あのビル・ゲイツも投資!Commonwealth Fusion Systemsを解説
この記事では、核融合スタートアップの中でも世界トップの投資資金調達額をほこる、Commonwealth Fusion Systemsについて解説します。
Commonwealth Fusion Systemsは、コモンウェルス・フュージョン・システムズと読みます。よく「CFS」と略されています。
この企業は、全世界の核融合スタートアップの中でも、核融合炉の実現に最も近い企業の1つと言われています。また最近(2024年4月現在)では、投資などによる資金調達額が世界トップと報道されました。
このコモンウェルス・フュージョン・システムズが、一体どのような取り組みを行っているのか。この記事で、概要を解説したいと思います。
Commonwealth Fusion Systemsの概要
Commonwealth Fusion Systems:コモンウェルス・フュージョン・システムズとは、MIT:マサチューセッツ工科大学からスピンオフした、米国最大規模の核融合スタートアップ企業です。
この企業は、コンパクトなトカマク型核融合炉による核融合発電の実現に向けて取り組んでいます。
Commonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ) | |
会社規模 | 社員 501名以上 |
本社 | Devens, Massachusetts, USA |
CEO | Bob Mumgaard |
創立 | 2018年 |
ホームページ | https://cfs.energy/ |
上記は、米国のFusion Industry Associationが発行した「2023 Global Fusion Industry Report」に掲載されているCFSの情報です。
2023 Global Fusion Industry Report ➤ https://www.fusionindustryassociation.org/fusion-industry-reports/
また、ご参考までに、以下はCFSのWikipediaとLinkedInへのリンクです。
Commonwealth Fusion SystemsはMITからのスピンオフ
MIT:マサチューセッツ工科大学は、工学系では世界No.1と言われているアメリカの大学です。場所はアメリカ東海岸の都市ボストンのお隣にあります。
2018年に、MITのプラズマ科学および核融合センターのスピンオフとして設立されたCFS。この企業は、核融合発電炉の実現と、超伝導の中でも高温超伝導(HTS)マグネットの開発に取り組んでいます。
コンパクトなトカマク型核融合炉に挑戦
コモンウェルス・フュージョン・システムズは、独自設計のコンパクトなトカマク型核融合発電炉の建設を目指しています。
トカマク型核融合炉とは、国際熱核融合実験炉ITER(イーター)でも採用されている核融合炉の方式です。トカマク型は、他の方式と比較して世界中で研究が活発に行われてきた方式であり、その分だけ実験実績が蓄積され、またプラズマ挙動の解明もかなり行われてきました。
一方で、その蓄積研究データに基づくと、どうしても炉のサイズを大きくする必要があります。(例えば、ITERの炉心は直径30mの円ほどになります。)これは、核融合プラズマの長時間生成と、トカマク型核融合炉の炉心構造の観点から、炉が大きめのサイズの設計になってしまうのです。そうなると、核融合炉に使う材料の物量が増えてしまい、建設コストが嵩みます。
そこで、トカマクという方式を維持したまま、コンパクトに設計を変更しても核融合プラズマを長時間生成できれば、大きなブレイクスルーとなります。その1つのアプローチ手法として、従来よりも強力な磁場を発生させられる超伝導コイルを開発し、プラズマをコンパクトに閉じ込めるという考え方があります。コモンウェルス・フュージョン・システムズは、このような研究開発に自社で取り組んでいるのです。
これについては、後ほどもう少し詳しく解説します。
球状トカマクとは異なる
なお、コモンウェルス・フュージョン・システムズ社のアプローチは、コンパクトなトカマク型核融合炉による核融合発電の実証ではありますが、球状トカマクと呼ばれるタイプではないことに注意してください。
球状トカマク型については、以下の記事で解説しております。興味があればどうぞ。
MITにはトカマク型装置の運用実績がある(Alcator C-Mod)
先程、コモンウェルス・フュージョン・システムズはMITからスピンオフした企業と説明しました。このMITですが、実はこの大学に1基、トカマク型のプラズマ実験装置が存在しました。
Alcator C-Mod tokamak (アルカトール・シー・モド・トカマク)と呼ばれる装置です。
この装置の特徴としては、他のトカマクと比較して、強磁場かつコンパクトな設計となっています。そして、磁場閉じ込め方式の中でも、最高プラズマ圧力を記録した装置でもあります。
(C-Mod holds the record for highest volume average plasma pressure in a magnetic confinement device.)
