核融合炉ではどうやって電気を作る?核融合発電の仕組みについて解説
この記事では、核融合反応が起きた後にどのような仕組みで核融合エネルギーを取り出すのか。そして、どうやって発電をするのか。その仕組みを解説します。なお、トカマク型核融合炉で、重水素と三重水素(トリチウム)の核融合が起きた場合の解説です。
これまでのQ&A-1〜5話では、重水素と三重水素の核融合について、またトカマク型とは一体どんな装置なのか、について解説してきました。
今回は、そのトカマク型で、重水素と三重水素の核融合反応が起きた後のお話。どういう仕組みで、核融合から電気を作ろうとしているのかを解説します。
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重水素+三重水素の核融合反応のおさらい
まず、少しおさらいをしましょう。
Q&A-1話「核融合とは?太陽が輝き続ける理由」では、重水素と三重水素の核融合反応について紹介しました。
重水素と三重水素の原子核が、太陽のように、核融合が起きるほどの超高温・高密度のプラズマになると、
核融合反応が起きて、ヘリウムの原子核と中性子ができます。
また、このとき、莫大なエネルギーが生じます。どのくらい莫大かというと、重水素と三重水素の燃料たった1グラムの核融合で、石油8トンが燃えたときと同じ大きさのエネルギーが出るのです。
核融合エネルギーはどこへ?
さて、核融合反応で発生したこの莫大なエネルギーは一体どこへ行くのか?についてですが、このエネルギーは、先程生まれたヘリウムと中性子が持って行きます。
イメージとしては、核融合反応が起きて、ヘリウムと中性子が生まれた瞬間に、とんでもない爆発が起きて、ヘリウムと中性子がものすごいスピードで飛び出したと思って下さい。核融合反応のエネルギーは、このヘリウムと中性子が飛んで行く勢い・スピードに成り代わります。
その後、ヘリウムと中性子は、ビリヤードのような動きをします。ビリヤードのような動きとは、例えばヘリウムが白い球だったとして、勢いを持って飛び出すと、自分の周囲にある原子核に自分のエネルギーを分散させながら飛んで行くイメージです。
このようにして、重水素と三重水素の核融合反応で、ヘリウムが飛び出したときのエネルギーは、重水素と三重水素のプラズマの中に分散していくので、プラズマ全体が温められます。これを、プラズマの「自己加熱」と呼びます。自己加熱は、核融合が起きた後もプラズマの温度を高温に保つために、非常に重要な働きなのです。
一方、ヘリウムと一緒に生まれた中性子については、次の章で説明します。
中性子の旅
ヘリウムと一緒に飛び出したもう一方の中性子についてですが、実は中性子が持った核融合による勢いこそが、この重水素と三重水素の核融合では、発電のためのエネルギーの基となるのです。
ここで、中性子の性質について、Q&A-2 核融合反応の条件から少しおさらいです。
原子核を構成する陽子と中性子。陽子には、プラスの電気という電気の性質があります。そのため、陽子を持つ原子核は、トカマク型のドーナツ磁場のかごに捕まって、そのドーナツの中をグルグル回ります。ヘリウムの原子核にも陽子が存在するので、重水素と三重水素の核融合で発生したヘリウムの原子核もまた、ドーナツ型プラズマの中をグルグル回ります。その間に、先ほど紹介した「プラズマの自己加熱」を起こすのです。
一方、「中性子」は、電気的な性質はなく、プラスでもマイナスでもない。いわゆる、電気的中性です。そのため、ドーナツ型磁場の影響を受けず、また重水素と三重水素のプラズマともほとんどビリヤードせずに、ものすごいスピードでプラズマの外へ飛び出していきます。
そんな超スピードという大きなエネルギーを持った中性子は、 プラズマを飛び出してすぐ、 トカマク型核融合炉のドーナツの内壁にぶつかります。
そしてこの内壁が、中性子のエネルギーを吸い取って、発電に使うための重要な役割を果たしています。
トカマク型炉の内壁 ブランケット
この、トカマク型核融合炉の内壁には、「ブランケット」と呼ばれる分厚い板を取り付けます。ブランケットは、ドーナツの内壁に、パネルのように取り付けられます。
このブランケットには、超スピード という大きなエネルギーを持った中性子を受け止めて、以下の3つの仕事をする働きがあります。
中性子を受け止めるブランケットの役割
