核融合発電で放射性廃棄物は出る?核融合「燃料」の視点で解説
この記事では、フュージョンエネルギー(核融合発電)の「燃料」と、放射性廃棄物の関係について解説します。
(核融合燃料以外の話を絡めると長くなるので、今回は割愛します。)
結論から言うと、将来のフュージョンエネルギーの利用、すなわち核融合発電では、現在の原子力発電所と同じように、放射性廃棄物が発生する場合があります。ただ、フュージョンエネルギーの場合は、使用済燃料の放射性廃棄物が出ません。この点で、原子力発電とは違いがあります。
この記事では、以下の解説をします。
- 放射性廃棄物の基本的なお話
- 燃料と放射性廃棄物の関係について、将来のフュージョンエネルギーと現在の原子力発電を比較
放射線についてのおさらい
まずは、放射線についておさらいをしましょう。放射線についての解説記事も、当サイトに掲載しています。
そもそも放射線とは、私たちの目には見えないが高速で飛ぶ粒子(原子核・陽子・電子・中性子)や、特定の電磁波ビームです。「目に見えないミクロの銃の弾」だと思ってもらえるといいと思います。
放射線は人体に健康被害などの影響を与える一方、レントゲンやがん治療などの医療技術にも利用されています。使い方を間違えると危険ですが、技術により人類にとって有効な使い方もできるという訳です。
また、放射線から身を守る方法も存在します。
以下の記事で、放射線についてさらに詳細を解説しておりますので、そもそも放射線を知らないという方は、まずはこちらから読んでみてください。
放射性廃棄物とは?
では、「放射性廃棄物」とはどのようなものでしょうか?
「放射性廃棄物」とは、放射線を出す物質を含む・付着する、廃棄物(ゴミなど)を指します。
なお、それ自体が放射線を出す物質のことを「放射性物質」といいます。
放射性廃棄物はどこから出る?
放射性廃棄物は、放射線を利用するほとんどの施設で発生します。その理由は、
- 放射性物質自体や、作業の中で放射性物質が少しでも付着したものも、廃棄時は放射性廃棄物となるため。
- 放射性物質自体に触れていなくても、そこから放たれる強力な放射線:ミクロな銃の弾に触れたものは、「放射化」することがある。
(「放射化」とは、もともと普通の物質が、放射線を浴びるなどして放射性物質に変化すること。放射線は透過力・貫通力が高いので、放射線が発生した場所の周囲を「放射化」させてしまうことがある。) - 「放射化」したものも、廃棄物(ゴミ)にするときは「放射性廃棄物」として処理しなければならない。
注) おさらい
- 放射性「物質」 … 放射線を出す「物」
- 放射「線」 … ミクロな「銃の弾」
- 放射「能」 … 放射線を出す「能力」
- 放射「化」 … 普通の物質が、「放射性物質に変化」すること
- 放射性「廃棄物」 … 「ゴミ・廃棄物」で、放射性物質自体や、放射性物質が付着するなどして含まれるもの
さらに専門的に「放射化」とは? ➤ https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_1213.html
なお、放射線の透過力・貫通力については、以下の記事で解説していますので読んでみてください。
そのため、研究開発や教育、医療、産業においても放射性物質や放射線を利用することにより、放射性物質が含まれていたり、付着したり、放射化している廃棄物が発生します。
放射線を利用する施設等には、以下のようなものがあります。
放射性廃棄物の例
例えば、以下の図のようなものが、放射性廃棄物として出ます。作業や清掃に使う小物から、建物のコンクリートや金属などの大型のもの、そして水やその他液体まで。放射性物質が含まれていたり、放射化していれば、放射性廃棄物として処分が必要になります。
原子力発電所(軽水炉)の場合は?
放射性物質や放射性廃棄物と言えば、原子力発電というイメージを持つ方も多いと思います。
以下の記事でも解説していますが、原子力発電所(軽水炉とも呼ばれる)では、ウランという物質を用いて、大量の強力な放射線を発生させています。この放射線のもつエネルギーを使って、水を加熱・沸騰させて、蒸気の力で発電機を回すのが一般的な原子力発電所です。
原子力発電所では強力な放射線が多量に放出されるため、放射化が起こり、先ほど紹介したような放射性廃棄物が発生します。
エネルギーを出し終わったウランも放射性廃棄物に
原子力発電所から出る放射性廃棄物の中でも、特に取扱いに注意が必要なのが、エネルギーを出し終わった後のウランです。このウランのことを、原子力発電所の用語では、よく「使用済燃料」と呼びます。
さて、上の動画を見てもらうとわかりますが、ウランはエネルギーを出し終わると、別の原子になります。つまり、燃料の燃えカスのような固体物が残るのです。(繰り返しになりますが、実際にウランに火を付けて燃やすわけではありません。が、エネルギーを出し終えると、残りカスのようなものに変わるということです。)
このウラン燃料の燃えカスのような固体物が、先ほど出てきた「使用済燃料」です。
実は使用済燃料からも大量の放射線が出続けているため、これを放射性廃棄物として扱うときには注意が必要です。
原子力発電所(軽水炉)の「使用済燃料」の処理はどうする?
