核融合2.0!次世代核融合の燃料について解説!
この記事では、核融合に使われる燃料にはどんなものがあるのか、種類と、その反応の特徴について解説します。
これまで他の記事では、重水素と三重水素を燃料として、反応後にヘリウムと中性子が生じる核融合反応を取り上げてきました。
しかし、核融合の燃料はそれだけではありません。いくつか種類があり、反応後にできるものも、そして発電する方法もかなり違ってきますが、そういったいわゆる「次世代の燃料」があります。そこで、それらについてこの記事で紹介します。
重水素と三重水素 を燃料とする核融合(おさらい)
まず、重水素と三重水素の核融合について、Q&A-1『核融合とは』の記事のおさらいから始めましょう。なお、核融合の学術業界では、重水素をdeuteriumのD、三重水素をTritiumのTで表すので、この反応をDT反応と呼ぶことがあります。
さて、重水素と三重水素の核融合で、必要な温度は、一億度以上と言われています。
ここで、少し難しく感じるかもしれませんが、このグラフを見て下さい。今日の記事では、このグラフを使って色々と解説をしていきます。そのためグラフの見方をよく覚えてもらえればと思います。
核融合の燃料の種類ごとに、核融合反応の起きやすい温度が分かるグラフ
さて、このグラフは、『燃料の種類ごとに、核融合反応の起きやすい温度が分かるグラフ』になっています。
グラフの横軸は、核融合の燃料の温度と考えて下さい。横軸の単位の「keV」は、「キロエレクトロンボルト」と読みますが、1 keVでおよそ1000万度となります。つまり、横軸が101のところで10 keVのときが、およそ1億度となります。
このグラフは、右の方へ行くほど、温度が高くなることを意味しますが、ある温度のところで止まってみて、そのときのグラフのラインが高いところにあればあるほど、『核融合反応する燃料の原子核の数が増える』ということを意味するグラフだと思って下さい。
重水素と三重水素の核融合が起きやすい温度
それでは、重水素と三重水素の話に戻りましょう。このグラフで、まずは今だけ、他のラインのことは忘れて、重水素と三重水素のラインだけを見つめて下さい。
対数グラフという特殊なグラフなので少し見にくいですが、重水素と三重水素の場合、10 keV、つまり1億度以上になると、グラフの山の頂上に近づく。つまり核融合反応が起きやすくなる条件となります。
そして、さらに温度が高くなり、10の2乗と書いてある、つまり100 keVより右に行くと、逆に核融合反応が起きにくなり始める。そういった見方をするグラフだと思って下さい。
さて、重水素と三重水素の核融合は、他のライン、つまり他の燃料の核融合と比べても、低い温度のとろこに山の頂点があって、核融合反応が起きやすいことがわかります。
現在の技術では、1億度以上の高い温度を作り出し、長時間維持し続けることははっきり言って難しい。そのため、一番温度のハードルが低い、この重水素と三重水素を燃料にして核融合発電を実現しようとする計画が、核融合の業界の中では多いのです。
重水素同士 を燃料とする核融合
2つ目に紹介するのは、重水素と重水素、つまり重水素原子核同士の核融合。実は、重水素だけでも、重水素同士が核融合反応を起こします。
そもそも普通の水素と重水素、そして三重水素の、自然界での存在割合を見ると。普通の水素が99.99%。重水素は、地球上の水素全体の中でも、0.01%の割合で自然界に存在します。また、水素及び重水素の原子は水の分子に含まれ、自然界に溢れているので比較的入手に困らない物質です。
一方、三重水素は、宝くじの1等よりもはるかに低い割合でしか自然界に存在していません。また安く作ることもできないので、一説では価格が、グラムあたり数百万円とも言われています。
そのため、もし重水素だけを燃料とする核融合発電所を実現できれば、核融合エネルギーが普及する速度が加速するかもしれません。
重水素同士の核融合反応でできるもの
重水素同士が燃料となる場合の核融合反応は、次のようになります。重水素は、普通、この2種類の核融合反応のどちらかを起こします。
