どのような条件で核融合反応は起こるのかを紹介
この記事では、核融合反応がどのような条件で起こるのかについて、原子レベルのお話から解説したいと思います。
Q&A-1話の核融合について解説する記事で、「核融合は、地球上の自然界では起こらない。しかし、太陽の中心部では起きている。」と説明しました。それは、核融合を起こすための条件を揃えることが、地球上の自然の中では難しいためです。一方、太陽の中心部では核融合が起こる条件が揃っているということになります。
では一体、核融合を起こすためには、どのような条件が必要になるのかということを、この記事で解説します。ヒントは、太陽の中心部がどのような状態かをイメージしてみて下さい。
核融合を起こすことはなぜ難しいか?
まずは、核融合を地球上で起こすことがなぜ難しいかについて解説したいと思います。
そのために、少し原子と原子核のお話をします。
陽子はプラス(+)の電気を持ち、電子はマイナス(-)の電気を持つ
前の記事で、すべての種類の原子は陽子・中性子・電子でできていると解説しました。ここからは、陽子・中性子・電子の、「電気的な性質」のお話をします。
実は、陽子はプラス(+)の電気を帯び、電子はマイナス(-)の電気を帯びています。陽子と電子1個ずつが帯びる電気を足し合わせると、プラスマイナスゼロになります。なお、中性子は、電気的な性質を帯びていません。
以下の電気的性質の説明用図では、ヘリウム(He)という原子1個の構造を表しています。
ところで実は、プラスの電気とマイナスの電気というのは、磁石のN極とS極のような性質があります。
つまり、プラスの電気とマイナスの電気を持つものたちは、お互いに近づこうとします。磁石でいうところの、NとSが近くにいるときのイメージです。
そのため、陽子と電子は、プラスの電気とマイナスの電気でお互いを引き付け合っているので、まるで地球と月の関係のように、お互いが1つの原子の中で近くにいるのです。
原子核で陽子同士がくっついている疑問
先程の話の続きになりますが、
逆に、プラス同士またはマイナス同士の電気を持つものは、反発しようとします。
磁石でいうところでは、NとNが近くにいるとき、またはSとSが近くにいるときのイメージです。NとNの磁石、SとSの磁石は、近づけようとしてもお互いに避けようとしますよね。
そうすると、原子について1つ疑問が残ります。
疑問とは、原子核で陽子同士がくっついていることです。
陽子同士は、プラスの電気を持つもの同士、反発して離れようとするはずです。ですが、原子核の中では、陽子同士は安定してくっつき合っています。(この記事の最初に紹介した、ヘリウムHe原子の構造を見てみてください。)
これは一体、どういうことでしょうか?
陽子と陽子を結び付ける力 「核力」
実は、陽子同士をお互いに遠くから近づけようとすると、プラス電気同士、実際に反発しようとします。
しかも、だんだん陽子同士が近づくにつれて、反発する力もどんどん大きくなります。そのため、無理矢理に近づけるために相当な力が必要です。
ですが、
相当な力を加えながら、陽子と陽子を無理矢理とても近くまで近づけると、ある近さまで近づいたときに、突然、とんでもない力で、陽子同士がお互いにくっつこうとするのです。
今までずっと、プラス電気同士の力のせいで、反発し離れようとしていた陽子同士がですよ。
このプラス電気同士の力を上回る、とんでもない力を、「核力(かくりょく)」と言います。
この核力のおかげで、陽子同士も原子核の中心でくっつき合うことができているのです。
(なお、核力のお話などについて、実際は中性子の存在も重要です。核力についてさらに詳しく知るためには、「量子力学」「素粒子論」というものを大学で学ばないといけません。が、長くなるので、ここでは割愛します。)
核融合の条件が厳しい理由
ここまでで、「核力」のおかげで、陽子同士がくっつくことを分かって頂けたと思います。
1つ前の記事:Q&A-1話で、
「核融合とは、原子核と原子核がぶつかりくっついて、別の原子核ができること」
と説明しましたが、実は、
核融合は核力が働くおかげで起こる反応なんです。
そのため、
核融合を起こすためには、2つの原子の原子核を、プラス電気同士が反発する力を上回る勢いでぶつけてあげて、核力が働く近さまでなんとかして近づけてあげないといけません。
この、「なんとかして2つの原子核同士を、核力が働くまで近づける」のがとても難しいので、核融合を起こす条件が厳しいと言われるのです。
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核融合を起こすことができる条件とは?