- 熱水を作る➡核融合発電に利用
- 中性子を増やす
- 燃料の三重水素(トリチウム)を作る
それについて、ブランケットの仕組みと一緒に説明します。
ブランケットで熱水を作る➡核融合発電に利用
まず、一番重要な役割は、中性子のエネルギーを、水に吸収させることです。そして、熱水を作ります。
ブランケットには、水を通すための冷却配管が取り付けられています。中性子が水を通過するとき、中性子の持っているエネルギーが、水を温めるのです。
中性子は透過力が高く、 実は金属などもすり抜けやすい性質があるのですが、水には吸収されやすいという性質があります。そのため中性子が水があるところを通過すると、先ほどのビリヤードのようなエネルギーの分散を水に対して行います。そして水は、中性子に入ってこられると、中性子からエネルギーを受け取って温められ、熱水になります。
熱水ができれば、あとは火力発電や原子力発電などと、似たような発電の仕組みが検討されています。つまり、熱水を基に、水を沸騰させて蒸気を作る。そして、蒸気の力で発電機をグルグルと回して電気を作る。ここまでが、今回紹介した、トカマク型核融合炉で、重水素三重水素の燃料を使って核融合炉で電気を作る方法なのです。
ブランケットは中性子を増やす
ブランケットについて、熱水づくりの他の役割2つも紹介します。
まず1つは、中性子を増やす働きがあります。ブランケットの内部には、先ほど紹介した水を通す冷却配管と、さらに2つの材料が入っています。
1つは、ベリリウムという材料が入っています。ベリリウムは、速度の速い中性子が当たると、別の物質(ヘリウムなど)に変化してしまいますが、そのときに速度の遅い中性子2個ができます。
実は先ほど「中性子を水に吸収させて熱水を作る」とお話しましたが、プラズマから飛んでくる超高速の中性子よりも、速度の遅い中性子の方が水に吸収されやすいという性質があります。
そのため、速度が速い中性子1個から、水に吸収されやすい、速度が遅い中性子を2個も作るということで、とても重要な役割を果たしています。
ブランケットは、燃料の三重水素を作る
ブランケットには、もう1つ重要な役割があります。それは、中性子を使って、核融合発電用燃料の1つ「三重水素」を生成する役割です。
三重水素はトリチウムとも呼ばれる物質ですが、第1回目の動画でも説明した、水素の仲間の1種です。
ただ、地球上にないわけではないですが、とにかく存在する割合が低い。宝くじの1等を引くことがかわいく思えるほど、水素の中でもウルトラ激レア種だと思ってください。
水素は、「水」として地球上に多く存在しているので、海の水を含めて地球全体で見てしまえば、三重水素もそれなりに量はあります。ですが、例えばコップ一杯の水から、三重水素だけを取り出すという作業がとても難しいのです。何せ、宝くじの1等よりもさらに希少種なのですから。そのため、市場価格も、一説ではなんと1グラム数百万円とも言われるほど、超高価な物質です。
そんな三重水素を、ブランケットの中で作る仕組みが検討されています。核融合発電用ブランケットには、リチウムシックス:6Liと呼ばれる、リチウムの仲間の材料が入れられます。リチウムシックス6Liは、中性子が当たると、三重水素を生成する反応を起こすのです。
これにより、トカマク型核融合炉では、電気を作りながら燃料の三重水素も作ることができるという、画期的な仕組みを持っているのです。
核融合発電の仕組み おわりに
ここまでの説明のように、トカマク型核融合炉での重水素・三重水素の核融合による発電では、中性子がカギとなって、ブランケットで様々な作用を起こすことで発電する仕組みが考えられているのです。
なお、以下の図は、日本の国立研究所の量子科学技術研究開発機構が中心となって検討中の、核融合発電実証のための原型炉「DEMO(デモ)」の構想図です。
◆核融合発電の仕組み まとめ◆
トカマク型核融合炉で、重水素と三重水素の核融合反応の場合、次のことがポイント。
- 中性子の持つ核融合エネルギーが、ブランケット内の冷却水に吸収され、熱水となる。熱水を基に蒸気を作り、蒸気の力で発電機を回して電気を作る。
- ブランケットには、中性子を増やす働きを持たせる。
- ブランケットには、燃料の三重水素を作る仕組みを持たせる。
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