1パターン目をパターン(p)と呼ぶこととすると、これは、三重水素1個と陽子1個になる核融合反応。(メモ:陽子と、水素原子Hの原子核は、同じものを指します。)
2パターン目をパターン(n)と呼ぶこととすると、3He(ヘリウムさん)と呼ばれる物質と中性子1個になる核融合反応です。
1パターン目と2パターン目、どちらの反応を起こすかというと、確率的には五分五分と言われています。
注)「核融合」というときは、原子核にある「陽子」と「中性子」の数が変わる反応です。青い粒と青い軌道の「電子」は核融合反応には関わりませんが、一般の方向けに原子のイメージを沸きやすくするために描写しています。そのため、パターン(p)の生成物の「陽子」の周りに電子があると、水素Hだと思われる方がいるかもしれませんが、電子のことは気にせず図の表記も原子核のことを記述しているとして見て下さい。
重水素同士が核融合を起こす条件
また、重水素燃料同士が核融合を起こす条件について、先ほどのグラフで確認してみましょう。重水素同士の反応はDD(p)、DD(n)と下の図で描かれていて、それぞれ先ほど紹介したパターン(p)の反応と、パターン(n)の反応に対応しています。
すると、重水素同士が『核融合反応する燃料の原子核の数が増える』温度は、先ほど紹介した、重水素と三重水素の核融合のときより、もっと上の大きいということがわかります。山の頂上が見えませんが、102(=100) keV、つまり10億度以上の温度は必要と言われています。
ところで日本は、核融合炉用の実験施設JT-60という装置が、1996年にイオン温度5.2億度という温度を作り出し、ギネス世界記録に載ったことがあります。ですが、つまり核融合炉用の施設で10億度という温度を、長時間作り出すことは、このギネス記録の話から見ても誰でもすぐできる話ではないと思って下さい。
このように、重水素同士の核融合を実現するためには、重水素と三重水素の核融合よりも難しい条件をクリアしなければなりません。しかし、重水素は、先ほどお話したように、資源としては入手が難しいものではありません。そのため、重水素同士を燃料とする核融合炉を実現できると、核融合発電所の普及が進みやすくなるかもしれない、というメリットがあります。
重水素と3He(ヘリウム3)を燃料とする核融合
3つ目に紹介するのは、重水素と3He(ヘリウム3)という物質の核融合です。重水素はここまでで紹介しましたが、3Heとはどのような物質なのでしょうか。
そもそもヘリウムというのは、とても軽い気体で、私達の身近でも、遊園地の風船などに使われています。とても軽いので、一度手を話すと、空高くへ飛んで行ってしまうのです。ただヘリウムは、限られた場所でしか採取できないので、貴重な物質です。
3He(ヘリウム3)とは
3Heは、ヘリウムの仲間です。水素にも重水素と三重水素があるように、ヘリウムやあるいは他の原子にも、同じような関係を持つ仲間がいます。
同じような関係というのは、 Q&A-1『核融合とは』の記事でも紹介していますが、「原子核の陽子の数が同じでも、中性子の数が違う原子」です。このような関係を、同位体(アイソトープ)といいます。ヘリウムは、地球上にあるほとんどの原子は、陽子2個と中性子2個でできている、ヘリウム4です。単にヘリウムというときはこのヘリウム4を指します。この4という数字は、原子核の陽子と中性子の合計の数が2+2で4になるために付いています。
しかし、地球上にほんのわずかにヘリウム3が存在します。陽子が2個、そして中性子は1個。原子核の陽子と中性子の合計の数が2+1で3になるので、ヘリウム3と呼ばれます。ヘリウム4がある程度希少な物質であるのに、ヘリウム3はさらにほんのわずかしか地球上にないため、地球上では超希少な物質といえます。
重水素とヘリウム3の核融合反応は、中性子が出ない
さて、重水素とヘリウム3が核融合をするときの反応は次のようになります。反応のときにできるものは、陽子(=水素Hの原子核)と、陽子2個、中性子2個の通常のヘリウム4です。
