最先端ヘリカル型核融合炉は何が違う?プラズマの形に秘密が…!
前回の記事に引き続き、ヘリカル型核融合炉の解説です。
この記事では、特に最先端のヘリカル型核融合向けプラズマ実験装置について、どのような手法で設計されているかを解説したいと思います。
前回の記事では、らせん状にうねったのコイルの形を持つヘリカル型核融合炉を紹介しました。しかし、最先端技術で設計されたヘリカル型装置は、らせんの形をしたコイルは使いません。それにも関わらず、ヘリカルの弱点「うねり」成分を減らしたプラズマの形を、「自由に」決めることができてしまうのです。これにより、ライバルであるトカマク型に迫るプラズマ性能達成を目指しています。
どのような手法でその最新ヘリカル型核融合炉が設計されるのか、わかりやすく解説していきます。
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ヘリカル型核融合炉の特徴 おさらい
前話のQ&A-14話では、ヘリカル型核融合炉がどのようなものかを、トカマク型核融合炉と比べて解説しました。おさらいに、ヘリカル型の特徴(主要なもの)は、次のようでした。
- 磁場閉込め方式の核融合炉で、らせん状のうねりを持った「ヘリカルコイル」から作る磁場で、プラズマを長時間閉じ込める。
- 長時間運転に優れているものの、トカマク型と比べるとプラズマ性能が劣る。プラズマ性能が劣る原因の1つは、ヘリカルコイルの作る磁場構造が複雑でうねりを持つため。
①らせん状のうねりを持つコイルだけで長時間プラズマを閉じ込められるのに、②うねりのせいでトカマク型よりもプラズマ性能が劣る。①と②は相反していますね。この課題は、根本的に解決することはできません。
ですが、近年は最先端の技術で、そのうねりを緩和した最新のヘリカル型装置が登場しているのです。
最先端のヘリカル型核融合炉とは
まず、その「最先端の」ヘリカル型核融合炉とは一体どのようなものかをご紹介します。正確には、ヘリカル型の核融合発電装置はまだ存在しないので、核融合向けのプラズマ実験装置の紹介になります。
以下の図は、「Wendelstein 7-X(略記:W7-X)」と呼ばれる装置です。「ヴェンデルシュタイン・セブン・エックス」と呼ばれます。この装置は、ドイツのMax Planck Institute(マックス・プランク研究所)というところにあります。W7-Xは、世界にある最先端ヘリカル型装置でも、1、2を争う程の大きさの実験装置になります。
そして、このW7-X装置の主要コイルと、プラズマだけを抜き出した3Dモデルが、こちらです。青色のものがコイル、黄色がプラズマ形状です。
この図のように、このW7-Xでは、前回の記事で紹介したヘリカル型装置の「LHD」とは異なるコイル構造をしていることをお気づきでしょうか。
以下の図にあるLHDタイプのヘリカル型核融合炉の場合は、よく見ると2本のコイルがらせん状に巻かれていました。
それと比較すると、W7-Xの場合は多数のコイルがドーナツの周囲に並べられているようになっています。しかし、これでもヘリカル型の核融合向けプラズマ実験装置なのです。
W7-Xのように、多数のリング状の小さなコイルがプラズマの周囲を取り囲むようなタイプのヘリカル型核融合炉を、「モジュラーコイル」タイプのヘリカル型装置と呼びます。
モジュラーコイルタイプの登場
モジュラーコイルタイプのヘリカル型は、W7-Xのような最先端ヘリカル装置を建造する際に採用されます。
モジュラーコイルタイプでは、1つ1つのリング状のコイルをよく見ると、微妙にうねっていることがわかります。そして、そのうねりは、1つ1つ異なっています。このように、小さなうねりを持つコイルを多数並べることで、そのうねりがドーナツ全体でプラズマを閉じ込めるためのLHDのようならせん状磁場を作り出しているのです。
モジュラーコイルタイプの登場は、ヘリカル型プラズマの形を自由に設計できるようにするという技術革新をもたらしました。それにより、この記事の後で続く話のように、ヘリカル型の弱点であるうねり成分を緩和した、対称性のある磁場構造を持つヘリカル型装置を設計できるようになったのです。
