核融合炉で1億度にプラズマ加熱する方法?[Q&A-9]

Ref.: https://www.iter.org/
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先に 核融合Q&A-1~5 までを読んで頂くと、記事の理解が早まるのでオススメです

核融合炉のプラズマ加熱技術を紹介。1億度なんてどうやって作るの?

この記事では、核融合炉でプラズマを1億度に加熱する方法を解説します。実は、スマホ置くだけ充電・電子レンジ・ビームという身近な技術が応用されています。

(なお、この記事の加熱方法は、磁場閉じ込め方式の核融合炉である「トカマク型核融合炉」の加熱方法の解説です)

目次
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核融合炉では1億度のプラズマが必要

当サイトを含め様々な核融合技術の紹介サイトでは、「核融合炉では約1億度のプラズマが必要」とよく書かれています。ただ、どのようにして「1億度」という、太陽をも超える温度を作るのかは、あまり説明されていなかったように思います。

そこでこの記事で、1億度のプラズマを作り出すための、加熱の仕組みについて紹介します。

なお、そもそも「プラズマって何?」を知りたい方は、記事Q&A-3 「核融合とプラズマの関係」を先に読んでみて下さい。

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核融合炉のプラズマはどのようにできる?

ところで、トカマク型核融合炉の中で、プラズマがどのようにできるかをお伝えしていませんでしたね。

技術的な観点から説明したい核融合プラズマの特徴は色々ありますが、形を3D的に見やすい、いい動画があります。以下の動画をご覧ください。

引用元:https://www.iter.org/


これは、現在フランスに建設中のトカマク型核融合実験炉「ITER」の中で、プラズマが作られたときの様子を3Dモデルで表したショート動画です。この動画の中で、ピンク色に見えるところがプラズマで、つまりここが核融合が起きる場所です。実際のITERでは、プラズマの周囲はすべて金属容器に囲まれているのですが、この動画のモデルでは、プラズマの様子がわかりやすいように金属容器を一部外していると理解してください。ドーナツ型の金属の筒の中を満たすように、プラズマもまたドーナツ型に作られます。

さて、この動画の中で、画面中央左側に、濃いピンク色でもやがかかったような場所があります。これは、この後で紹介する「②電子サイクロトロン共鳴加熱」によって、プラズマが加熱されている様子を簡単に表しています。

また、この動画の画面中央右側からは、白い粒子のようなものがプラズマ中に入射されているのが見えます。これは、この後で紹介する「③中性粒子ビーム加熱」の中性粒子が入射されている様子を簡単に表したものです。

それぞれの加熱について、どのような原理で行われているのでしょうか?これから解説していきます。

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キーワードは、「スマホ置くだけ充電、電子レンジ、ビーム」

トカマク型核融合炉の中で、プラズマを1億度以上に加熱して核融合反応を起こすために、次の3つの加熱技術が使われます。それぞれの加熱方法の名前と、身近なもので似たような加熱の仕組みは、次のようになっています。

プラズマを1億度以上に加熱して核融合反応を起こすための、次の3つの加熱技術:

  1. オーム加熱 (スマホの置くだけ充電と同じ原理でプラズマに電気の流れを作り、プラズマを加熱する)
  2. 電子/イオン サイクロトロン共鳴加熱(電磁波による加熱で、電子レンジと同じような仕組みで加熱する)
  3. 中性粒子ビーム加熱(文字通り、ビームを用いた加熱)

①核融合プラズマのオーム加熱とは?

(オーム加熱は、ジュール加熱と呼ばれることもあります。)

この加熱は、核融合の燃料となる重水素と三重水素の気体を、まずはプラズマ状態にするときに使われる加熱方法です。

オーム加熱は、プラズマの中に電気の流れを作ることで、プラズマを加熱する方法です。例えば、こたつや電気カーペットなど、スイッチをONにして電気を流すと発熱するものは、身近にもたくさんありますよね。これとちょうど同じで、プラズマもまた、電気の流れを作ると発熱します。

実は、記事Q&A-5 「トカマク型核融合炉」では、スマホの置くだけ充電と同じ原理で、トカマク型のプラズマの中に電気の流れを作ることを説明しました。このときは、プラズマを閉じ込める磁場を作るために、電気の流れが必要と説明しましたが、実は同時に加熱をする役割も果たしていたのです。

以下の2つの図は、記事Q&A-5にある図と同じものです。この記事の、この図がある部分を探してもらうと、プラズマの中に電気の流れを作る原理の説明があります。

プラズマ電流を流すのと同じ原理な、スマホのワイヤレス充電
トカマクのCSコイルとTFコイル

ただし、このオーム加熱は、あくまでプラズマをまず作る段階で必要になるのみです。オーム加熱だけでは、1億度までもっていくことはできません。

そこで、次に紹介する他の加熱方法②・③が、オーム加熱のバトンを受け取って、プラズマをさらに加熱します。

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②電子/イオン サイクロトロン共鳴加熱とは?