では、どうすれば「核力がはたらく近さまで、なんとかして原子核同士を近づけさせる」ことができるでしょうか。この問題は、衝突回避システムを持っている自動車を、あえて衝突させることに似ています。そのため、一旦、次のような状況をイメージしてみてください。
衝突回避システムを持つ車を、原子核に見立てた思考実験①
衝突回避システムを持つ2台の車が、ある場所をゆっくり走っていることを考えます。
この2台はぶつかりそうですが、衝突回避システムがあります。そのため、ゆっくり走っていればぶつからずに済みます。
しかし、すごい速さで2台が走っていたらどうなるでしょうか。衝突回避システムの作動が間に合わず、ぶつかってしまいます。
衝突回避システムを持つ車を、原子核に見立てた思考実験②
次に、違う場面を考えます。
今度は、衝突回避システムを持つ車が2台だけではなく、かなりギュウギュウ詰めでたくさんいる場合も考えてみます。そうすると、ゆっくり走っていてもぶつかってしまいます。
どうすれば「なんとかして原子核同士を近づけ、核融合させる」ことができる?
では、この章の問題に戻りましょう。原子核同士を、「核力」がはたらく近さまで近づけて、核融合させる方法を考えます。これを考えるためには、今説明した「衝突回避システムを持つ車がぶつかる条件」を使います。
核融合を考えるとき、この衝突回避システムを持つ「車」と、「原子核」は、同じようなものと思って下さい。
「衝突回避システム」は、「原子核のプラス電気同士が反発して避ける力」と同じと考えてください。
つまり、原子核同士もこれらの車と同じように、ゆっくりなら避け合いますが、あまりにも速いスピードだとぶつかります。
また、かなりギュウギュウ詰めなところに原子核がいるときも、ぶつかります。
つまり、核融合を起こすためには、原子核に、次の2つの条件が実際に必要なのです。
◆核融合を起こすために、原子核に必要な2つの条件◆
- 原子核を速いスピードにすること。→そのためには、物理学的には温度を高くすることが必要。
- たくさんの原子核をギュウギュウ詰めに押し込むこと。つまり、核融合を起こしたい原子核をたくさん集めて、さらに外から押しつぶすように力をかけ、密度が高い状態にする必要があります。
太陽で核融合が起こっているのに、地球で起こすのが難しい理由
今、紹介したように、核融合を起こすにはたくさんの原子核の温度を高くし、そして密度が高い状態にするという条件が必要です。
実は、太陽の中心部では、この条件がそろっているのです。
太陽の中心部の温度は、約1600万度と言われており、非常に高い温度です。
また、太陽の中心には重力で星全体の重さがのしかかっています。そのため、押しつぶされるような力がかかっています。この重力の影響で、中心部は密度が高い状態になっています。
このように、太陽の場合、核融合の条件が揃っています。結果、核融合が自動的に起こり続けているのです。
逆に、地球上で核融合を起こそうと思うと、太陽のような高い温度と密度の状態を人工的に作り出さなければいけません。その状態を作り出し、長時間維持し続けることは、現代の科学技術をもってしてもまだ達成できていません。
しかし、その困難に立ち向かっているのが、核融合の研究者たちなのです。
参考
太陽の内部で起きている核融合について、分かりやすい説明アニメーションが、以下のリンク先にあります。興味がある方はご参考としてください。
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