ITERの所在地は?大きさは?出力は?建設サイトはどうなっている?
この記事では、国際熱核融合実験炉ITERの「所在地」や「大きさ」・「出力」そして建設サイトのマップなど、ITERの概要について紹介したいと思います。
そもそもITERって何?
ITERは、国際熱核融合実験炉(:International Thermonuclear Experimental Reactor)というものです。
参加7極:日本、EU、アメリカ、韓国、中国、ロシア、インドが、共同出資で建設し、実験を進める予定の核融合実験設備です。
2022年9月時点では、ITERの77%以上が完成している状況で、早期の全完成、実験の開始が望まれています。
ITERや技術詳細や、核融合の基本知識については、次の記事をご覧下さい。
この記事では、技術詳細というよりも、ITERの大きさや所在地などの基本情報について紹介したいと思います。
ITERの炉心の大きさ
まず、ITER核融合炉の炉心(:核融合反応が起こる場所)が、どのくらいの大きさなのかについて解説します。
量子科学技術研究開発機構(: QST)のITER日本国内機関Webサイトによると、ITERの炉心が収納されている容器(:クライオスタットと呼ばれる)の大きは、高さ約30 m、直径約30 mの円筒程度。以下の図のようになります。
これは、炉心部の広さだけで見れば、バスケットコート2面分程に相当するので、コート2面分の体育館の広さを想像して下さい。ただし、高さだけで見ると体育館よりもさらに大きいです。兵庫県にある姫路城の、石垣より上の城の建物部分が高さ約31.5mというので、炉心部の高さだけで見ればお城に相当すると思って下さい。
さらに、ITERの炉心に近づいて人の大きさと比べるとこのようになります。ピンク色のところが、核融合反応を起こすプラズマが作られている場所です。どれほど大きいかがわかると思います。(写真の真ん中下部に、オレンジ色の服を着た人がいます。)
ITERの出力
ITERは、「発電に必要な技術の実証」を行う研究炉です。そのため、実際の発電までは行ないませんが、核融合による熱出力を決めて設計されています。その出力は500 MW。これは、小型の原子力発電所1基が作り出すエネルギーの大きさに相当します。まさに、将来の核融合商用炉※と同等サイズの炉であると言えます。
※核融合商用炉:将来、核融合で発電した電気を、送配電網を使って需要者(一般家庭・産業向けなど)に送り、電気代収入を得る核融合発電所のこと。
なお、これほど大きい・大出力サイズの核融合炉が製作されるのは世界の歴史で見ても初めてです。サイズが大きいと、必要なパーツや構造物の重量が増します。すると、製作・輸送・組立などの難易度が軒並み上がります。商用炉サイズの核融合炉で実験をするということは、その核融合炉の製作・輸送・組立といった建設プロセスも問題なく行えるかどうかを技術的に確かめることになります。
ITERの所在地はどこにある?
ITERの所在地は、南フランスのサン・ポール・レ・デュランスです。まず、マルセイユという地中海沿いの街に飛行機で降り立ちます。そこから、エクサンプロヴァンスという街でバスを乗り継ぎ、さらに内陸に向かうと辿り着きます。
ITERの住所:
ITER Organization Headquarters
Building / Office Number / Department / Division (of the addressee,if known)
Route de Vinon-sur-Verdon,CS 90 046
13067 St. Paul-lez-Durance (France)
Tel:+33 4 42 17 68 88
ITER現地に滞在する予定のある方。あるいは、滞在に興味がある方。より詳しくは、以下のWebページに滞在者向け情報が掲載されています。
- 上気の画像の引用元である「ITERの建設地 | 核融合実験炉ITER日本国内機関・QST」
- Fusion Management 社が提供する「ITER出張・転勤」のWebページ
- ITER計画説明会Q&A | 核融合実験炉ITER日本国内機関・QST
- マノスク・観光/生活マップ | 核融合実験炉ITER日本国内機関・QST
また、ITERを見学したい場合、ITER機構本部に英語で直接申し込むことも可能です。団体でも個人でも受け付けているとのこと。以下のリンクからコンタクトをとってください。
ITER建設サイトにはどんな設備がある?
この記事の最後に、ITERの建設サイトの風景や、敷地内に一体どんな設備があるかを紹介していきます。以下に、ITERのサイト全景写真を転載していますが、2023年3月時点で撮影されたものです。これらの画像は少し小さくて見にくいかもしれませんが、スマホでは拡大して見ることもできますので、適宜拡大して見てください。
ITERはだだの核融合研究所ではない!工場まで敷地内に建設するマンモス施設
実は、ITERはその敷地内に、自身の炉心などで使用するパーツ・構造物の製作工場を持っています。製作したパーツを、そのままITERサイト内の工場から、研究設備(炉心などの)本体に運び込み、そこで組み立てるのです。
一般的には、研究所が工場まで持つということはなかなかありません。普通は、製作を依頼した会社の工場で大型機器を製作し、必要であれば輸送船、そして最後は輸送用の特殊なトラックなどで運び込みます。ですがITERの場合は、製作する必要がある構造物が大きすぎて、それを運んだまま一般の道路を通ることができないのです。そこで、ITERサイトの中に工場を持つに至っています。
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目立つ3大設備…変電設備・冷凍機建屋・トリチウム建屋
ITERには、将来の核融合商用炉でも必要となるであろう、特徴的な設備が幾つかあります。上の画像を見ながら、以下の解説を読んでみて下さい。
変電設備
まず、変電設備です。ITERに限らず核融合炉というのは、基本的には大電力を消費して設備を稼働し、消費した電力以上の出力を得るという特徴があります。つまり、核融合で巨大なエネルギーを得る前に、まずは電力をかなり消費しつつつ核融合反応を起こす準備をする段階が存在します。この大電力と言うのは、小型発電所1基相当にも及ぶため、変電設備がITERサイト内に存在するのです。
冷凍設備
次に、冷凍機建屋についてですが、これはただの冷凍庫ではありません。ITERで使用する超伝導コイルを-269℃という絶対零度に近い温度まで冷やすための冷凍設備です。主にヘリウムと言う冷媒を使用してその温度まで冷やすのですが、その予備冷凍には液体窒素を用います。また、冷媒の貯蔵タンクや圧縮機・真空ポンプなど、極低温の環境を作り出すだけでもかなりの設備が必要になります。2種類(:2系統)の特殊冷媒に対して、必要な冷凍設備を準備する必要があるため、冷凍系の設備が大型化するのです。
トリチウム設備
最後にトリチウム建屋ですが、トリチウム(:三重水素)とは、重水素と核融合反応を起こさせるための燃料です。トリチウムは水素ではあるのですが、放射能を有するという性質があるので、取り扱いには十分な注意が必要です。
放射性物質というのは、基本的には漏洩(ろうえい)させることが許されません。漏洩によって、一般の方が放射線被ばくすると健康に有害だからです。また当然、放射線を取扱う環境で働く作業者の方にも被ばくがあってはなりません。そのため通常、放射性物質を取扱う施設においては、放射線を取り扱う区域を「ホットセル」と指定します。そして、ホットセルへの出入りの際には都度、サーベイメーターと呼ばれる被ばく度チェック機での検査が必要です。
このように、放射線を取り扱うためには、厳重な漏洩・被ばくの管理が必要になります。設備自体も、そういった管理ができる設計でなければいけません。また、行政への申請も厳密に行わなければならないなど、様々なルールを守った対応が必要になることを知っておかなければなりません。
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