また、「ダイバータ」と呼ばれるプラズマ排気構造部に関する実験も、積極的に行われていました。
この装置は、2016年の9月で運用が停止。しかしそれまでに、教授・研究者・学生・エンジニア・技術からなる100人以上のチームで運用がなされてきました。そういった実績が、CFSでの研究開発体制に引き継がれているのだと思います。
世界一の資金調達額をほこるCommonwealth Fusion Systems
コモンウェルス・フュージョン・システムズ社は、世界の核融合スタートアップ企業の中でも、資金調達額がトップの会社です。
2024年4月の日本経済新聞掲載の表によると、その調達額は20億ドル超であると言います。すなわち、日本円(1ドル=150円として)にして3000億円以上となります。
投資した企業やファンド、著名人は一体どんな社あるいは方々なのか。以下のリンク先に、2021年12月時点の記事となりますが、18億ドルの調達をCommonwealth Fusion Systems社が達成した際の投資家情報が掲載されています。
Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏や、既に皆さんご存じの大企業Googleを含め、数十にも及ぶ投資家が名を連ねています。
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CFSの核融合開発ステップは?2035年核融合発電実現を目指して
ここからは、コモンウェルス・フュージョン・システムズ社がどのようなステップで核融合発電の実現を目指しているのかを紹介していきます。
結論から言うと、次のようなステップで核融合発電の商用化を目指しているようです。
ステップ | CFSのプロジェクト内容 | 状況 |
---|---|---|
Step. 1 | Alcator C-Mod tokamakでのプラズマ基礎物理実験 | 終了 |
Step. 2 | 高温超伝導体を利用したトカマク装置用コイルの製作と実証 | 終了 |
Step. 3 | SPARCというトカマク装置による核融合エネルギーのブレークイーブン実証 | 2024年現在建設進行中 |
Step. 4 | ARCというトカマク装置による核融合発電の商用化 | 2025年プロジェクト始動予定? |
なお、2021年12月時点でのCommonwealth Fusion Systems社の計画について、以下の画像のように言及がありました。
これによると、2030年代前半、つまり2035年より前には核融合発電の商用炉であるARCを完成させたいと考えているようです。
SPARC: 核融合エネルギーのブレークイーブンの実証炉
最後に、コモンウェルス・フュージョン・システムズ社の2大プロジェクトである「SPARC」と「ARC」について概要を簡単に解説します。
まずはSPARC(:スパーク)トカマク装置についてです。
SPARC:Soonest/Smallest Private-funded Affordable Robust Compactの頭文字を取っているようです。正式な日本語訳がうまく見つけられませんでしたが、「民間投資による、最も早く実現できる、堅牢でコンパクトかつコスト面でも受け入れられる設計の」といったような意味だと思われます。
SPARCは、Devens, Massachusetts, USAに現在建設中のトカマク型実験装置です。
SPARCの目的は、主に次の2点を達成することです。
- 高温超伝導体を使ったコイルを用いて、従来のトカマク型装置よりも強い磁場を発生させ、プラズマをコンパクトに閉じ込めて核融合反応を起こすこと。
- トカマク型装置のような磁場閉じ込め方式の装置において、核融合を起こすために装置に投入したエネルギーよりも、より多くの核融合反応エネルギーを得ること。(「Breakeven:ブレークイーブンの達成」や、「エネルギー増倍率Q>1」などとも言われます。)
トカマク型装置ではブレークイーブンの達成はまだ
特に②に関しては、実はトカマク型方式では2024年4月現在、達成されたことはありません。(レーザー核融合方式では、ブレークイーブンは近年実証されています。以下のニュース記事をご参照。)
そのため、まずはこの世界初の試みを「SPARC」で達成してから、次のステップである「ARC」プロジェクトに進むことが計画されています。
この実験のため、つまり核融合反応を実際に起こしてエネルギーを得るために、SPARCでは重水素と三重水素(トリチウム)という核融合燃料を実際に使った実験が行われる予定です。
SPARCの建設状況
SPARCの建設は想像以上に進んでいます。Commonwealth Fusion Systemsのホームページ上では建設の進捗はそこまでよく見えないのですが、実はSNSやYouTubeでは積極的に公開しています。
特にLinkedInでは、最新の建設状況から採用情報まで掲載されていますので、興味がある方は是非フォローしてみてください。
SPARC参考文献
CFSホームページ上で公開されている参考文献集: Publications | Commonwealth Fusion Systems (cfs.energy)
また、2024年3月には、CFSとMITによる高温超伝導材料を使用した斬新な設計のコイルに関する論文が、IEEE Transactions on Applied Superconductivityに掲載されました。この論文をまとめる過程で培われた高温超伝導コイルの知見は、SPARC用コイルの製造に生かされています。
CFSの高温超伝導コイルに関する論文・記事
論文: IEEE Transactions on Applied Superconductivity, SPARC TFMC Special Section
記事① CFS-MIT High-Field Magnet Technology for Commercial Fusion Experimentally Validated
記事② Tests show high-temperature superconducting magnets are ready for fusion | MIT News
関連: 株式会社フジクラ | 米国CFS社にレアアース系高温超電導線材を納入、生産能力を拡大(fujikura.co.jp)
ARC:核融合発電の商用化
次にARC(:アーク)トカマク装置についてです。
ARC:Affordable, Robust, Compactの頭文字を取っているようです。正式な日本語訳がうまく見つけられませんでしたが、「堅牢でコンパクトかつコスト面でも受け入れられる設計の」といったような意味だと思われます。
ARCは、実際に核融合反応から生じるエネルギーを電気に変換して、数百メガワットの電力を送配電網に供給する装置として計画されています。
ARCの設計に関する情報は、Commonwealth Fusion Systems社のホームページには掲載されておらず、一部の学会や論文誌などでコンセプト的な設計が紹介されるに留まっているようです。
CFSのARC紹介ページへのリンク: Technology | Commonwealth Fusion Systems (cfs.energy)
ARCに関するWikipediaへのリンク(参考まで): ARC fusion reactor – Wikipedia
SPARCやARCに関するさらに詳細な情報については、別の記事等の形式で今後紹介したいと思います。
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