実は原子力発電所(軽水炉)から出るこの使用済燃料の処理については、まだ日本国内で完結できない状態です(2024年6月現在)。
ごく簡単に説明すると、日本では軽水炉の使用済燃料を「再処理工場」というところに持ち込んで、まだ燃料として使えるものを取り出し、再利用しようとしています。ですが、青森県六ケ所村で工事中の再処理工場が、現在まだ稼働していないのです。
そこで、フランスの再処理工場に持ち込んで、再利用燃料を作っていました。ですが、2024年度の上期には六ケ所村の再処理工場が竣工できるようにと、工事が進められています。
用語
- 軽水炉の使用済燃料を、再処理工場などを通して再利用するプロセスを「核燃料サイクル」と言います。
- まだ燃料として使えるものを取り出し、再利用燃料としたものを、「MOX燃料」と言います。
使用済燃料の核燃料サイクルの参考情報リンク
高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物
よく、放射性廃棄物の話をするときに、「低レベル放射性廃棄物」と、「高レベル放射性廃棄物」という言葉を聞きます。これらは、原子力発電所から出る廃棄物の区分となります。
高レベル放射性廃棄物
高レベル放射性廃棄物というのは、先ほど出てきた「使用済燃料の再処理」で生じる放射能レベルの高い廃液を、高温のガラスと溶かし合わせて固体化したもの(ガラス固化体)です。
高レベル放射性廃棄物の放射能レベルが、天然ウランと同程度の有害レベルまで低下するには、数千年から数万年以上という単位の長い時間がかかります。
低レベル放射性廃棄物
一方、原子力発電所などで発生する、高レベル放射性廃棄物 以外 の放射性廃棄物は、「低レベル放射性廃棄物」と区分されます。
放射性廃棄物からは、低レベルであっても高レベルであっても、放射線が出ています。そして放射線が大量に出ていたり、放射線強度が強かったりする廃棄物ほと、近づくと人体の健康に悪い影響が出る可能性が高まります。
そこで、放射性廃棄物を処分するときには、人々の生活圏から隔離して保管し、人々の生活圏に戻ってこないようにする必要があります。そのために、地中に埋設する処分方法が検討されたり、既に処分が始まったりしています。
低レベル放射性廃棄物の処分方法は?
低レベル放射性廃棄物については、放射能レベルに応じた地中埋設処分の方法が検討あるいは実施されています。
低レベル放射性廃棄物は、放射能レベルの高い順に、L1、L2、L3と呼ばれています。L1~L3の違いと、その処分方法の違いを以下で説明しています。
- L1は、炉内から出る、比較的放射能レベルが高いもの(制御棒や燃料集合体を格納する箱など)
➤ 日本では、地下70m以深に埋設する「中深度処分」を行う - L2は、L1よりは炉心から遠い位置から出る、比較的放射能レベルが低いもの(ポンプや配管の一部など)
➤ 浅い地中に設置したコンクリート製のピットに処分する「ピット処分」を行う - L3は、L2よりもさらに炉心から遠い位置から出る、極めて放射能レベルが低いもの(コンクリートなど)
➤ 浅い地中にピットのような人工構築物を設置せずに処分する「トレンチ処分」を行う
中深度処分・ピット処分・トレンチ処分の違いについては、以下の概要図を参考にしてください。
参考説明
- 低レベル放射性廃棄物について … 放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
- 気体・液体・固体の放射性廃棄物処理 … 低レベル放射性廃棄物の種類と処理| 電気事業連合会 (fepc.or.jp)
高レベル放射性廃棄物の処分方法は?
高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)については、日本では、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」で地表から300メートル以上深い地層に処分すると決められています。
地層処分以外にも、以下の図のようにいくつかの処分方法が検討されましたが、様々な制約が存在します。一方、地層処分であれば、 ① 酸素が少なく、ものが変化しにくい ② ものの動きが非常に遅い ③ 人間の生活環境や地上の自然環境から隔離されている、という特徴を兼ね備えており、安全に処分できると考えられています。
ハードルが高い高レベル放射性廃棄物の地層処分
ただし実際には、日本での高レベル放射性廃棄物の地層処分は、まだ行われていません。
そもそも法律では、この地層処分の建設場所を選ぶに当たって、文献調査・概要調査・精密調査の3段階の調査を行うことが定められています。
2002年から、最終処分法で地層処分の実施主体として定められた原子力発電環境整備機構(NUMO:ニューモ)は、処分地選定のための調査受入自治体を公募してきました。が、文献調査にも長年着手できていませんでした。
そこで、国は2015年に、最終処分法に基づく基本方針を改定。自治体から手が挙がるのを単に待つだけでなく、国民や地域の方々の理解と協力を得ていくために、国が前面に立って取り組むこととしています。
この方針転換と国の活動により、最近では文献調査の受け入れを了承する自治体も現れ、ニュースで取り上げられました。
参考説明
- 高レベル放射性廃棄物の概要 … 高レベル放射性廃棄物|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
- 高レベル放射性廃棄物の地層処分について … 放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
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核融合発電でも放射性廃棄物が出る場合がある?
