「球状トカマク型」とは?次世代の核融合炉を解説[Q&A-22話]

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先に 核融合Q&A-1~5 までを読んで頂くと、記事の理解が早まるのでオススメです

球状トカマク型とは?トカマク型核融合炉が目指す次世代の姿について解説

この記事では「球状トカマク型」と呼ばれる、次世代のトカマク型核融合方式について解説します。

核融合の歴史の中で、一番多くの国で研究が重ねられたのはトカマク型という方式でした。

その研究データの蓄積もあって、トカマク型は現在、世界の核融合研究をけん引する方式となっています。

一方、トカマク型には、次世代の進化した形も考えられています。それが、「球状トカマク」なのです。

この記事で、「球状トカマク」とは一体何かを解説したいと思います。

目次
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トカマク型核融合炉のおさらい

まず、トカマク型核融合装置とは一体何かを思い出してください。

詳しい解説記事は、核融合Q&Aの1-5話、特に5話の「トカマク型核融合炉」で解説していますので、そちらを読んで頂ければと思います。

ここでは簡単に説明すると、ドーナツ型の燃料プラズマを作って、そのプラズマを太陽のような高温・高密度の状態になるように、加熱と圧縮・保持(閉じ込め)をします。これがトカマク型核融合炉の方式です。燃料がそこまでの高温・高密度になると、太陽のように核融合反応が起きるようになります。

以下の動画は、トカマク型核融合炉の典型例であるITER(2024年現在建設中)という装置でできるプラズマの形の3Dモデルです。

引用元: ITER – the way to new energy

トカマク型の基本は2種類のコイル

プラズマを宙に浮かせたまま、ドーナツ形に圧縮・保持(閉じ込め)をするためには、強力な磁場の力を使います。その磁場を生み出すためには、次の2つのコイルが必要です。

1つは、「トロイダル磁場コイル」という、ドーナツの周囲を取り囲むように並ぶ複数のコイルです。

もう1つは、ドーナツの穴の中心に突き刺す「セントラル・ソレノイドコイル」というコイルです。このコイルには、置くだけスマホ充電の原理で、プラズマに電流を流す役割があります。プラズマに電流が流れると、プラズマの中で磁場が発生するので、この磁場も使ってプラズマを閉じ込めます。

以下の図で、トロイダル磁場コイルと、セントラル・ソレノイドコイルの形・配置の例を紹介しています。

トカマクのCSコイルとTFコイル
トロイダル磁場コイルと、セントラル・ソレノイドコイルの形・配置の例
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球状トカマク型のコンセプト

それではここから、球状トカマク型について解説していきます。

球状トカマクとは、トカマク型を超コンパクトにした方式のことです。核融合反応を起こすためにやることは、一部を除いてほとんどトカマク型と変わりありません。

ただし、コンパクトにするために、構造上の変更やプラズマ研究のブレークスルーなど、様々なことが必要です。

球状トカマクは、英語では「spherical tokamak」と言います。

球状トカマクとは
球状トカマク装置の概略構造 画像引用元: Tokamak Energy社(https://tokamakenergy.com/)の過去の画像(画像はクリックで拡大可能

上の図は、民間企業で球状トカマクによる核融合炉実現を目指している、Tokanak Energy社(英国)の球状トカマク実験装置のモデルです。(ST-40という、既に実験を開始している装置の、プラズマができる中心部分の構造図。)

参考: Tokamak Energy社 https://tokamakenergy.com/

そして、次の図は、また上の図とは別の球状トカマク装置「MAST」と、それによって作られるプラズマのイメージ図です。このように、球状トカマクでは、外から見ると、ドーナツというよりもほぼボールのような丸っこい形のプラズマを作りだすのが特徴です。ただ実際には、中心部にドーナツの輪の穴が開いたプラズマになっています。

球状トカマクの概念図
球状トカマクのプラズマ

参考: MAST Upgrade https://ccfe.ukaea.uk/programmes/mast-upgrade/

この記事の上の方で紹介した、普通のトカマクと比べると、球状トカマクの方がドーナツの中心の穴が極端に小さい。そのため、コンパクトであると分かるのではないでしょうか。

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なぜ球状トカマク型が研究される?

