フュージョンエネルギー・スタートアップの企業運営方針に迫る

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先に 核融合Q&A-1~5 までを読んで頂くと、記事の理解が早まるのでオススメです

フュージョンエネルギー・スタートアップにおける企業運営の考え方とは?

この記事では、2020年代に入り増加している核融合発電(:フュージョンエネルギー)のスタートアップにおいて、どのような企業運営の方針が取られているのか?という点に絞って解説していきます。

フュージョンエネルギー・スタートアップの場合、大学や国立研究所のように国の予算ではなく、私的資金や投資を主な活動費にします。そのため、研究開発の進め方が、スピード感を含めて、公的研究機関とは大きく異なってくるのです。

では、どのような企業運営の方針を取っているのか?フュージョンエネルギー・スタートアップの考え方について、この記事で迫りたいと思います。

なお、本記事の執筆に当たり、以下の論文を参考にさせて頂きましたので、ご紹介します。

企業(フュージョンエネルギー・スタートアップ)による核融合研究の最近の動向

☝ 本記事の参考論文: 「小特集 企業による核融合研究の最近の動向」 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.93, No.1 January 2017

目次

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歴史ある米国のフュージョンエネルギー・スタートアップ「TAE 」社を題材に

さて、この記事では、先ほど紹介した参考論文でも取り上げられている、TAE Technologies社の企業運営方針について紹介していきます。厳密に言えば、TAEの Chief Science Officerを担当されている田島俊樹氏が、この論文の中でTAE社がどのような哲学で歩んできたかを解説されているため、その要点をお伝えしたいと思います。

TAE Technologies | Fusion Power ...
A look at TAE Chief Science Officer Toshiki Tajima’s life - TAE Technologies | Fusion Power Clean En... Long before he became TAE’s Chief Science Officer and an award-winning pioneer in the field of fusion energy, Dr. Toshiki Tajima was a young scientist studying ...

TAE Technologies社の成り立ち

フュージョンエネルギー・スタートアップTAE Technologies
TAE Technologies社ホームページ 画像引用元:https://tae.com/fusion-power/

1998年に設立されたTAE Technologies社は、フュージョンエネルギー・スタートアップの中でも歴史がある企業です。1998年に国(米国)からの研究資金を諦め、私的資金に切り替えたところから、この会社が始まったとあります。

2010年代後半以降からフュージョンエネルギー・スタートアップは爆発的に増加しましたが、そのような近年の活況の中で、TAE社はフュージョンエネルギー・スタートアップの先駆者とも言えるでしょう。 

TAE社の特徴

TAEのFCR型核融合実験装置Normanのプラズマ
TAE Technologiesが保有する「Norman」というFRC型プラズマ実験装置の炉心モデル図(画像引用元: https://tae.com/digital-press-kit/photos/

核融合向けの実験装置としては、磁場閉じ込め方式の中でも「直線型」に分類される装置で、FRCと呼ばれるプラズマの研究開発を進めています。将来的には、水素とホウ素を燃料にした、「中性子が発生しない核融合発電」を目指しており、その核融合反応時に発生するアルファ粒子(:ヘリウム)3つにちなんで、TAE: Tri Alpha Energy(トライ・アルファ・エナジー)と社名が名付けられました。

なお、上記の説明に関連する記事を、以下にご紹介します。

ではこれ以降から、フュージョンエネルギー・スタートアップの運営の考え方について解説していきます。

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Fail Fast「早く失敗せよ」

スタートアップとしての活動が始まり、研究活動が公的資金頼りから私的資金を用いたものに変わった時点で、研究の姿勢は大きく変わります。

通常、大学や国立研究機関などアカデミアで公的資金を獲得していくためには、論文の出版(publish)数が重視されます。逆に言えば、Publish or Perish:「出版せねばくび」という考え方なのです。

一方で、核融合発電のように大きな最終目標の実現に向かって、私的資金で研究開発を進めるスタートアップアップの場合、Time is Money:「時は金なり」と考える必要があります。文字通り、研究開発に時間がかかればかかるほど、私的資金が枯渇していきます。そのため、「事業が死んでしまわないように、死に物狂いで働き早いサイクルで知恵を出していく」と、先ほど紹介した論文では表現されています。

リスクが高い問題から解決する

そして、こういったスタートアップの場合、最も失敗リスクの高い技術的な問題から解決に取り組みますなぜなら、もし解決できず、その方式では核融合発電が実現できないとわかれば、そこで研究開発をストップできます。それにより、その先の投資が必要無いとわかり、無駄な資金投入が最小化されるのです。

つまり、Fail Fast「(失敗するなら)早く失敗せよ」との考え方の下で、大きな問題ほど先送りせず早期に結論を出すことが、私的資金運営のフュージョンエネルギー・スタートアップには重要なのです。


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End in Mind「出口から遡れ」

アカデミックな基礎研究活動の場合、現在までに到達できている性能を、さらに高めるブレイクスルーを狙うことが多いです。つまり、「現時点で世界一の研究成果記録を、塗り替えよう」とチャレンジするのです。そして、得られた研究成果を以て、実用化・社会実装を目指すステップに移ります。

