核融合発電を最速実現?FRC:逆転磁場配位(直線型)とは何か?①
この記事では、FRC:逆転磁場配位(直線型)と呼ばれる核融合方式を解説します。実は、最も核融合発電の実現が早いかもしれないこの「FRC」とは、一体何でしょうか?
FRC:逆転磁場配位は、人工核融合の方式の1つです。その名の通り、核融合プラズマを生成する装置部分の形が、直線状なのです。
当サイトでは他の記事で、トカマク型やレーザー核融合といった方式が、発電実用化には有望ということで解説してきました。
しかし実は、ダークホース的な存在として、このFRCがあります。なぜダークホースなのかというと、このFRC方式を用いて世界最速での核融合発電実現にチャレンジするベンチャー企業が存在するからです。
この記事で、まずはFRC方式の基本的な特徴を紹介します。
※ 下記ボタンをクリック後に、「Enter as a Visitor」を選択して進んでください。
FRC:逆転磁場配位とは?
まずは、FRC方式の基本的なことから紹介します。
FRC:Field-Reversed Configuration
FRCとは、Field-Reversed Configurationの略です。これを日本語で「逆転磁場配位」と呼んだり、「磁場反転配位」と呼ばれることもあります。
FRCは磁場閉じ込め方式
そもそもFRC方式は、「磁場閉じ込め方式」の一種です。つまりトカマク型のように、先にプラズマを作ってから、約1億度以上の高温と高密度の状態まで加熱・圧縮します。
ただ、トカマク型のようにプラズマを分単位以上の長時間維持することを目指すのではなく、FRCの場合は1秒にも満たない核融合反応を「パッパッパッ…」と連続で繰り返し起こすことを目指しています。これをパルス運転と呼んだりします。
FRCは直線型装置
同じ磁場閉じ込め方式でも、FRCとトカマク型装置との違いは色々とありますが、一番大きな違いはその装置の形です。
まずトカマク型の場合は、以下動画の代表的な装置「ITER(2024年現在建設中)」の炉心モデルのように、ドーナツ形のプラズマを作ります。そのため装置全体も、ドーナツ型プラズマを取り囲むように機器が配置されます。(詳細は、以下の記事を参考にしてください。)
一方、FRCの場合、プラズマを作る装置全体は長い直線状に並びます。以下の図は、米国の核融合のベンチャー企業であるTAE Technologiesが保有する「Norman」というFRC型実験装置の炉心です。
図を見ると、中心部に黄色い加熱用ビーム装置が複数突き刺さっているので分かりづらいかもしれませんが、それ抜きで装置全体を見ると、一直線上にあることがわかります。
FRCが作るプラズマの形
先ほど、FRCでは装置全体が直線状に並ぶと紹介しました。ですが、プラズマまで長い直線の棒状になるわけではありません。
FRCが作るプラズマの形も、ドーナツのような形をしています。ただし一般的なドーナツの形とは異なり、コッペパンのような丸みを帯びた形の中心に、細い穴が空いた形をしています。(ので、穴が空いているという特徴以外、ドーナツ形とは少しほど遠いかもしれません。)
以下の図の中心で白紫に光っているのは、先ほど紹介したFRC型装置「Norman」で作られるプラズマの形です。
また、その下のYouTube動画では、どのようにしてこのFRCプラズマが作られるかが紹介されています。この動画の中では、ビームの打ち方を変えてプラズマ持続時間を伸ばす方法も紹介されています。
FRCプラズマの形成
上の動画で見られるようにFRC方式の場合、トカマク型とは全く異なる磁気的な機構で、そのようなドーナツ型のプラズマ作ります。理論が複雑なので、別の記事で紹介したいと思います。
簡単に説明すると、上の動画で起こっていることは、装置両端から発射された2つのプラズマのまとまりを装置中央で衝突させます。その後、FRCプラズマを形成し、さらにビームによりプラズマの保持時間を伸ばしているというわけです。
この手法は昔から確立していた方法ではなく、近年になって発展させたFRCプラズマ形成手法で、Advanced Beam-Driven FRCと呼ばれます。訳すと、「先進的なビーム駆動型FRC」ということになります。
FRCのメリット
FRC型を核融合発電炉に採用する場合、どのようなメリットがあるかを、簡単に紹介したいと思います。
核融合発電所をコンパクトにできる
FRC型を採用して核融合発電炉を建設できた場合、発電所全体が非常にコンパクトになると言われています。