球状トカマクの研究開発を進める一番のモチベーションは、トカマク型核融合炉の建設費の削減です。

トカマク型核融合炉では、真空容器・クライオスタット・超伝導コイル等々、多数の金属・希少金属を使用します。

詳しくは、記事「トカマク型核融合炉の炉心構造」を読んでみてください。

もし、装置自体をコンパクトにできれば、その分核融合炉にかかる材料費が減ります。さらには、組立工事の難易度も下がるので、工事コストも下がるのです。

材料費も工事コストも下がるので、コンパクトにした分だけ核融合炉の建設費用全体が大きく下がるのです。

核融合炉の建設コストが高いと、その費用回収のためには電気事業者は電気代を値上げしなければいけません。しかし、核融合炉の電気代が高いとなると、核融合で作った電気は売れなくなるというジレンマが発生します。

そのため、核融合発電炉の建設コストは下がらなければいけません。核融合発電に限らず、様々な発電方法には常に、「電気代を十分安くできるか」という課題が付きまといます。

球状トカマク型の課題

それでは次に、球状トカマク型で核融合発電を実現する上での、主な課題を紹介します。

①核融合炉の構造設計上の課題と、②プラズマ研究の課題があります。①の構造については、主な課題はドーナツ穴の中心部分の構造設計をどうするかの問題です。以下で解説していきます。

なお、以下の図は、先ほど紹介したTokamak Energy社の実験装置です。球状トカマク型実験装置「ST-40」と呼び、そのプラズマができる中心部の概略構造を示したものです。この中で、

  • toroidal field coilsはトロイダル磁場コイルを示します。
  • center columnはドーナツの中心部で、この近くにセントラル・ソレノイドコイルもあります。

さらにその下には、実際の内部の写真もあります。

この図を見つつ、以下の説明を読んでみてください。

球状トカマクの構造
Tokamak Energy社資料より引用 球状トカマク型実験装置「ST-40」の概略構造
球状トカマク型実験装置「ST-40」の内部
Tokamak Energy社資料より引用 球状トカマク型実験装置「ST-40」の内部写真

セントラル・ソレノイドコイルのスペース問題

まず、球状のコンパクトなトカマク型核融合炉にしようと思うと、ドーナツの中心に配置されるセントラル・ソレノイドコイルを如何に細くできるかが問題になります。(あるいは無くせるか。)

セントラル・ソレノイドコイルは、トカマク型核融合炉でドーナツ型プラズマを発生させ始める初期の段階で、必要と言われています。逆に言えば、セントラル・ソレノイドコイルがないと、トカマクプラズマを安定して発生させることが難しいのです。

また、細いセントラル・ソレノイドコイルだと、その役割を発揮するパワーが足りません。そのため、難しい課題なのです。

なお、上記のような話は核融合プラズマ物理の一般論ですので、このあたりのプラズマ研究は今後進展するかもしれません。

また、プラズマを1億度以上に加熱する方法については、次の記事でまとめているので読んでみてください。

トロイダル磁場コイルを細くしなければいけない…超伝導の課題

球状トカマクの課題として、先ほどはセントラル・ソレノイドコイルの課題を説明しました。ですが、トロイダル磁場コイルにも課題があります。

トロイダル磁場コイルは、細くしなければいけません。なぜなら、トロイダル磁場コイルは、ドーナツの「穴」を通るからです。球状トカマクのコンセプトが、「ドーナツ穴を小さくしてトカマク装置全体をコンパクトにする。」ことなのに、トロイダル磁場コイルが太いと、ドーナツ穴のところで場所をとってしまうのです。

そこで、先ほど出てきたイギリスの球状トカマク研究開発企業「Tokamak Energy」社では、細くても強い磁場を発生させることができる、高性能の超伝導コイルの開発も行っています。

燃料トリチウムの増殖が十分にできるか?

