに注意 - 統合試運転 I の2nd part
… 図中「Int. Comm. I 2nd part」 - 重水素-重水素燃料の操作を含む、拡張ファーストプラズマ(AFP)
… 図中「Augmented First Plasma (A-FP) Phase」と、Start nuclear phase(DD plasma) - AFP後の追加組立工程
… 図中「Post-Augmented First Plasma Assembly」 - AFP 後の追加組立完了後の、統合試運転 II
…図中「Int. Comm. II」 - Q = 10 の目標を達成するための、最大 5 回の核融合プラズマオペレーション期間を含むDT-1フェーズ(16か月のプラズマ運転と 、8か月のシャットダウンおよび統合試運転を含む)
… 図中、 DT-1(FPO-1~5を含む) - プロジェクト仕様の目標達成まで、複数の核融合プラズマオペレーション期間を含むDT-2フェーズ(16か月のプラズマ運転と 、8か月のシャットダウンおよび統合試運転を含む)
… 図中、 DT-2(FPO-x~yを含む)
※ Int. Comm.は、Integrated Commissioning(統合試運転)の略
2016年の4段階Staged Approachからは圧縮された新スケジュール
このレポートで提示されている新しいスケジュールの概要を見ると、2016年版(過去)のITER運転スケジュールで設定されていた4段階Staged Approachが、新スケジュールでは上記の⑤「AFP後の追加組立工程 」を挟んで2段階に減っているように見えます。(段階は明記されていませんが。)つまり新スケジュールではStage I ~ IIIを1段階にまとめたような実験工程になっているのです。
実験を開始したらなるべく早期に、核融合反応を伴うオペレーション:Fusion Power Operation (FPO)に辿り着き、ITERプロジェクトのミッション:仕様・目標となっているプラズマ生成達成を目指すようです。
このように合理化されたスケジュールの、西暦年入りの詳細工程が、また近いうちに公式に発表されるでしょう。
この記事の最後に…これからのITERに求められるもの
この記事の結論を述べると、ITERでは工程遅延を4年ほどに圧縮しようと策を練っているようだ、ということでした。
一方、ITERプロジェクトを横目に、世界各国では多くの核融合スタートアップ企業が個社独自の方式で、核融合発電の早期実証に向けて研究開発を進めています。2030年代の核融合発電実証を目指す企業が多く、そうなると2039年に重水素-三重水素(トリチウム)運転を目指すITERは、スタートアップ企業と並走する形となっていきます。そのため、これからは本当に民間企業での開発が、人類初の核融合発電早期実証のカギとなります。
ただ、既に建設の80%近くまで進んだと言われているITERには、世界の産業界の知恵と建設技術・課題解決方法が、情報として蓄積されていることになります。それらの情報を、今後の世界各国での原型炉建設のために、どう一般化された形で早期に公開していくのか。これは今からでもすぐに検討されるべきかと思います。
こういったことを含め、ITERは今後、民間開発のタイムリーな支援をどのようにしていけるかが問われるでしょう。
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