ヘリカル型核融合炉とは何?[Q&A-14]

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先に 核融合Q&A-1~5 までを読んで頂くと、記事の理解が早まるのでオススメです

この記事では、核融合炉の一種「ヘリカル型核融合炉」について、どのようなものかを紹介したいと思います。

核融合炉には、様々なタイプの方式、炉があります。当サイトで主に紹介しているのはトカマク型核融合炉ですが、今回のこの記事のように、トカマク型以外のものも紹介したいと思います。

目次

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ヘリカル型核融合炉とは?

ヘリカル型核融合炉の仕組み
画像引用元: 模型で見る核融合発電炉 (marumaru-yamane-fusion.blogspot.com)

ヘリカル型核融合炉は、トカマク型と同じで磁場閉込め式核融合炉の一種です。模型で説明すると、上の図のような装置になります。

また、日本には岐阜県土岐市に、「LHD(Large Helical Device)」と呼ばれる、かなり大型のヘリカル型核融合向けプラズマ実験装置があります。

LHDのホームページ及び以下の図の引用元: 学術研究基盤LHD計画 / 核融合科学研究所 (nifs.ac.jp)

LHD外観
LHDの外観

以下の図の引用元: 核融合・加速器:原子力:日立 (hitachi.co.jp)

LHDの極低温部組立
LHDの極低温部組立
LHDのプラズマと真空容器の内部
LHDのプラズマと真空容器の内部

核融合炉の方式・種類の比較

核融合炉の方式については、「磁場閉込め方式」の他にも「レーザー方式(慣性閉込め方式とも言われる)」などがあります。(参考記事:磁場閉じ込め方式とレーザー(慣性)核融合炉の違い?[Q&A-8]。)その中で、ヘリカル型核融合炉は「磁場閉込め方式」に属するということになります。

核融合炉の種類
画像引用元: 核融合研究:文部科学省 (mext.go.jp)

この「磁場閉込め方式」では、ドーナツ型の真空容器の中にプラズマを作って、磁場でプラズマをコントロールしながら、約1億度以上の核融合が起こる温度まで加熱します。今回紹介するヘリカル型核融合の他にも、当サイトで多数の記事により解説しているトカマク型核融合炉が、この方式です。

以降の解説を読んでもらうに当たっては、核融合の基礎知識が必要となります。基礎的なところを知らない読者の方におかれては、当サイトの「核融合Q&A」カテゴリの1話〜5話を先に読んで頂ければと思います。

ヘリカル型核融合炉とトカマク型核融合炉の違いは?

ヘリカル型核融合炉が実際にはどのようなものか紹介します。トカマク型炉と比較して見てみましょう。以下の図は、ヘリカル型とトカマク型の、コイルの造りの違いを紹介しています。

トカマク型核融合炉では、トロイダル磁場コイルと呼ばれるリング型のいくつものコイルが、ドーナツの周りに置かれていました。また、「プラズマ電流(核融合Q&A-5話参照)」を流すためのセンターソレノイドコイルが必要でした。

トカマク型核融合炉のコイル構造

一方、ヘリカル型核融合炉の場合は、コイルがドーナツの周りでらせん状にねじれていることがわかります。これを、「ヘリカルコイル」と呼びます。また、センターソレノイドコイルは必要ありません。

以下の図は、先ほど紹介したヘリカル型核融合向けプラズマ実験装置の「LHD」を、真空容器の中:プラズマができる場所から見た時の図です。ヘリカルコイルがらせん状にねじれ、うねって設置されている様子が内側からわかります。

画像引用元: 学術研究基盤LHD計画 / 核融合科学研究所 (nifs.ac.jp)

ヘリカル型核融合炉の原理

核融合Q&A-5話「トカマク型核融合炉」でも解説していますが、トカマク型核融合炉の場合は、まるでフレンチクルーラーのようにらせん状にねじれた磁場を作って核融合プラズマを閉じ込めます。

