この記事では、 2025年12月時点で、核融合(フュージョンエネルギー)への官民投資が世界でどのくらい行われているか、特に金額規模が大きいものについての状況を紹介します。
最近のSNSへの投稿やネット上のニュースを引用して、情報を整理しています。
先に結論から言うと、日本国内での核融合投資額は、主要海外勢である米・中・英国と比較すると若干低い傾向にあります。 そのため、日本国内の核融合スタートアップや関連企業に対する投資が増えることを期待しています。
その一方で、日本の産業界には、海外の投資獲得額が大きい企業に積極的にアプローチして案件を受注し、核融合炉の建設やパーツ製造のノウハウを獲得してもらいたいとも、私としては考えています。
そのノウハウは、今後日本が核融合を推し進める上で役立ちます。
この記事で簡単に整理する情報を元に、どの国のどの企業や、政府系プロジェクトに、資金が集まっているかを知ってください。
グローバルな核融合投資状況の俯瞰

参考にしたレポート(上のグラフの引用元も兼ねる): ”Global Investment
in the Private Fusion Sector” Report from the F4E Fusion Observatory Second edition (https://fusionforenergy.europa.eu/wp-content/uploads/2025/11/F4E_Observatory_2025_digital.pdf)
国際熱核融合実験炉ITERのプロジェクトには、欧州の国々は「Fusion For Energy (略称: F4E)」として参加していますが、
このF4Eが最近発行した、核融合のグローバルな民間投資に関するレポート(上記、2025年11月発行)によれば、
- 現在までの、世界の核融合民間企業への累計投資額は、130億ユーロ(2兆3,400億円)
- この3ヵ月で、99億ユーロから130億ユーロに急増
(1ユーロを180円とおけば、99億ユーロ=1兆7,800億円から130億ユーロ=2兆3,400億円への、5,600億円の急増) - 累積的な投資額の推移は上のグラフのとおりで、2020年代に入り急増し、その勢いは続いている
(上のグラフの縦軸は100万ユーロが単位なので、縦軸の最大値に15000とあるのは、15000×100万ユーロ=150億ユーロ:約2兆7,000億円のこと)
この3ヵ月の主要な核融合民間投資について
- 米国では、9月にCommonwealth Fusion Systems(CFS)が7億9,700万ユーロのシリーズB2を調達し、2021年以来最大の資金調達額増加を記録。
これに続き、ENIはCFSが計画する400MWのARC炉について10億ドル以上の電力購入契約を発表(これは、6月にGoogleが200MWのPPAを締結した後、3か月間で2件目の大型オフテイク契約となる)

- 欧州では、Proxima Fusion(先進ヘリカル型核融合炉)の1億3,000万ユーロのシリーズAとその後の1,500万ユーロの追加調達が牽引(Proxima Fusionは欧州で最も資金調達額の多い核融合スタートアップ企業の一つとなった)

世界のリーダー的核融合スタートアップ
上記のレポートでは、現在世界には77社の核融合関連企業があるといいます。
米国は42社の企業に対して69億ユーロ、世界の資金の53%を投入し、1位となっています。
中国はわずか8社ですが、44億ユーロ(34%)で米国に次ぎます。中国の投資は主に国営の取り組みのおかげで追いつき、米・中による二極化の様相を呈しています。
実際、米・中の両市場にはすでに「ユニコーン企業」が存在しています(以下)。
- Commonwealth Fusion Systems(米国、26億ユーロ)
- China Fusion Energy Co. Ltd(中国、19億ユーロ)
- NEO Fusion(中国、19億ユーロ)
- TAE Technologies(米国、13億ユーロ)