ここで一つ注目してほしいのは、 反応でできるものに、 中性子が含まれないということです。これは先ほど紹介した 重水素と三重水素の核融合 や重水素と重水素の核融合とは違っています。
注)「核融合」というときは、原子核にある「陽子」と「中性子」の数が変わる反応です。青い粒と青い軌道の「電子」は核融合反応には関わりませんが、一般の方向けに原子のイメージを沸きやすくするために描写しています。そのため、生成物の「陽子」の周りに電子があると、水素Hだと思われる方がいるかもしれませんが、電子のことは気にせず図の表記も原子核のことを記述しているとして見て下さい。
中性子の性質
記事「核融合発電の仕組み[Q&A-17]」でも紹介していますが、核融合の後で中性子が出てくる場合、中性子のエネルギーを、炉の内壁である「ブランケット」というパネルを通る、水に吸収させて、熱水を作ります。そして蒸気を作り、その蒸気で発電機を回して、電気を作ります。
ですが、中性子というのは放射線の一種で、核融合からの中性子をそのまま浴びると、人体に有害なだけでなく、実は金属をもろくしたりする性質もあって、発電所の中の部品を劣化させたりもします。そこで、中性子が人に届かないよう分厚い壁を作ったり、危険な区域への立ち入りの厳重な管理が必要です。また、中性子に強い特殊な材料の研究開発や、あるいはメンテナンスでいちいち発電所を止めて、劣化部品を交換しなければならず、発電所にとっては中性子は致命的な問題も運んできてしまうのです。
重水素とヘリウム3の核融合のメリット・デメリット
さて、重水素とヘリウム3の核融合の話に戻ると、この核融合では中性子が出ません。出てくるのは、陽子、つまり水素の原子核と、陽子2個、中性子2個の通常のヘリウム4ができます。そのため、核融合反応なのに中性子が出ず、先ほどのような人体に有害な問題や、金属をもろくしたりする問題を避けることができます。このように、重水素とヘリウム3の核融合には人体への問題や材料開発の問題を易しくするというメリットがあるのです。
しかしながら、この核融合にも、技術的問題はいくつかあります。
まずは、中性子を使わずに、電気をどう取り出すか。この反応では、陽子1個と、ヘリウム4ができますが、これを使ってどう電気を作るか、核融合のエネルギーを効率よく電力に換えることができるかが課題です。
また、先ほどのグラフの話になると、この重水素とヘリウム3の核融合に必要な温度は課題の1つです。最初に紹介した1億度以上が必要と言われる重水素と三重水素の核融合と比べて、重水素とヘリウム3の燃料が十分に核融合するためには、数億度以上の温度が必要ということでやはり高いです。先ほどの重水素同士の核融合でも紹介しましたが、この温度を技術的に作り出すことはまだ簡単とは言えず、世界でも研究開発が進められています。
最後に、ヘリウム3の燃料資源をどう確保するか。です。先ほども少しお話しましたが、ヘリウム3の資源は、地球上には天然ではあまり存在しませんので、人工的に作るなどする必要があります。また実は、ヘリウム3というのは太陽で作られており、それが月の表面にまで飛んできて堆積していると言われています。そのため、重水素とヘリウム3の核融合発電を実現するときには、もしかするとロケットで燃料を月に採りに行ってくるなんて話になるかもしれません。
このように、特殊な燃料を使おうとすると、実現するための事情も超特殊になったりします。
水素とホウ素を燃料とする核融合
本日最後に紹介するのは、水素とホウ素11と呼ばれる物質の核融合です。このときの水素は、ここまで紹介してきた重水素・三重水素のようなレアな水素ではなく、身近でも取り扱われているようなただの水素です。ただの水素の場合、原子核には陽子1しかないので、核融合業界では、陽子の英語名protonの頭文字を使って、pと書かれることがあります。
そしてホウ素とは、原子記号が「B」で書かれる物質です。そのため、この水素・ホウ素の核融合を、pB核融合・pB反応と呼んだりもします。また、ホウ素は、ボロンと呼ばれることもあります。
ホウ素とはどのような物質か?