ヘリカル型核融合炉でも、この「らせん状にねじれた磁場」を造るのは、同じです。ヘリカル型核融合炉の最大の特徴は、磁場を作り出すコイルがらせん状にねじれているということ。そのため、磁場もらせん状になるということなのです。

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ヘリカル型核融合炉の強み

ヘリカル型核融合炉とトカマク型核融合炉、2種類の磁場閉込め方式の核融合炉を紹介していますが、ここでトカマク型に対するヘリカル型の特徴を紹介します。まずは、ヘリカル型核融合炉の強みから。

定常運転(=長時間運転)ができる

ヘリカル型核融合炉では、プラズマを閉じ込めるための磁場はすべてコイルが作り出します。そのため、プラズマを制御しやすく、長時間維持することができます。つまり、ヘリカル型核融合炉の研究が進んで、将来の核融合発電所がヘリカル型で建設された場合、長時間の発電ができることが期待されるのです。

なお、トカマク型核融合炉は、実は長時間運転が苦手です。現在建設中の国際熱核融合実験炉ITERもまた、トカマク型核融合炉ですが、このITERでも、世界で初めて「400秒」以上の核融合燃焼プラズマ持続達成を、実験の目的に掲げているほど。

もっとも、磁場閉込め方式の核融合炉の場合、トカマク型もヘリカル型も、装置のサイズが大きくなけれぱ長時間のプラズマ維持が難しい傾向にあります。(これまでの研究の蓄積により分かってきた。)そのために、ITERのようなこれまでにない超大型のトカマクを、国際協力の下で建設することにしたのです。

トカマク型はなぜ、長時間運転が難しいのか?

トカマク型の場合はヘリカル型と異なり、プラズマを閉じ込めるための磁場を「プラズマ電流」からも得ます。(当サイトの核融合Q&A-5話「トカマク型核融合炉」参照。)プラズマ電流とは、文字通りプラズマの中の電気の流れ(電流)です。このプラズマ電流の周囲に発生する磁場を、プラズマを閉じ込めるための磁場として利用するのです。

つまり、プラズマ閉込め用磁場をコイルから得るヘリカル型と異なり、トカマク型の場合はプラズマ内部の現象を閉じ込め磁場に利用するということ。この場合に問題になるのは、プラズマが何らかの理由により状態不安定になったときです。プラズマが不安定になるということは→プラズマ電流も不安定になる→プラズマの閉じ込め磁場も不安定になる…という負の連鎖が生じます。

トカマク型核融合炉で起こるこの負の連鎖は、せっかく発生させたプラズマの崩壊を引き起こします。このプラズマの崩壊現象は「ディスラプション」と呼ばれます。

ヘリカル型はプラズマ電流を利用せず、センターソレノイドコイルも不要

しかし、ヘリカル型の場合、プラズマ電流を利用しません。そのため、トカマク型のような負の連鎖とディスラプションが起こりません。このようなことから、ヘリカル型は長時間運転ができると期待されているのです。

また、トカマク型核融合炉の場合、プラズマ電流はセンターソレノイドコイルを使って発生させます。ですが、ヘリカル型はプラズマ電流を利用しないので、センターソレノイドコイルが必要ないのです。

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ヘリカル型の弱み…

ここまでの話を聞くと、長時間運転ができて、センターソレノイドコイルを造らなくてもよいヘリカル型の方が、トカマク型よりもいいんじゃないか、と思われるかもしれません。ただ、ヘリカル型はだからと言って良いとこ尽くめではなく、一長一短であることも紹介します。

ヘリカル型のプラズマ性能は、トカマク型に劣る…

ヘリカル型とトカマク型について、ドーナツ直径で同じ大きさの核融合炉を建設したとします。このとき、ヘリカル型のつくることができるプラズマの性能は、一般的にはトカマク型に劣るのです。