難しい言葉が出てきました。が、「共鳴加熱」を一言で説明すると、電子レンジと同じような原理と思ってください。電子レンジの場合、「マイクロ波」と呼ばれる電磁波を飛ばして、食物中の水分を加熱します。トカマク型核融合炉でも、プラズマに電磁波を当てて、プラズマ状態の電子と原子核(ここでは、”イオン”=”原子核”と思ってください)を加熱します。

なお、「サイクロトロン」という言葉は、実は既にQ&A-4 核融合プラズマと磁場 で紹介しています。ドラゴンボールの魔貫光殺砲(まかんこうさっぽう)という技のように、らせんを描いて電子と原子核が動く現象のことです。

プラズマが磁場を受けたときの原子核のサイクロトロン運動
プラズマ状態での重水素原子核のサイクロトロン運動
プラズマが磁場を受けたときの電子のサイクロトロン運動
プラズマ状態での電子のサイクロトロン運動

そもそもなぜ電磁波が、水分やプラズマを加熱することができるのか?

この理由を簡単に説明すると、電磁波は、ブランコを押してくれる人のような存在だからです。

人がブランコを押すリズムが、乗っているブランコの揺れのリズムとぴったり合うとき、ブランコの揺れを大きくすることができますよね。

ブランコと共鳴

逆に、ブランコとリズムが合わない人では、ブランコの揺れを大きくできませんね。

電磁波でも、リズム(物理的には「周波数」と呼ばれます)が水分やプラズマの動きとぴったり合うものを当てれば、これらを加熱することができるのです。このリズム:周波数が、電子または原子核のサイクロトロン運動とぴったり合うことを、「共鳴する」と言います。

共鳴する電磁波を作ってプラズマに当てて、プラズマ中の電子や原子核を加熱するので、「電子/イオン サイクロトロン共鳴加熱」と呼ばれるのです。

ITERプラズマ用のハイパー電子レンジ「ジャイロトロン」

この共鳴する電磁波を作る装置は、プラズマ中の電子と原子核でそれぞれ異なります。プラズマ中の「電子」を加熱する電磁波を発生させる装置は、「ジャイロトロン」という装置です。原理は少し難しいのでここでは説明しませんが、例えばITERで使われるジャイロトロンは、一般的な電子レンジの約2,000倍のパワーがあります。これを1つではなく複数台使って、ITERのプラズマが加熱されます。

ITERが1億度を超えるプラズマを作る予定であるのも、これだけのパワーがあるジャイロトロンが使えるのであれば、少し納得ができるのではないでしょうか。

なお、ITERのジャイロトロンについて簡単に紹介しているマンガを、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 が発行しているので、そのリンクを貼っておきますね。

参考:ITER ジャイロトロンに関する説明のマンガ: https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/comic/page1_1.html

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③中性粒子ビーム加熱(NBI)とは?

この加熱では、加速した中性粒子のビームをプラズマ中に打ち込むことで、プラズマを加熱します。なお、中性粒子ビーム入射装置は、英語でNeutral Beam Injectorと表されます。そのため、NBIとも言われます。

ビームと言うと光や光線のようなイメージがありますが、核融合のためにプラズマ加熱に使うのは粒子のビームであり光ではないことに注意してください。「中性粒子ビーム」と言うのは、「超高速の重水素の原子」のことで、これをプラズマに打ち込みます。

ITERでは、33メガワットというパワーの中性粒子ビーム加熱装置が使われます。この33メガワットというのは、小規模な発電所1基のレベルに相当します。非常に大きなエネルギーを出せる中性粒子ビームをプラズマに打ち込むことがわかります。

※引用元:https://www.jaea.go.jp/02/press2009/p10031701/hosoku1.html

以下の画像は、ITERの中性粒子ビーム入射装置を、電源系まで含めて表した3Dモデル図です。ITERトカマク本体部分も相当大きいですが、NBIに関連する電源群の大きさはそれ以上であることがわかります。

核融合炉ITERの中性粒子ビーム加熱装置群
画像引用元…日立製作所ホームページ:https://www.hitachi.co.jp/products/energy/nuclear/accelerator/index.html