米国の民間投資の状況

米国の民間核融合の投資状況について、
上の図は、米国の核融合産業協会:Fusion Industry Association (FIA)が発行する2025年発行版の年間レポート内から、「この1年間の注目すべき投資(獲得額)※」に関する掲載情報を抜き出したもので、以下にも箇条書きで抜き出しています。この情報の中の企業は、ほとんどが米国発の核融合スタートアップ企業であり、米国における活発な核融合投資の状況がわかります。
<補足> $100 million = 150億円 ($1=150円とおいた場合)
- Pacific Fusion (米・パルス磁気慣性核融合)… $900 million
- Helion Energy (米・直線型磁場閉じ込め)… $425 million
- Marvel Fusion (独・レーザー核融合)… $200 million
- TAE Technologies (米・直線型磁場閉じ込め)… $150 million
- Proxima Fusion (独・モジュラーコイル先進ヘリカル型磁場閉じ込め)… $150 million
- Zap Energy (米・せん断流Zピンチ)… $130 million
- Tokamak Energy (英・トカマク型磁場閉じ込め)… $125 million
- Focused Energy (独・レーザー核融合)… $110 million
- Type One Energy (米・モジュラーコイル先進ヘリカル型磁場閉じ込め)… $64 million
- ENN Science and Technology Development (中・?)… $55 million
- Realta Fusion (米・磁気ミラー型磁場閉じ込め)… $36 million
- Renaissance Fusion (仏・独自改良モジュラーコイル先進ヘリカル型磁場閉じ込め)… $36 million
個人的には、これらの海外核融合スタートアップ企業に対して、日本のメーカー方に積極的アプローチをして頂き、ビジネスチャンスを狙って頂きたいと思います。
※ この情報は、2024年半ば~2025年半ばの1年間の情報であるため、それよりも過去 or 後に巨額投資を受けていても、その情報は含まれていません。前章で言及したCFS社に関する大型投資情報が掲載されていないのは、その投資のタイミングが、このレポートが発行された2025年7月以降であったからと考えられます。
中国のプロジェクト・核融合スタートアップ
結論から述べると、
中国の政府系核融合プロジェクトや、中国発の核融合スタートアップ企業について得られる情報は、現在のところ非常に断片的かつ限定的です。
明確な理由は分かりませんが、プロジェクトの詳細やスタートアップ企業のWebページがなかなか見つかりません。
一方で、ニュースなどで入手できるその断片的な情報に注目すると、中国の核融合プロジェクトのスピード感と資金投入量は、政府の強固な支援が後ろ盾にあることで、記事冒頭でもお伝えしたように世界トップの米国にも匹敵するものとなっています。
BESTトカマクの国家プロジェクト
中国は、スタートアップというよりは政府系研究機関を中心に大型の核融合プロジェクトを推進している点で、米国とは対照的です。これに関しては、以下の記事を読んでもらうと状況が掴めます。
さて、直近で中国が政府を中心に進めているプロジェクトに、「BEST」というものがあります。
このプロジェクトは、将来の核融合発電所サイズよりも小型のトカマク型核融合炉を建設するものです。
このBESTプロジェクトの目的は、まだ世界のどこでも実現されていない「核融合反応による発電」を、世界に先駆けていち早く実証することにあります。また、基本的に中国「国内」の技術力を集結させて、これを建設中です。
中国の圧倒的なプロジェクト推進力により、実は私たちが知らないうちに、このBESTの建設はかなり進んでいます。このまま順調に進めば、2030年までに核融合発電を実証するとのこと。
詳しくは、以下のXの投稿から引用元の記事情報を読んでみてください。
先日もお知らせしました、中国の
— 核融合の先生(尾関 秀将 H. Ozeki) (@fusion_teacher) November 26, 2025
核融合反応を利用した発電実証のための
トカマク型方式による実験装置「BEST」ですが
11/24に、この装置がある中国安徽省の合肥市
BEST装置ホールにて正式に計画が始動し、
研究計画が世界に向けて発表されたようです。
(図は自動翻訳)https://t.co/uFyp0a3oR0 pic.twitter.com/A3jnpEFaYr
これまで表に出てこなかった、
— 核融合の先生(尾関 秀将 H. Ozeki) (@fusion_teacher) November 17, 2025
中国の核融合発電実証炉「BEST」の情報が公開か
この炉は商用発電所より一回り小さいですが、まず発電できるか世界に示す狙い
中国での核融合安全規制状況や機器品質が貿易に通じるレベルはわかりませんが、政府主導の計画履行力はやはり強いhttps://t.co/uvqxyEM5h6
中国の核融合スタートアップの資金力
先ほども述べたように、中国の核融合スタートアップの情報はなかなか入って来ませんが、
一方でかなりの投資額を獲得している企業があるのも事実です。例えば先ほどから以下の3社の名前が登場していますが、
- China Fusion Energy Co. Ltd
- NEO Fusion
- ENN Science and Technology Development
この中でもChina Fusion Energy(中国名;中国聚変能源有限公司)は、設立と同時にいきなり3000億円の資金を獲得している。(以下のXの投稿から、引用元の記事の情報を参照。)
情報が少ないものの、今後も中国発核融合スタートアップの動向には注目する必要がある。
いきなり資本3000億円(0.3兆円)は
— 核融合の先生(尾関 秀将 H. Ozeki) (@fusion_teacher) July 25, 2025
業界ではとんでもスケール
2025年に入り兆円核融合プロジェクトが増えてます
このニュースの着目点は
①パイロット実験炉
②デモンストレーション炉
③商業炉
の3ステップを踏むところ
つまり似たものを3回作るので、
早期に参入できた企業はチャンスです https://t.co/WYbKMpIoJN