さて、いよいよフュージョンエネルギー(核融合発電)と放射性廃棄物の関係です。
核融合発電でも、多くの場合は放射性廃棄物が出ます。これは、核融合反応の生成物として強力な放射線が発生し、核融合炉の内部などを放射化するためです。
以下の表では、将来の核融合発電に使われる想定となっている燃料の組み合わせと、「→」の右側には、燃料が核融合反応を起こした後の生成物が表されています。これらの核融合反応後生成物はどれも、大きなエネルギーを持つ高速の粒子として飛び出してくる、強力な放射線です。
また、核融合用燃料の一種である三重水素(トリチウム)は、元々これ自体が放射線を出す放射性物質であることも、核融合炉から放射性廃棄物が出る理由の1つです。
核融合燃料の組合せ | 核融合 | 反応後生成物(原子核)|
---|---|---|
重水素 + 三重水素 | → | 中性子 + ヘリウム4 |
重水素 + 重水素 | → | 三重水素 + 陽子 |
→ | ヘリウム3 + 中性子 | |
重水素 + ヘリウム3 | → | ヘリウム4 + 陽子 |
水素 + ホウ素11 | → | ヘリウム4 が 3つ |
なお、核融合の燃料についてさらに深く知りたい方は、以下の動画や記事を見てみてください。
核融合発電炉と原発(軽水炉)の、放射性廃棄物の違いは?
それでは、将来の核融合発電炉と、現在の原発(軽水炉)では、放射性廃棄物にどのような違いがあるでしょうか?
1つ前に紹介した「核融合の主な燃料と、その核融合反応生成物」の表の中で、右側の反応生成物に注目してください。
ヘリウム3と4の原子核や、陽子がありますが、これらは反応直後の高速で飛んでいる間は放射線として危険です。ですが、速度が落ちてしまえば、これらは元々は放射性物質ではない「気体」なので、危険ではなくなります。
三重水素(トリチウム)は気体や水に交じって存在できる放射性物質ですが、その放射線の強度は微弱です。そして、元々は核融合の燃料になるものですので、核融合反応時に消費されるか、回収できれば再利用できます。
また、中性子は様々な物質を放射化する危険な放射線ですが、その際に物質に吸収されるなどするため、中性子だけで残ることはほぼありません。
つまり何が言いたいかというと、
フュージョンエネルギー(核融合発電)では、燃料の燃えカスとして、固体物の「使用済燃料」が発生しないのです。
従って、原子力発電所(軽水炉)での、使用済燃料の再処理プロセスのようなことも核融合発電ではないため、高レベル放射性廃棄物が出ません。
これらの核融合発電の特徴は、現在の軽水炉とは大きな違いでありメリットの一部です。
放射性廃棄物がほぼ出ない核融合発電も研究開発中
さらに補足すると、中性子や三重水素が発生しない核融合反応であれば、放射線による人体への危険や放射性廃棄物をより減らすことができます。
そしてそれが可能なのが、先ほどの表の一番下に出てきた「水素+ホウ素11」を燃料とする予定の核融合発電炉です。この反応では、ヘリウム4しか生成物が出てこないのです。ちなみにヘリウム4は、風船を膨らますヘリウムガスや、吸うと声が高くなるヘリウムガスに入っているものです。
重水素+三重水素を燃料とする核融合発電炉の方が、反応が起きる温度が低いために工学的に実現しやすいと言われていますが、水素+ホウ素を燃料とする研究開発も、FRC:逆転磁場配位を中心に進んでいます。以下の記事を参考にどうぞ。
◆フュージョンエネルギー(核融合)燃料と放射性廃棄物 まとめ◆
- フュージョンエネルギー(核融合発電)では、燃料の燃えカスとして、固体物の「使用済燃料」が発生しない
- ①により、高レベル放射性廃棄物が発生しない
参考 クリアランスレベルとは?
なお、ここまで放射性廃棄物の説明を色々としてきましたが、すべての放射性廃棄物が危険という訳ではありません。
大量の放射線を出し続ける放射性廃棄物があれば、その一方で、放射化の影響が小さかったために、ほとんど放射線を出さない放射性廃棄物も存在します。ほとんど放射線を出さないかどうかは、その廃棄物を計測装置で測定すれば分かります。
そして、「クリアランスレベル」とは、放射能レベルがきわめて低く、人の健康に対する影響を無視できるレベルであるものを指します。
このレベル以下の放射性廃棄物は、産業廃棄物として再利用または処分できる制度が設けられています。
活用事例
最近(2024年5月)のニュースでは、敦賀駅前の商店街に、「クリアランス金属」でできた18個の花のプランターが設置されたことがニュースになりました。
このように、放射性廃棄物の放射能レベルに合わせた、適切な廃棄物の取扱方法の制度化が進められています。
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