トカマク型核融合炉のブランケット
ブランケット 画像引用元 https://www.iter.org/

トカマク型核融合炉では、実は「燃料の1つトリチウムを発電しながら作る」という仕組みが検討されています。「ブランケット」という、プラズマの周囲を取り囲むパネル状のパーツで、トリチウム(三重水素)を生産するのです。

(ブランケットについて、上の図に例となるモデル図があります。さらに詳しくは、以下の関連記事・動画をどうぞ。)

このブランケットを置くスペースも、球状トカマクのドーナツ穴の中心では確保しづらいのです。

それならば、ブランケットを置かないという手段もあります。ですが、ブランケットがない分トリチウムも入手できなくなってしまいます。

トリチウムは、自然界にはほどんど存在せず、簡単には人工的に作れないのでとても高価なのです。(1グラム数百万円と言われることも。)そのため、ブランケットを設置しないこととするかどうかは、発電所の運営コストにも大きく関わるので、簡単には決められないのです。

なお、トカマク型核融合炉の設計や、ブランケットについてさらに知りたい方は、以下の記事をどうぞ。

球状トカマクは実験データが少ない

ここまでで紹介したように、球状トカマクは、一般的なトカマク型核融合炉の次世代の形であり、その実現には多くの課題があります。

そのため、世界の研究の風向きとしては、まずは一般的なトカマク型の研究開発の方が優先とされています。そのため球状トカマク型実験装置の数は、一般トカマク型実験装置と比べて、世界的に見ても少ないのです。そのために、まだまだプラズマ閉じ込め実験のデータが十分とは言えません。

(もっとも、一般的なトカマク型ですら、2024年現在フランスで建設中の「ITER」での実験データが十分そろうことが待ち望まれている状態です。)

そのため、球状トカマクの研究が様々な国で行われるようになり、実験成果の情報交流によりさらに世界の研究開発が進むといった流れが必要です。

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イギリスを中心とした球状トカマク研究開発の展望

1つ前の章では、「球状トカマク型装置は世界でも数がまだまだ少ない」と説明しました。ですが、何も進んでいないわけではありません。

実は、見出しのとおり、イギリスが球状トカマクの研究開発に力を入れています。イギリスは、民間企業も政府も球状トカマクを推進しようとしているからです。

イギリスの企業と政府、両方の動きについては、次の記事で紹介したいと思います。ここでは、企業名やプロジェクト名だけ簡単に紹介して終わりたいと思います。

Tokamak Energy社

球状トカマクの研究開発を、民間企業だが自分たちだけで進めてしまう、イギリスで最も大きな核融合スタートアップ企業。核融合反応に必要な1億度という温度も既に実現しているのが、同社の実験装置「ST-40」である。

球状トカマク型実験装置「ST-40」
Tokamak Energy社資料より引用 球状トカマク型実験装置「ST-40」の外観

Tokamak Energy(トカマク・エナジー)社の歩み https://tokamakenergy.com/about-us/

MAST (Mega Amp Spherical Tokamak))

MASTは、イギリス オックスフォードのCCFE: Culham Centre for Fusion Energyにある球状トカマク実験装置の名前。2000年~2013年まで実験が行われた。現在装置のアップグレード中である。さらに新しい球状トカマクプラズマの知見が研究によって明らかになることが期待されている。ITERにも寄与する。

球状トカマク「MAST」の装置概略モデル 画像引用元: https://ccfe.ukaea.uk/fusion-energy/the-tokamak/

CCFEの歴史: https://ccfe.ukaea.uk/about-ccfe/history/

JET: Joint European Torusについて

なお、CCFE: Culham Centre for Fusion Energyには、球状トカマク型のMASTとは別に、「一般的なトカマク型」のJETと呼ばれる実験装置がある。

JET:Joint European Torusは、世界3大トカマクの1つと言われる、ヨーロッパでも最大のトカマクである。JETでは、希少なトリチウムを用いた実験が行われ、実際に重水素-三重水素の核融合反応を起こした実験データが取得された。

実際に重水素-三重水素の核融合反応を起こすトカマク装置は世界でもあまり存在しないため、JETは世界の核融合研究の進展を牽引する存在であった。

2023年末に最後の実験が行われ、JETはその役割を終えることとなった。しかし最後の実験では、これまでの世界のトカマク実験でも最大のエネルギーを核融合反応で生み出したことがニュースとなった。

イギリス政府のSTEPプロジェクト

英国政府は2月6日、英国の核融合プログラムを実行するための機関として、英国インダストリアル・フュージョン・ソリューションズ(UKIFS)の設立を発表した。同機関は、球状トカマク型エネルギー生産(STEP:The Spherical Tokamak for Energy Production)施設を2040年までにウェストバートンで建設する予定だ。

上の画像引用元: UK Atomic Energy AuthorityのSTEPプロジェクト  https://step.ukaea.uk/

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