英国のプロジェクト

英国は、「STEP」という上の図のような球状トカマク型核融合炉建設の、政府系プロジェクトを推し進めているところです。
STEPを知らないという方は、まず以下の記事を読んでください。

さて、英国の核融合政策や、英国を代表する核融合スタートアップ「Tokamak Energy」社について最近、
JETRO:日本貿易振興機構が以下の市場分析レポートを公開しました。

核融合に関する英国の取組を俯瞰できるので、英国の事情を知らない方はこのレポートもさっとも読んでみてください。
そしてこのレポートによると、
(英国は、)2025年1月16日には、フュージョンエネルギー研究および国際協力のための過去最大規模となる4億1,000万ポンド(約840億5,000万円、1ポンド=約205円)の投資(2025年~2026年)を決定した。
また、同年6月にフュージョンエネルギー分野の研究開発に、5年間で25億ポンド(約5,125億円、1ポンド=約205円)を投資することを決定した。
5000億円=0.5兆円ということで、核融合に対する英国の本気度合いが伺えます。
ドイツのスタートアップと国策
ドイツもまた、核融合を国策の1つに位置付け、官民が注力している先進国の1つです。
他の先進国と異なり、「トカマク型」ではなく「ヘリカル型」や「レーザー方式」に注力しているという国としての特徴があります。
また、2025年の終盤に、核融合政策に関する動きが見られました。
ドイツの核融合スタートアップ
先程紹介した米国の状況のところで、高額投資獲得企業をよく見てみると、実はドイツにも多くの核融合スタートアップが存在することがわかります。
- Marvel Fusion (独・レーザー核融合)
- Focused Energy (独・レーザー核融合)
- Proxima Fusion (独・モジュラーコイル先進ヘリカル型磁場閉じ込め)
- GAUSS FUSION (独・モジュラーコイル先進ヘリカル型磁場閉じ込め)
特にドイツが推進しているのが、レーザー核融合、及び、モジュラーコイル先進ヘリカル型磁場閉じ込め方式とわかります。後者に関しては、ドイツにある世界でも有名なモジュラーコイル先進ヘリカル型実験装置「Wendelstein 7-X」が、良い実験結果を創出していることも関連しているでしょう。
GAUSS FUSIONは特に、「GIGA」という、欧州初となる商用核融合発電所の完全な概念設計報告書(Conceptual Design Report, CDR)を2025年10月に発表しています。

ドイツの核融合国策
以下のJETROの記事によれば、以下のような巨額の政府資金を核融合に投じる計画を最近発表しています。
ドイツ連邦政府は2025年10月1日、核融合発電の実現に向けた行動計画(Fusion Action Plan)「核融合発電所への道」を閣議決定。
ドイツを核融合分野での先導的なイノベーションの拠点にすることを目指し、2029年までに研究支援や研究ネットワークの整備などに20億ユーロ超(1ユーロを180円とおけば、3600億円超)を投じる。
日本国内の状況
日本の状況については、政策の観点も含め、別の記事で紹介したいと思います。
日本では今年2025年の6月に、核融合国家戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が改訂されました。

また、科学技術担当大臣時代に元々、核融合の政策を推し進めて下さった高市早苗氏が10月から内閣総理大臣に着任され、早くも様々な核融合推進政策を打ち出されおります。日本での期待感もさらに高まりつつあることは間違いありません。









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