プラズマの性能とは、プラズマの密度や温度のことです。核融合反応を起こすためには、まるで太陽の中心部のように、プラズマを高温かつ高密度にしなければいけません。ヘリカル型の場合、トカマク型と比べると、核融合反応を起こす高温かつ高密度のプラズマを作るのが難しいと言われています。(同じサイズの核融合炉を建設して比較したとき。)

ヘリカル型はなぜトカマク型よりプラズマ性能を高くすることが難しいか

この理由ですが、ヘリカル型の作る磁場構造が複雑なことが、主な原因と言われています。複雑とは、ここではうねりがあることを意味します。

以下の図は、トカマク型とヘリカル型(代表的なヘリカル型)が作るプラズマの形のイメージを示したものです。左側がトカマク型、右側がヘリカル型ですが、ヘリカル型の方がプラズマの表面がうねっていることがわかります。

なぜ、ヘリカルのプラズマの表面がうねっているかというと、プラズマを閉じ込める磁場がうねっているため。さらに言えば、磁場がうねっているのは、そもそもコイルの形がらせん状にうねっているからなんです。

なぜ、うねりがあるとプラズマ性能が良くない?

プラズマの中では、磁力線(:磁場の向きのこと Q&A-4話 核融合プラズマと磁場の関係 を参照。)に沿って、原子核と電子が高速で動き回っています。ここでイメージとしては、原子核や電子は電車、そして磁力線は電車のレールのようなものと思ってください。レールがまっすぐなときは、電車がどれだけスピードを出しても脱線することはありませんが、レールが激しくうねっていたらどうでしょうか。脱線しそうですよね。

厳密には、原理は異なりますが、ヘリカル型のように「うねりがある」ということが、高温・高密度になったプラズマ中の原子核・電子の閉じ込めが悪くなってしまうのです。

高速移動する新幹線とうねりのあるレール

その他の弱み…ヘリカル型は、大きなドーナツを作らないといけない

ヘリカル型の別の短所としては、核融合炉のサイズをコンパクトにできないという点もあります。コンパクトにしようと思うと、ドーナツの中心部でのらせん状にコイルを巻くことが難しくなるなど、幾つかの問題点が出てきます。そのため、どうしてもヘリカル型核融合炉の場合は、トカマクに比べてドーナツのサイズを大きくする必要があり、その分建設コストが嵩んでしまうのです。

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ヘリカル型核融合炉の弱みの解決策はある?

そもそもヘリカル型の場合、根本的にプラズマからうねりを取ることは困難です。ですが、科学技術の進歩により、うねり成分を緩和した先進ヘリカル型実験装置も登場しています。これについては、次の話で説明したいと思いますので、次のお話[Q&A-15話]も読んでみてください。

ヘリカル型核融合炉の実現を目指すスタートアップ企業が日本に

実は日本に、ヘリカル型で核融合発電炉の建設を目指すスタートアップ企業が存在します。
その名は、「株式会社 Helical Fusion」

数少ない日本発の核融合スタートアップ企業の1つで、投資家からも注目されています。また別の記事で、こちらの企業にスポットを当てて紹介したいと思います。

リンク: 株式会社Helical Fusionホームページ https://www.helicalfusion.com/

なお、Helical Fusion社を含む日本の3大核融合スタートアップ代表者による対談動画へのリンクが、以下に紹介する記事の末尾にあるので、よければ参考にしてください。

◆ヘリカル型核融合炉とは? まとめ◆

  1. 磁場閉込め方式の核融合炉で、ヘリカルコイルから作る磁場でプラズマを閉じ込める。
  2. ヘリカル型核融合炉は長時間運転に優れているものの、トカマク型と比較するとプラズマ性能が劣る。
  3. プラズマ性能が劣る原因の1つは、ヘリカル型の作る磁場構造が複雑でうねりを持つためであり、近年は最先端の技術でそのうねりを緩和した装置も登場している。
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