さて、ホウ素11とはとはどのような原子かというと、原子核が、陽子が5個、中性子が6個、そのため陽子と中性子の合計が11となる原子です。
ホウ素は、軽く溶けにくい半金属であり、ガラスに混ぜると耐火ガラスとなったり、殺菌剤に使われたり、ネズミの駆除剤に使われるなど、身の回りの品に使われており、これまで紹介してきた核融合の燃料と比べると、ずっと入手しやすい物質なんです。
水素・ホウ素核融合の反応式
そして、この水素・ホウ素 核融合のもう1つの特徴は、さきほど紹介した重水素とヘリウム3の核融合と同じように、中性子が出ない核融合反応だということです。
水素・ホウ素核融合反応で生じるのは、ヘリウム4、つまり通常のヘリウムの原子核3つだけです。中性子は出ません。
つまり、先ほど紹介した重水素とヘリウム3の核融合と同じメリットを、私たちの身近で扱われているような資源で得られるというわけです。
水素・ホウ素核融合の技術的難点
一方で、デメリットとしては、中性子を使わずに、反応後にできる大きなエネルギーを持ったヘリウムだけでどう発電するか。そして、さらに問題なのは、この水素・ホウ素核融合は、これまで紹介した他の核融合燃料と比べて、核融合を起こすために必要な温度が一番大きいので、技術的に実現が最も難しいのです。
このような特徴がある水素-ホウ素核融合ですが、とは言え私たちの身近で使われている資源が、核融合発電に使われるようになれば、電気やエネルギーが安くて使い放題になる世界も、夢ではなくなるかもしれませんね。
核融合ベンチャーと次世代燃料
さて、この記事で、核融合の次世代燃料について紹介してきました。しかし、「次世代だから夢のまた夢」という訳ではありません。実は特殊燃料を使った核融合発電を実用化しようとする核融合ベンチャー企業が、世界には幾つか存在するのです。
例えば、重水素とヘリウム3の燃料で核融合に挑む企業に、アメリカのHelion Energy社があります。
そして、水素とホウ素11の燃料で核融合に挑む企業に、アメリカのTAE Technologies社があります。
これらのスタートアップ企業が開発中の実験装置は、構造のベースは、磁場を使ってプラズマをコントロールする装置です。しかし、以前の動画で紹介した「トカマク型」ではなく、それとはまったく異なる「直線型」と呼ばれる装置なんです。
直線型装置の構造は、少し難しいのでまた別の記事で紹介したいと思います。が、ここで重要なのは、このように今や、特殊燃料を使った核融合の技術が、ベンチャーなどの民間会社で開発されつつあるということ。
つまり、夢のまた夢の話ではないということ、皆さんに知ってもらえたらと思います。
◆まとめ◆
- 核融合の燃料としては、重水素と三重水素(DT反応)の他に、重水素同士(DD反応)、重水素とヘリウム3(D3He反応)、水素とホウ素(pB11反応)がある。
- 約1億度以上が必要なDT反応以外は、核融合反応に数億度あるいは10億度以上の温度が必要。
- 一方、DT反応以外の核融合反応では、中性子が出ない核融合や、身近な物質で核融合反応を起こせるなどのメリットがある。
- 核融合の研究開発では、DT反応が主流。だが、Helion Energy社がD3He反応の、TAE Technologies社がpB11反応の発電実用化に向けて取り組むなど、民間企業でも、様々な燃料での核融合実用化に向けた研究開発が行われている。
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