ここまで読んだら、記事上部の動画をもう一度見てみよう

ここまでで、トカマク型核融合炉のプラズマ加熱装置について一通り説明しました。

なお、ITER核融合炉のプラズマ加熱装置に関する写真や3Dモデルは、以下のリンク先にあるITER機構ホームページに幾つか掲載があります。

ITER機構ホームページ プラズマ加熱機器紹介: https://www.iter.org/mach/Heating

以下の図は、掲載されていた画像のうちの1つで、②電子/イオン サイクロトロン共鳴加熱装置の電磁波入射口と、③中性粒子ビーム入射口が、ITERのプラズマを形成する金属容器に対して、どういった位置関係に配置されるかを表しています。

  • 緑:電子サイクロトロン共鳴加熱装置の入射口周り
  • 青:イオンサイクロトロン共鳴加熱装置の入射口周り
  • 黄色:中性粒子ビームの入射口周り

これらの知識を得た上で、もう一度、この記事の冒頭にある動画を見てみると、より一層理解が深まるかと思います。

ITER核融合プラズマ加熱装置の配置
ITER核融合プラズマ加熱装置の配置 (緑:電子サイクロトロン共鳴加熱装置の入射口周り、青:イオンサイクロトロン共鳴加熱装置の入射口周り、黄色:中性粒子ビームの入射口周り、)

核融合反応を起こした後の加熱について

ここまでは、核融合反応が起きるまでに1億度以上までプラズマを加熱しなければならないということで、①〜③の加熱方法を紹介しました。

ただ、核融合炉が目指すのは、「核融合反応が起き始めるまで、プラズマを加熱する」ではありません。その先があります。その目指す先とは、「①〜③すべての加熱方法のスイッチをオフにしてほったらかしても、核融合反応が起き続ける状況」です。

なぜ、加熱をオフにしてほったらかしにしたいのか?

ほったらかしは少々言い過ぎでしたが、加熱装置による加熱をやめてしまいたいのは、①〜③の加熱装置はすべて、電力をとんでもなく消費するためです。先ほど、③中性粒子ビーム加熱のところでも少し説明しましたが、このビーム加熱装置だけでも消費電力は小さい発電所1基分です。

将来実現を目指している「核融合発電所」というのは、核融合反応を起こすまでに、プラズマ加熱などで先に大量の電力を消費します。その代わりに、消費した電気よりももっとたくさんの電気を、核融合反応を利用して作ることを狙っています。

各ご家庭など一般の消費者に、たくさん電気を作って届けるには、①〜③の加熱装置の消費電力を減らし、理想的には消費ゼロにできるといいのです。加熱装置に頼らず消費ゼロで、核融合エネルギーが得られる状態を、「自己点火」と言います。

なお、「消費した電力の何倍の核融合エネルギーを生み出せるか」を、「エネルギー増倍率 Q値」と呼びます。消費電力を完全にゼロにするというのはさすがに難しいので、ITERでは、Q≧10、つまり消費電力エネルギーの10倍の核融合エネルギーが得られることを、実験で確かめるという目標があります。なお、自己点火がもし達成できるときは、消費電力がほぼゼロとして、Q=∞(無限大)になります。

加熱装置①〜③をオフにしたら、じゃあ何がプラズマを加熱する?~ヘリウムによる自己加熱について~

重水素と三重水素の核融合反応が起きると、ヘリウムと中性子が生まれます。核融合による大きなエネルギーは、このヘリウムと中性子が受け継ぎます。

重水素と三重水素の核融合

中性子が受け継いだエネルギーは、発電のために利用されます。では、ヘリウムが受け継いだエネルギーはどうなるのかというと、実はプラズマを加熱するために利用されます。これを、加熱装置に頼らないプラズマ加熱であることから、「ヘリウムによる自己加熱」といいます。

ただ、実際に①〜③の加熱をオフにしても、ヘリウムによるエネルギーでプラズマが加熱され、核融合反応が持続するかどうか。これについては、世界でもまだ確かめられていません。ITERの実験で、ヘリウムによるプラズマ加熱がどのように起こるかについて、調べられる予定です。

◆核融合炉(トカマク)で1億度にプラズマ加熱する方法 まとめ◆

  1. トカマク型核融合炉のプラズマを1億度に加熱するために、次の3種類の加熱方法が使われる。
    • オーム加熱
    • 電子/イオン サイクロトロン共鳴加熱
    • 中性粒子ビーム加熱
  2. 核融合反応を起こすことができたら、これらの加熱装置に頼らずとも核融合反応が継続できる、「自己点火」の状態を目指す。
  3. 消費した電力の何倍の核融合エネルギーを生み出せるか」を、「エネルギー増倍率 Q値」と呼ぶ。ITERは、Q≧10を目指している。

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