「核融合」から「フュージョンエネルギー」へ…日本では新しい呼び方へ移行
この記事では、「フュージョンエネルギー」という「核融合」の日本での新しい呼び方について解説します。
最近、フュージョンエネルギーという言葉を聞いたことはないでしょうか?実は、これは「核融合エネルギー」と同じ意味です。
なぜ、横文字で呼ばれることが増えてきているのでしょうか?実は、政府主導で呼び方を変えようとしている背景があるのです。
この記事では、「核融合」が「フュージョンエネルギー」と呼ばれつつある背景について紹介したいと思います。
フュージョンエネルギー=核融合エネルギーとは?
フュージョンエネルギーとは、「核融合反応」が起きたときに生じるエネルギーのことを指します。
核融合反応とは、水素などの軽い原子たちの「原子核」同士が衝突し融合して、ヘリウムなどの別の原子核に変わる反応です。
原子とは?原子核とは?
核融合反応とは?
どんな種類の原子も、原子核はプラスの電気を持っています。プラスの電気同士は、磁石のN極同士またはS極同士のように反発します。そのため、地球上の自然界(私たちの生活環境)のように、普通の環境では原子核同士が衝突して融合することはありません。
ですが、太陽の中心部では水素の核融合反応が起きています。非常に高い温度・密度の下では、プラスの電気の反発力に打ち勝って、原子核同士が衝突する核融合反応が起こるようになるのです。
そして、例えば1グラムの水素が核融合するとき、8トンの石油が燃えるときと同じくらいの莫大なエネルギーが発生します。これをフュージョンエネルギーと呼びます。
さらに詳しくは、以下の「核融合とは?」「核融合の条件」に関する記事を読んでみてください。
フュージョンエネルギー…日本初の核融合国家戦略が言及
実は、核融合エネルギーのことがフュージョンエネルギーと呼ばれるようになった経緯は、2023年4月に遡ります。(比較的最近の話。)このとき、日本政府により策定された、日本の歴史上初の核融合国家戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が了承されました。(以下が戦略文章へのリンク):
https://www8.cao.go.jp/cstp/fusion/fusion_senryaku.pdf
これについては、以下の核融合国家戦略の記事でも紹介しています。
この核融合戦略の冒頭で、次のような記述があります。
核融合は核分裂との原理の相違に起因する特徴(固有の安全性や環境保全性等)を有することや、近年、英国や米国においては学術用語としての“Nuclear fusion(ニュークリア フュージョン)”をエネルギー分野では “Fusion(フュージョン)”と呼称していること等を踏まえ、核分裂との混同等の疑問に対して丁寧な説明で理解を得つつ、本戦略では、核融合エネルギーをフュージョンエネルギーと表現する。
★ フュージョンエネルギー・イノベーション戦略 本文より引用(cao.go.jp)
この引用から察するに、先生としては次の2点が意識されているように感じました。
- 「核」という言葉からの脱却
- 日本として、他国への核融合関連技術の輸出を狙う(既に始まっているが)
確かに「核」が付くと、例え兵器に流用できない技術であったとしても、人によっては危険と連想させてしまう可能性があります。また、日本の核融合関連技術は今後、他国へ輸出していく可能性があるため、カタカナの呼称の認知を高めようとする取り組みが、政府によって進められていると考えられます。
国立の核融合研究所も、「フュージョンエネルギー」
「フュージョンエネルギー」という呼び方が政府によって広められるようになってから、早速影響を受けたのは、国の研究機関です。
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)の主たる核融合関連研究所である那珂市の研究所。この研究所は、2024年4月1日より、「那珂フュージョン科学技術研究所」と名称が変更になったのです。(なお、青森県六ケ所村にある同機構の研究所も改名され、「六ヶ所フュージョンエネルギー研究所」となりました。)
4月1日のだったので、エイプリルフールだから?ウソかと一瞬疑うほどの一大名称変更でした。なぜなら、歴史的に紡がれてきた「核融合」という文字が完全に消え、「フュージョン」という横文字が採用されたのですから。そしてもちろん、ウソではなく本当に名称が変更されています。
民間企業でも、「フュージョン」の呼称が
「フュージョン」という呼び方は、既に産業界でも使われ始めています。
例えば、日本のEX-Fusion社は、レーザー核融合発電炉の実現を目指す企業です。
そして、最近のプレスリリースの記事では、レーザー核融合炉ではなく「レーザーフュージョン炉」という言い方を採用しています。
また、2024年3月に日本の核融合の産業協議会が設立されました。この産業協議会の名称も、「フュージョンエネルギー産業協議会」となっています。
このように、かなり早いスピードで、フュージョンエネルギーという呼ばれ方が日本の産業界でも普及しています。
「フュージョンエネルギー」の呼称の使い方
このように、「フュージョンエネルギー」という呼ばれ方がこれから日本で浸透していくと考えられます。ただ、まだ理解しにくい・文章の中で使いづらい言葉だと思います。
そこで最後に、既に政府の資料や核融合スタートアップ企業等のプレスリリースなどで書かれている、「フュージョン」という言葉の使われ方の例を紹介して終わりにしたいと思います。
以下、左側は「フュージョン」を用いた表現 ➤ 右側は「核融合」を用いた表現(:あくまで、「核融合の先生」管理人の解釈です。)
政府のフュージョンエネルギー・イノベーション戦略より
- フュージョン ➤ 核融合
- フュージョンエネルギー ➤ 核融合エネルギー (広義には、「核融合発電」の意味も含む)
- フュージョンスタートアップ ➤ 核融合スタートアップ
- フュージョンテクノロジー ➤ 核融合技術
- フュージョンインダストリー ➤ 核融合産業
EX-Fusion社のプレスリリースより
- フュージョン炉 ➤ 核融合炉
- フュージョン反応 ➤ 核融合反応
- レーザーフュージョン ➤ レーザー核融合
- レーザーフュージョン炉 ➤ レーザー核融合炉
- フュージョン燃料 ➤ 核融合燃料
- フュージョン研究開発 ➤ 核融合研究開発
京都フュージョニアリングのホームページより
- フュージョンエネルギープラント機器 ➤ 核融合エネルギープラント機器
- トカマク型のフュージョンエネルギー炉 ➤ トカマク型の核融合エネルギー炉
- フュージョンエネルギー開発 ➤ 核融合エネルギー開発
- フュージョンエネルギー研究機関 ➤ 核融合エネルギー研究開発
- フュージョンエネルギーの社会実装 ➤ 核融合エネルギーの社会実装
J-Fusion: フュージョンエネルギー産業協議会のホームページより
- フュージョンエネルギー産業 ➤ 核融合エネルギー産業
- フュージョンエネルギービジネス ➤ 核融合エネルギービジネス
- フュージョンエネルギー団体 ➤ 核融合エネルギー団体
核融合の先生のホームページはどうしようか…
このサイトも、フュージョンを使って名称変更しないとかなぁと考え中です…🗿笑
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