日本の核融合安全規制はどうなる?内閣府の検討TFで「考え方の骨子案」が公表
この記事では、日本における核融合安全規制の検討状況について、2025年1月時点での最新の状況を解説します。なおこの記事の内容については、2025年1月21日に開催された内閣府の有識者会合の資料を基にしています。
核融合の安全規制の制定に向けて、内閣府での有識者会合である検討タスクフォース(TF)が、2024年度より2カ月に1回以上のペースで開催されています。
そして2025年1月21日に開催されたTFでは、「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方(骨子案)」が、公表(ページトップの画像のとおり)されました。これにより、日本における核融合の安全規制について、一旦方針が整理されたと言えます。
規制の詳細の検討はまだ先になりそうですが、現2025年1月時点でどのような方針が整理されているかを解説します。
そもそもなぜ、核融合の規制が注目される?
カーボンニュートラルやエネルギー安全保障など、現代の様々な問題に貢献し得る新エネルギーである核融合発電。近年、日本では、フュージョンエネルギーとも呼ばれています。2020年代に入り、世界的規模で投資や技術開発競争が加速しており、多くのメディアでもその動向が注目されるようになりました。
しかしまだ、実際に発電を行う核融合炉としては世界のどこでも実現しておらず(2025年1月現在)、技術的な問題の解決と並行して、各国政府による核融合炉の規制の早期整備が望まれている状況です。
日本もまだ、核融合発電炉のための規制・法律の整備は完了しておらず、この記事で紹介するように「安全確保の基本的な考え方(骨子案)」がまとまったばかりです。
世界の動向は?
既に米国・英国は、核融合規制整備の観点で日本の一歩先を行っています。米国では2024年7月に「核融合装置を粒子加速器と定義し、核分裂(既存原子力発電)の規制から永久に分離」する法律(アドバンス法)が成立しました。これにより、核融合スタートアップが参入しやすい土壌が形成されるなど影響があります。核融合のような新技術に対する規制の早期整備は、国内産業競争力を高める上でも重要なのです。
なお、核融合の原理・技術や産業化の動向などを、ゼロからしっかり学びたいという方は、以下のリンクにある連載「フュージョンエネルギーに備えよ」も是非読んでみてください。特に核融合ビジネスへの参入を目指す方にはオススメで、文系の方でも読める内容になっています。
フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方検討タスクフォース
核融合の規制の在り方については、内閣府の「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方検討タスクフォース」(リンク先ページ内の下部にあり)という有識者会合で議論がなされています。
第8回のTFが2025年1月21日に開催され、ここで「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方(骨子案)」が公表されました。以下にこの第8回会議資料のリンク先を掲載しておりますが、「資料2」の方にその内容が記載されています。
第8回検討TF 資料リンク: https://www8.cao.go.jp/cstp/fusion/taskforce/8kai/8kai.html
フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方(骨子案)
先程紹介した「資料2」の中に、核融合安全規制に関する基本的な考え方の骨子案が、上図のとおり挿入されています。
この骨子案が今回の検討TF会議の目玉であり、今後の規制詳細の検討は、この骨子案を念頭に置きながら進むと考えられます。
安全確保の考え方を整理する上でのポイント
上の図にある骨子案を読み解くと、核融合炉に対する安全確保の考え方を整理するためにポイントとされたのは以下です。
◆ポイント◆
まずフュージョン(核融合)装置は原⼦炉等規制法の規制対象である「原子炉」には該当せず、「核燃料物質」「核原料物質」を使⽤しない。そのため原子炉等規制法の規制対象にはならない。
そこで、放射性同位元素等の規制に関する法律(RI法)の対象として、フュージョン装置を位置づけることが適当。
そして核融合炉の特徴である核暴走の恐れが無いという固有の安全性:
- ⼀定の範囲の温度等の条件を外的に整えたときにのみ起こる
- 燃料の供給や電源を停⽌することにより反応が停⽌する 等
があることから、他に想定される危険性としては以下:
- 放射線の発⽣と、三重⽔素・放射化ダスト等の放射性物質の取り扱い
- 設備等に反応等に伴う荷重が作⽤し、放射性物質の閉じ込め機能が失われること 等
が考えられる。これらによる放射線障害の防⽌が重要である。
核融合炉の安全確保の基本的な考え方
上記より、安全確保の基本的な考え方はまず以下の(1)が重要:
(1)安全確保の原則 … ⼀般公衆及び従事者の放射線障害の防⽌
※議論の情報共有・透明性を確保し、社会的に受容されるものである必要。
また今後、安全規制の検討を進める上で、次の(2)~(4)が重要としています。
(2)科学的・合理的なアプローチ … アジャイルかつグレーデッドな規制検討アプローチ
アジャイルは「(技術の進展に応じて)機敏に対応が可能な」
グレーデッドは「具体的なリスクの大きさに応じた」の意味がある
(3)安全確保の枠組みに係る早期の検討 … 多様な核融合炉のタイプがあり、それらに対して設計の初期の段階から、事業者が安全確保に取り組むことが重要
➤ 明確な規制・安全確保の体系の早期検討が不可⽋
(4)国際協調の場の活⽤ … G7やIAEA(国際原子力機関との連携)/過去、日本へのITER誘致に取り組んだ際の検討の蓄積も活用
検討の経緯や背景は?