コンパクトになるということは、建設に必要な材料が少なくて済むため、その分建設コストが下がります。
発電所の建設コストは通常は電気代に反映されます。そのため、建設コストが低いことは、核融合発電炉が商用的に利用されるためには重要なのです。
超高温のプラズマを作れる
FRC方式には、コイルから発生する磁場の力を、プラズマ閉じ込めのために非常に効率よく使えるという特徴があります。それにより、トカマク型など他の方式ではなかなか到達できない数億度、十億度という温度領域まで、発電のためにプラズマを加熱することができるようになると言われています。
このような温度領域まで加熱して発電時に利用できる場合、使える核融合用燃料の選択肢が増えます。例えば1~2億度までしか加熱できない場合は、重水素と三重水素(トリチウム)の混合燃料しか使えません。しかし、数億度~十億度まで加熱できると、D3Heやp11Bといった核融合用燃料が使えるようになります。これらの燃料のメリットは、核融合反応時に中性子が発生しないことです(副次的には多少発生しますが)。
核融合反応時に中性子が発生しない、あるいは中性子の量が少ない程、放射線による危険のリスクが下がります。
FRC型の主な課題
もちろんFRC型にはメリットばかりではなく、技術的な課題もまだまだあります。
パルス運転の制御
先ほども紹介しましたが、FRC型の場合、基本的に分単位以上の長時間のプラズマ維持を行いません。秒単位もしくはそれよりもさらに短い時間の核融合反応を起こします。
ただ、その程度の短時間の反応で得られる核融合エネルギーは少ない。そこで、その代わりに「パッパッパッ…」と高速で核融合反応を繰り返す必要があります。
ただし、そのように核融合反応の高速繰り返しを実現・実証できるかが、今後の技術課題の1つとなっています。
核融合反応 ➤ 発電にどのように結びつけるか
FRCの場合、核融合反応を起こした後に、どのようにエネルギーを回収するかが1つの課題です。
トカマク型の場合、プラズマの周囲を覆い囲うように設置する「ブランケット」と呼ばれるパーツで、核融合反応のときに発生する中性子がもつ核融合エネルギーを、水などに伝えて回収します。
一方FRCの場合は、ブランケットを設置しにくい構造となっています。そこでその代わりに、「直接発電」と呼ばれる方式が採用されることが一般的です。直接発電では、核融合反応のときに発生する陽子(水素原子核)やヘリウム原子核等の荷電粒子から、電磁誘導の原理などによってエネルギーを取り出します。
しかし、核融合反応から直接発電により大電力を作り出した事例はまだ聞いたことがなく、その実力の程は課題であり注目されています。
なぜ、最近FRCが注目を浴びている?
FRCは、例えば日経新聞の記事では「第3の核融合方式」と呼ばれたりしています。トカマク型、レーザー核融合に続いて、第3に有望株の核融合方式ということと思います。しかし実際には、FRCはトカマク型と同じくらい長い歴史があります。
歴史的にはFRCよりも先に顕著なプラズマ性能の向上が見られたため、トカマク型の方が注目されてきました。しかし、近年になってFRC型でも、先ほど紹介したAdvanced Beam-Driven FRCという方式などの研究進展により、高いプラズマ性能が得られるようになりました。
(プラズマ性能が高いというのは、核融合反応に必要な条件である「高温かつ高密度」のプラズマに近づいたこと。)
FRCで核融合発電を目指す2大ベンチャー企業
現在、FRCは、米国の2大核融合ベンチャー企業でも研究開発が進められています。その1つは、先ほど紹介したTAE Technologiesです。
核融合発電の世界最速実現を目指すHelion Energy社
そしてもう1つは、Helion Energyという会社です。Helion Energy社は、TAE Technologiesとはまた少し異なるFRC型を採用しています。
Helion Enery社は、世界最速での核融合発電の実現を、FRC型装置により目指しています。なんとこの会社は、あのIT大手のMicrosoft社に対して、核融合反応を利用して発電した電気の供給を2028年までに実現する契約を結んでいます。(以下の記事を参考にしてください。)
もしこれが本当に実現すれば、おそらくHelion Energy社が本当に世界で最初の核融合発電を実現する企業となると見られています。そのため、FRC型は注目を集めているのです。
なお、この記事だけではFRCのすべてを説明しきれませんので、また別の記事でFRCの特徴・現状を深堀りしていきたいと思います。
コメント