最新ヘリカル型核融合向けプラズマ実験装置の設計方法
このW7-Xのような最新のヘリカル型核融合向けプラズマ実験装置が、どのような手順で設計されるか、紹介していきます。
プラズマの形を決める
まず、プラズマの形・性能を決めます。うねり成分が少なくなるようにプラズマの形を決めるのが、新型のヘリカル型核融合炉の設計で行われている最先端のプラズマ設計です。以下の図は、W7-Xのプラズマの断面形状ですが、こういった断面も1つの設計の指標です。プラズマ設計については、後ほどもう少し踏み込んで説明します。
コイルの形状を半自動で計算する
プラズマの形・性能が決まるということは、そのプラズマを閉じ込める磁場が決まるということになります。そして磁場が決まっているため、「その磁場を作るためにどのようなコイルをどこにどれだけ置けばいい。」ということをコンピューターシミュレーションにより決めることができます。もっとも、LHDのようならせん状のヘリカルコイルでは、自由な形のプラズマ閉じ込め磁場に対応できませんが、先ほど紹介したモジュラーコイルタイプの登場により、かなりプラズマ設計の自由度が広がったのです。
ただ一言で、「モジュラーコイルの置き方をシミュレーションで決められる」と言っても、本来なら簡単な話ではありません。同じプラズマ閉じ込め磁場を作るためのコイルの置き方は、コイルの数・場所・大きさ・形の組み合わせが無限通り存在するからです。その無限通りの中で、コンピューターシミュレーションの発達により、核融合炉に合うコイルの数・場所・大きさ・形を決めることが容易にできるようになったのです。
工学的な検討や、プラズマの検討から、コイルの数・形を調整する
しかし、そのコイル配置で核融合炉あるいは実験装置を本当に建設できるのかなどの検討が必要です。建設できない場合は、どのようにコイル配置を変えるかなどを検討して、シミュレーションをやり直すなどします。
このような流れで、最先端のヘリカル型核融合炉を設計していくのです。
最先端のヘリカル型プラズマ形状の決め方
次に、先ほど説明を後で行うとお伝えした、「うねり成分の少ない最先端のヘリカル型プラズマ」の形の決め方を、ここで説明していきます。
その前に、一旦以下の疑問からスタートしましょう。
そもそもトカマクが型がヘリカル型よりプラズマの性能が高いのは?
先ほどから、ヘリカル型のプラズマ性能はトカマク型に劣ると説明しています。そうなると、じゃあトカマク型の何が良いの?という話になります。
前回も今回の記事でも説明しているとおり、トカマク型には磁場構造にうねりが無いというのは1つポイントです。「うねりが無い」とも言えますが、別の言い方・見方をすれば、トカマク型は「ドーナツのどこでプラズマを輪切りにしても、磁場の構造が一緒」なのです。ちょうど、以下の図の中心にあるピンク色の「Plasma = プラズマ」部のような形が、他のドーナツ断面でもトカマク型では得られます。
このように、ドーナツのどの輪切り断面でも同じ磁場の構造が得られることを、核融合プラズマの専門用語で「対称性がある」と言います。
対称性があるとなぜ良いのか
なぜ、対称性があるといいのか。とてもざっくり・感覚的に説明すると、
「対称性があるというのは、プラズマ中の原子核・電子の通る道が、高速道路のような状態。対称性があれば、原子核と電子がプラズマの中で田舎道を進むようにあちこちへ行ったりと、ごちゃごちゃと動かずに済む。」
のです。その結果、核融合プラズマの中の原子核・電子がプラズマの外へ逃げにくくなり、プラズマの閉じ込めが良い状態になります。
この「対称性」というのが、ここからのポイントになります。
ヘリカル型でも対称性がある
一方、最近の研究では「実はヘリカル型でも、(完全ではないが)対称性を持つ磁場構造を作れる」ということが分かってきました。ここで言うヘリカル型の対称性とは、トカマク型のように人の目でも分かるものではありません。人の目には見えないが、プラズマが物理的な影響を受ける「対称性」があるのです。
そして、その対称性がある磁場構造のとき、ヘリカル型でも核融合プラズマの閉じ込めが良い状態になるのです。