では、この骨子案には何が書かれているのか?どういった背景でこのように整理がなされたのか?
既存の法律や、核融合炉の特徴などに触れながら、もう少し詳細を解説します。
先ほど紹介した第8回TFの「資料2」には、この辺りのことがよくまとめられていたので、その内容を基に解説していきます。
国内における原子力及び核融合関係の規制の現状について
上記までで紹介している、検討TFから公表された骨子案はあくまでも骨子案であり、これから核融合規制の詳細が検討されていきます。
この骨子案が検討される上で、
がどのようであったかが一旦整理されました。
また、規制検討の所掌となるのはどこかも整理がなされました。
原子力基本法
原子力基本法は、日本の原子力政策の基本方針を定めた法律です。この中で、
「原子力」とは「原⼦核変換の過程において原⼦核から放出されるすべてのエネルギー」と規定されており、原⼦核変換には、核分裂反応や核融合反応が含まれます。
また、「原⼦炉」とは、ウラン、トリウム等原⼦「核分裂」の過程において⾼エネルギーを放出する物質(核燃料物質)を燃料として使⽤する装置とされています。 ( ➤ 「原子炉」には核融合が含まれていない)
【重要】
つまり、原子力基本法の中では核融合炉は「原子力」として取り扱われるが、「原子炉」の取り扱いにはならないと考え方が整理されています。
原子炉等による災害を防止するための法律
参考リンク 電気事業連合会 原子力基本法とは :https://www.fepc.or.jp/supply/hatsuden/nuclear/policy/houritsu/kihonhou/
原子炉等による災害を防止するための法律には、「核原料物質、核燃料物質及び原⼦炉の規制に関する法律(原⼦炉等規制法)」があります。炉規法とも呼ばれます。
放射性同位元素等による放射線障害を防⽌するための法律には、「放射性同位元素等の規制に関する法律(RI法) 」があります。
【重要】
先程紹介した原子力基本法の中で、核融合炉が「原子炉」の取り扱いにならないのであれば、原子炉等規制法ではなくRI法により規制することが適当という整理になるということです。
1つ上の図を見てもらうとわかりますが、「核原料物質、核燃料物質及び原⼦炉の規制に関する法律(原⼦炉等規制法)」には数多くの規則が紐づいています。「核分裂」反応を利用する既存の原子力発電所はこの法律に基づき、大手電力会社が運営し、また大手重工メーカーを中心に建設がなされきました。しかし、企業としても対応する規則が多くなり、それによって産業参入障壁が高くなったため、限られた企業しか事業に携われなかった可能性があります。(もちろん安全第一となることが重要ですが。)
ですが今回の骨子案では、放射性同位元素等の規制に関する法律(RI法)の対象として、フュージョン装置を位置づけることが適当との方針が公表されました。この方針で核融合の安全規制検討が進めば、既存の原子力発電所と比較して、民間企業に対する核融合産業への参入障壁は下がるとの期待感があります。
重水素-三重水素を燃料とする核融合炉の規制の考え方
ただし、既存のRI法がそのまま将来の核融合発電炉に適用できるかどうかについては、まだ検討の余地があります。
これまでに建設されてきた核融合向けプラズマ実験装置はRI法に基づく「放射線発生装置」として規制されてきた(QSTのJT-60やNIFSのLHDなど)経緯があります。これらは実験用のプラズマ用ガスとして重水素や水素、ヘリウムを使用していたため、核融合反応はほぼ起らず、放射線の発生量はそれほど多くありませんでした。
一方で、将来の核融合発電炉では、燃料プラズマ用ガスとして重水素に加えて三重水素を利用することで、核融合反応により大量に放射線(主に中性子線)が発生します。この違いや危険性を鑑みて、RI法の対象としつつも追加の規制が加わる可能性は十分にあります。今後の規制検討の中でこの点をどう取り扱うか、その動向は注視していく必要があります。
規制の所掌
なお、原⼦⼒規制委員会設置法に基づき、「原⼦⼒利⽤における安全の確保に関すること」については、原⼦⼒規制委員会の所掌事務となっています。
そのため、今後の核融合炉規制検討の主体は、この骨子案を公表した検討TFから原子力規制委員会へと移っていくと見られます。
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参考リンク集 原子力関連法令 e-GOV
原子力基本法 ➤ https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC1000000186#Mp-At_3-Pr_1-It_1
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 ➤ https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000166/
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令 ➤ https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000324/
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