一方、私的資金で運営するフュージョンエネルギー・スタートアップは、出口を見極めて、そこに到達する戦略を立てて活動します。

例えばTAE社の場合、「核融合発電炉」の実現を出口に考える中で、核融合反応用燃料に水素-ホウ素(p11B)を使用する選択をしています。TAE以外の数多くのフュージョンエネルギー・スタートアップが、重水素-三重水素(DT)を燃料とした核融合発電を狙う中で、です。

核融合反応用燃料の違いと物理実現的ハードルの関係については、具体的には以下の記事を参照してください。ここでは要点だけ端的に説明すると、TAE社が目指す水素-ホウ素燃料による核融合反応を起こすためには、重水素-三重水素を燃料とする場合よりもはるかに高い温度を作り出すことが必要になります。物理的に実現のハードルが高い選択を、TAE社はしているということになります。

将来の核融合発電炉を見据えたTAE社の戦略

ではなぜTAE社は、物理的に実現のハードルが高い選択をするのでしょうか。

それは、この「物理的には高いハードル」さえ超えれば、核融合発電炉の実現の「工学的なハードルがかなり下がる」ためです。

TAE社が目指す水素-ホウ素燃料による核融合反応では、放射線である中性子の発生がありません。(重水素-三重水素燃料の場合は、中性子が発生する。)

放射線が出ない反応ということは、その分危険管理のハードルも下がるため、核融合発電所全体としての設計がしやすくなるし、コンパクト化にもつながります。そうなれば建設費も下がってきます。このように、工学的なハードルが下がるのです。

つまりTAE社は、核融合発電炉の実現と言う「出口」を考えたときに、物理的には困難だが後々の工学的なハードルが低いという観点から遡って、水素-ホウ素燃料の利用を選択したという訳です。これが、End in Mind 「出口から遡れ」という考え方です。

参考 最近のTAE社の成果

先ほど、TAE社が目指す水素-ホウ素燃料による核融合反応は、必要な温度が高く物理的なハードルが高いと説明しました。しかし、研究は確実に進展しています。

直近では2023年に、TAE社は日本の核融合科学研究所(NIFS)と共同研究を実施。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)において、磁場で閉じ込めたプラズマ中での軽水素とホウ素11の核融合反応を世界で初めて実証しました。以下の図も参照してください(画像はタップで拡大できます)。

この成果をきっかけに、今後もこの燃料による核融合の研究の進展が期待されています。

TAE社とNIFSによる水素とホウ素を燃料とした核融合実験
プレスリリース記事「軽水素とホウ素11の核融合反応を世界で初めて実証」 画像引用元: https://www.nifs.ac.jp/news/researches/230309-01.html

Social Impact「利潤と社会貢献」

私的資金研究では,究極的に投資に見合う利潤を挙げる事業でなければなりません。そのため、先ほど紹介した出口戦略を考えたときに、影響が小さい寄り道的な研究はさっと通り過ごし、出口=核融合発電実現のための本質解決の研究に突進する必要があります。

一方で、核融合発電の実現が単なる金儲けの道ではなく、社会貢献事業であることを提案していく活動も必要であると、フュージョンエネルギー・スタートアップでは考えます。核融合発電の実現を、人類存亡を問う気候変動等への対策手段として投資家などへ提案することで、その投資が単なるマネーゲームではなく国際社会への貢献にもつながる点を訴求します。 

これによって継続的な投資を受けられれば、フュージョンエネルギー・スタートアップの活動を継続していくことができますし、その投資家の社会的地位も高まるという、Win-Winな形を目指します。

まとめると、フュージョンエネルギー・スタートアップは、Social Impact「利潤と社会貢献」を追求した事業を目指す必要があると考えるのです。

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Low Lying Fruits「易しく手に入る果実:開発技術の派生活用」

将来の核融合発電炉は、超伝導コイルやレーザー装置など、高度な技術の集積体となります。従って、それらの技術開発もフュージョンエネルギー・スタートアップは行っていくわけですが、それと同時に「開発した技術を核融合以外の分野でも使えないか」も検討します。

例えば、核融合炉用超伝導コイルの新しい技術を開発したならば、医療用MRIや研究用加速器など、他分野にも適用できる道があるかもしれません。そして、その事業展開により、利益を得られる可能性があります。

Tokamak Energy社の例

例えば、イギリスの代表的なフュージョンエネルギー・スタートアップである「Tokamak Energy」社は、球状トカマクという方式でコンパクトな核融合発電炉の実現を目指しつつも、自社で「高温超伝導(HTS)コイル」という先進的な超伝導コイルを開発できることをアピールしています。これは、この会社のホームページを見に行けば分かりますが、開発技術の転用を睨む良例と言えます。

フュージョンエネルギー・スタートアップTokamak Energy社
Tokamak Energy社 画像引用元: https://tokamakenergy.com/our-fusion-energy-and-hts-technology/

これが、見出しにあるLow Lying Fruits「易しく手に入る果実」:核融合向けに開発した技術を、他分野でも派生活用できないかを検討していくということなのです。

◆フュージョンエネルギー・スタートアップにおける企業運営の考え方 まとめ◆

  1. Fail Fast「(失敗するなら)早く失敗せよ」
  2. End in Mind 「出口から遡れ」
  3. Social Impact「利潤と社会貢献」
  4. Low Lying Fruits「易しく手に入る果実:開発技術の派生活用

このような視点があることを意識して日々のニュース記事を読むと、フュージョンエネルギー・スタートアップの活動に対する理解がより一層深まるのではないかと思います。

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