このように、ヘリカル型核融合炉で作ることができる対称性を「準対称性」と呼びます。(完全な対称性ではないので、「準」がついています。)
(準)対称性の種類
このヘリカル型の準対称性には、
- 準ヘリカル対称
- 準軸対称
- 準ポロイダル対称
- 準等磁場配位
といった種類の対称性があります。(詳細はかなり難しいので説明スキップしますが。)
このような対称性などを持つように磁場構造が設計された、世界のいくつかの最先端ヘリカル型装置の、プラズマの「形」を下の図で紹介します。色は磁場の強さを表します。プラズマの中心にある文字は、その装置の名前です。この記事の冒頭で紹介したW7-XとLHDも含まれていますね。(LHDは、対称性のコンセプトがある磁場構造ではありませんが。)
正直、上の図を見ても「なんのこっちゃ?」と思われるかと思いますが、世界には色々な設計思想(コンセプト)で最先端ヘリカル型プラズマを考える研究チームがあるということです。
なお、余談ですが、トカマク型の持つ対称性は、上記のうちの「軸対称」と呼ばれるものです。
ヘリカル型磁場構造の準対称性はどうやって作れる?
準対称性を持ったヘリカル型核融合プラズマは、コンピューターシミュレーションによって形を決めていきます。
ただ、一言にシミュレーションと言っても、簡単すぐに終わるものではありません。核融合プラズマの内部で起きる現象は複雑さを極めており、すべての現象が解明されていません。そもそも、すべての現象が解明される日が来るのかどうか…という状況です。核融合プラズマは、それほど解明が難しいものなんです。
そのため、1つのアプリでボタン1つでシミュレーション完了!なんてことは起こりません。様々な研究者が過去の研究・プラズマ実験データを基に開発した、プラズマ中で起こる現象をシミュレーションするプログラムをいくつも使って、またそれらのデータを組み合わせてさらに別のシミュレーションを行うなどして、プラズマについて非常に多くのことを調べます。
その中に、対称性の具合を調べるためのシミュレーションプログラムがあるという言い方がわかりやすいでしょうか。なるべく、対称性がある形にヘリカルプラズマの形状を近づけては、その場合にプラズマの閉じ込めが良好かを様々な視点で調べます。時には研究者同士で議論し、より良いプラズマの形を検討します。
以上のように、最先端のヘリカルプラズマは、最先端らしからぬ苦労と複数のシミュレーションの積み重ね:シミュレーションコードの開発・プラズマ形状の検討・準対称性の確認・プラズマの閉じ込め状態の確認・研究者間での議論・過去の類似実験データとの比較などにより、決定されていくのです。
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W7-Xのプラズマの特徴・実験状況
なお、W7-Xもまた、準対称性の1つ「準等磁場配位※」を持った構造をベースに磁場構造すなわちプラズマの形が決められました。もちろん、それ以外の多数のプラズマ中の現象も、設計の時点でよく検討されています。
W7-Xは、既に2014年に主要部分の建設が完了して、現在は実験が精力的に進められているところです。
W7-Xは、形状が最先端ヘリカル型プラズマであるだけでなく、世界でも数えられるほどしかない「大型」のヘリカル装置です。(プラズマのドーナツ型リングの直径が11m程度。)
そんな世界でも希少な実験装置で、過去に行われた他のヘリカル型装置の実験記録を、どれだけ塗り変えてくれるか。W-7Xの今後に大いに期待です。
◆最先端ヘリカル型核融合炉のヒミツを解説 まとめ◆
- 多数のリング状のコイルがプラズマの周囲を取り囲む「モジュラーコイル」タイプを採用した最先端ヘリカル型装置の設計が行われている
- プラズマ閉じ込め磁場の中に「(準)対称性」を有する、最先端ヘリカル型プラズマの設計研究が行われている
- 有名な最先端ヘリカル型核融合向けプラズマ実験装置の1つに、Wendelstein 7-X(略記:W7-X)がある。
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